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入籍
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役所の入口で、美姫と大和は待ち構えていた報道陣に囲まれた。どこからか、入籍の情報が漏れたらしい。
「これから、入籍されると聞いたのですが」
「来栖家には、婿養子に入るんですか」
「来栖財閥の後継者としてのこれからの抱負をお聞かせ下さい」
「美姫さんは、来栖秀一さんには入籍のことはもう報告されましたか」
矢継ぎ早に質問する彼らを前に、美姫の全身が竦んだ。
大和が、美姫を庇うようにして前に出た。
「えぇ、これから二人で婚姻届を出すところです。役所に来ている他の方の迷惑になりますので、どうか外で待っていて頂けますか。
書類を申請後、インタビューに答えますので」
きびきびと答えると、美姫の背中に手を回して入口へと誘導した。
騒ぎに気付いた役所の人間が入れ替わりに出てきて、報道陣に中へは入らないようにと説明してくれた。
安堵の息を吐いた美姫に、大和が申し訳なさそうに謝った。
「ごめんな。この後、取材に答えないといけないけど......大丈夫か?」
美姫はまだ躰の強張りは完全に抜けていないものの、笑みを見せた。
「うん。ありがとう、大丈夫だよ」
いつまでも逃げてちゃいけない。怯えていては、前に進むことが出来ない。
これから私たちは、来栖財閥を引っ張っていく為にマスコミにも顔を見せていく必要があるんだから。
少し震えている美姫の手を、大和が握り締めた。大和の思いが伝わり、美姫はその手を握り返した。
大和はまず養子縁組届を提出してから、婚姻届を渡した。受け取った事務員は全て確認終えると、顔を上げた。
「はい、ではこちらで間違いなく受理しておきます。
ご結婚、おめでとうございます。名字が変更になることで免許証や銀行口座、クレジットカードなどの名前も変更することになるので、住民票変更もしておくといいですよ」
大和の隣で話を聞いていた美姫も、緊張しながら頷いた。
そっか。今日から大和は、「羽鳥大和」から「来栖大和」になるんだ......
「ありがとうございます」
大和は軽く頭を下げ、住民票変更の手続きに向かう。その後ろ姿を見ながら、美姫は自分たちが夫婦になったのだという実感が少しずつ湧いてきた。
役所を出ると、いきなりたくさんのフラッシュを浴びせられた。待ち構えていた報道陣が、ふたりをわっと取り囲む。約束通り待っていてくれたのだから、取材を拒否することなど出来ない。
『おめでとうございます』
口々にお祝いの言葉を述べながら、質問される。
「入籍したお気持ちはどうですか?」
「結婚式はいつの予定ですか?」
大和が躰を固くする美姫の肩を抱いた。
「本日、無事に入籍を済ませることが出来ました。そして、私は来栖家の婿養子として迎え入れられました。これからは、美姫さんと力を合わせて来栖財閥を支えていく所存です。どうか、未熟な二人ですが温かく見守って下さると嬉しいです」
そう言った後、立ち去ろうとするが、もちろんマスコミがそれで終わらせるはずない。
「来栖秀一さんには、入籍の報告はされたのですか。なんと言っていましたか」
「現在、ウィーンでの彼の行方も分からなくなっていますが、美姫さんはご存知ですか」
「来栖秀一さんとは、本当に何もなかったのですか」
やはりマスコミが聞きたいのは秀一のことで、質問はそれに集中する。美姫は大和の後ろで小さく震えた。
大和が美姫を庇うようにして、報道陣の前に出る。
「大変申し訳ないのですが、私たちも来栖秀一氏の居所については分かっておりません」
そう言ったところで、納得するはずがない。
「本当は、知ってるんじゃないんですか!?」
「一部では、あなたと美姫さんとは偽装結婚なんじゃないかって声も出てるんですが!」
「羽鳥家が来栖財閥を乗っ取ろうとしてるとの噂も聞いていますが、どうなんですか!」
更にマスコミの質問が過熱し、興奮しながら前に進み出る。
その時、一台のリムジンが美姫と大和の側に横付けされた。
「乗りなさい」
「お、お袋......」
窓から声を掛けたのは、大和の母、京香だった。誠一郎の病院には現れなかったのに、いきなり区役所に来たことに大和は驚き、思わず固まった。
京香の運転手が後部座席の扉を開くと、その後ろから京香が顔を出した。
「早くしないと、また報道陣に囲まれるわよ」
ハッとし、大和は美姫の手を取った。
「行くぞ」
「う、うん......」
「これから、入籍されると聞いたのですが」
「来栖家には、婿養子に入るんですか」
「来栖財閥の後継者としてのこれからの抱負をお聞かせ下さい」
「美姫さんは、来栖秀一さんには入籍のことはもう報告されましたか」
矢継ぎ早に質問する彼らを前に、美姫の全身が竦んだ。
大和が、美姫を庇うようにして前に出た。
「えぇ、これから二人で婚姻届を出すところです。役所に来ている他の方の迷惑になりますので、どうか外で待っていて頂けますか。
書類を申請後、インタビューに答えますので」
きびきびと答えると、美姫の背中に手を回して入口へと誘導した。
騒ぎに気付いた役所の人間が入れ替わりに出てきて、報道陣に中へは入らないようにと説明してくれた。
安堵の息を吐いた美姫に、大和が申し訳なさそうに謝った。
「ごめんな。この後、取材に答えないといけないけど......大丈夫か?」
美姫はまだ躰の強張りは完全に抜けていないものの、笑みを見せた。
「うん。ありがとう、大丈夫だよ」
いつまでも逃げてちゃいけない。怯えていては、前に進むことが出来ない。
これから私たちは、来栖財閥を引っ張っていく為にマスコミにも顔を見せていく必要があるんだから。
少し震えている美姫の手を、大和が握り締めた。大和の思いが伝わり、美姫はその手を握り返した。
大和はまず養子縁組届を提出してから、婚姻届を渡した。受け取った事務員は全て確認終えると、顔を上げた。
「はい、ではこちらで間違いなく受理しておきます。
ご結婚、おめでとうございます。名字が変更になることで免許証や銀行口座、クレジットカードなどの名前も変更することになるので、住民票変更もしておくといいですよ」
大和の隣で話を聞いていた美姫も、緊張しながら頷いた。
そっか。今日から大和は、「羽鳥大和」から「来栖大和」になるんだ......
「ありがとうございます」
大和は軽く頭を下げ、住民票変更の手続きに向かう。その後ろ姿を見ながら、美姫は自分たちが夫婦になったのだという実感が少しずつ湧いてきた。
役所を出ると、いきなりたくさんのフラッシュを浴びせられた。待ち構えていた報道陣が、ふたりをわっと取り囲む。約束通り待っていてくれたのだから、取材を拒否することなど出来ない。
『おめでとうございます』
口々にお祝いの言葉を述べながら、質問される。
「入籍したお気持ちはどうですか?」
「結婚式はいつの予定ですか?」
大和が躰を固くする美姫の肩を抱いた。
「本日、無事に入籍を済ませることが出来ました。そして、私は来栖家の婿養子として迎え入れられました。これからは、美姫さんと力を合わせて来栖財閥を支えていく所存です。どうか、未熟な二人ですが温かく見守って下さると嬉しいです」
そう言った後、立ち去ろうとするが、もちろんマスコミがそれで終わらせるはずない。
「来栖秀一さんには、入籍の報告はされたのですか。なんと言っていましたか」
「現在、ウィーンでの彼の行方も分からなくなっていますが、美姫さんはご存知ですか」
「来栖秀一さんとは、本当に何もなかったのですか」
やはりマスコミが聞きたいのは秀一のことで、質問はそれに集中する。美姫は大和の後ろで小さく震えた。
大和が美姫を庇うようにして、報道陣の前に出る。
「大変申し訳ないのですが、私たちも来栖秀一氏の居所については分かっておりません」
そう言ったところで、納得するはずがない。
「本当は、知ってるんじゃないんですか!?」
「一部では、あなたと美姫さんとは偽装結婚なんじゃないかって声も出てるんですが!」
「羽鳥家が来栖財閥を乗っ取ろうとしてるとの噂も聞いていますが、どうなんですか!」
更にマスコミの質問が過熱し、興奮しながら前に進み出る。
その時、一台のリムジンが美姫と大和の側に横付けされた。
「乗りなさい」
「お、お袋......」
窓から声を掛けたのは、大和の母、京香だった。誠一郎の病院には現れなかったのに、いきなり区役所に来たことに大和は驚き、思わず固まった。
京香の運転手が後部座席の扉を開くと、その後ろから京香が顔を出した。
「早くしないと、また報道陣に囲まれるわよ」
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