556 / 1,014
晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー
20
しおりを挟む
全員の署名が終わると、途端に親父の機嫌が良くなった。
「今日は、婚約祝いだ。パーッと盛り上ろうじゃないか」
盛り上がれっかよ、こんなの。
不機嫌な顔をして見せた俺に対し、ひろ兄と大兄が諌めるように見つめてきた。
分かってるよ、ここで台無しにしたら全て意味がなくなるってことは。
俺だって、ガキじゃねぇんだ。それぐらい......分かってる。
食事を持ってきた世話係に、親父は芸妓を呼ぶように言いつけた。これから長くなりそうだ。
「美姫さん、お座敷遊び知ってる?」
お袋が嬉々として美姫に尋ねる。
美姫は、申し訳なさそうに首を竦めた。
「い、いえ。芸妓さんにお会いしたのも初めてです」
「ふふ、楽しいわよ。これから色々教えてあげる。
女だってね、もっと外に出て遊んでいいのよ。芸妓遊びに高級クラブ、男だけに独占させるのは勿体ないわ。
ねぇ、凛子さんもそう思わない?」
凛子おばさんは突然話を振られ、「そうですわね」と上品な笑みを浮かべた。
あぁ、見てらんねぇ......
芸妓たちが座敷に入ってきた。
親父は早速目をかけている芸妓に酌をさせ、お袋は美姫と凛子おばさんを巻き込んでお座敷遊びの仕方を教授していた。
「大和、こっちに来て飲まないか」
大兄が声を掛け、同意するようにひろ兄も頷いた。助けの船とばかりに立ち上がり、ひろ兄の隣に移動する。
まだひろ兄に対しては、わだかまりが残ってるけど......
大兄が徳利を手にし、俺は猪口を差し出した。
「色々言いたいことはあるだろうが、これが羽鳥のやり方だ。美姫さんのことを思って、飲み込んでくれ」
酒を注ぎながら、大兄が申し訳なさそうに言った。
大兄は、いつも親父やお袋の間違いや失態を、自分のことのように謝る。そんな風に言われると、俺が強気に出られないことを知ってるかのように。
「分かってる」
ひろ兄は、上機嫌で手酌で酒を注いだ。
さっきまで固い表情で事務的な対応してたのが、嘘みたいだ。いつもの、家で見せるひろ兄の顔に戻っていた。
「だが、これが上手くいけば、来栖財閥だって再建への道が見えてくるし、親父だって次の選挙に勝てるチャンスがある。お前はこんな綺麗な嫁さんもらえるわけだし。
お互いにとって、ウィンウィンだろ」
屈託ない笑顔を、俺に向けた。
どこが、ウィンウィンだよ。
俺は知っている。前回の選挙で親父が負けたのは、秘書である自分の責任だとひろ兄が強く感じているのは。
選挙で落選すると、大差であれば候補者の責任、僅差なら秘書の責任だと言われる。前回の選挙では僅か数票さで惜敗し、臍ほぞを噛んだ。
次回の選挙こそは必ず勝つと鼻息を荒くしているのは、親父だけじゃない。親父を秘書として支えるひろ兄だって、同じ気持ちでいるんだ。俺に対して軽く言ってるが、心の内では次回の選挙の勝利に向けての熱い思いがあるに違いない。
だからって、こんな風に俺たちを利用するようなやり方、気にくわねぇ。
「こっちが強気になれないのをいいことに、そっちの都合ばっか押し付けてきやがって。ひろ兄は、いつから親父の犬になったんだ」
「おい、大樹ひろきに謝れ。その言い方はないだろ?」
すかさず、大兄に注意された。
だが、ひろ兄は、なぜか笑顔のままだ。
「大和ー、お前まだそんな純粋な気持ちでいられるの、可愛いな。お前はそのままでいろよ」
そう言って、頭を撫でてくる。
「な、なんだよ、ひろ兄」
そしたら、なぜか大兄まで加わってきて頭を撫でてきた。
「ちょっ、やめろって......」
なんなんだ、兄貴たち。
「確かにな。俺は、お前が政治家への道を歩まずに済んでホッとしてる。
それに、来栖誠一郎氏になら、お前のことを安心して託せるしな」
大兄......
ひろ兄が悪戯っぽい表情を見せた。
「お前と美姫さんが婚約出来るように親父説得すんの、大変だったんだぞ。
スキャンダルの渦中にいるような女と婚約なんてさせたら、羽鳥大蔵の信頼にまで関わるって言い出してさ。打算でしか考えられない人だから、いかに大和が来栖財閥令嬢と結婚すれば親父にとって特になるのか、大々的にプレゼンして...」
「いや、ひろ。殆どの案は俺が考え、プレゼンしたんだろうが」
「でも、親父を最終的に言いくるめたのは秘書である俺だぞ!」
ふたりのやりとりを聞きながら、猪口を持つ手が止まった。
え。
じゃあ、あの親父からの条件ってのは......兄貴たちの提案だったってことなのか?
「今日は、婚約祝いだ。パーッと盛り上ろうじゃないか」
盛り上がれっかよ、こんなの。
不機嫌な顔をして見せた俺に対し、ひろ兄と大兄が諌めるように見つめてきた。
分かってるよ、ここで台無しにしたら全て意味がなくなるってことは。
俺だって、ガキじゃねぇんだ。それぐらい......分かってる。
食事を持ってきた世話係に、親父は芸妓を呼ぶように言いつけた。これから長くなりそうだ。
「美姫さん、お座敷遊び知ってる?」
お袋が嬉々として美姫に尋ねる。
美姫は、申し訳なさそうに首を竦めた。
「い、いえ。芸妓さんにお会いしたのも初めてです」
「ふふ、楽しいわよ。これから色々教えてあげる。
女だってね、もっと外に出て遊んでいいのよ。芸妓遊びに高級クラブ、男だけに独占させるのは勿体ないわ。
ねぇ、凛子さんもそう思わない?」
凛子おばさんは突然話を振られ、「そうですわね」と上品な笑みを浮かべた。
あぁ、見てらんねぇ......
芸妓たちが座敷に入ってきた。
親父は早速目をかけている芸妓に酌をさせ、お袋は美姫と凛子おばさんを巻き込んでお座敷遊びの仕方を教授していた。
「大和、こっちに来て飲まないか」
大兄が声を掛け、同意するようにひろ兄も頷いた。助けの船とばかりに立ち上がり、ひろ兄の隣に移動する。
まだひろ兄に対しては、わだかまりが残ってるけど......
大兄が徳利を手にし、俺は猪口を差し出した。
「色々言いたいことはあるだろうが、これが羽鳥のやり方だ。美姫さんのことを思って、飲み込んでくれ」
酒を注ぎながら、大兄が申し訳なさそうに言った。
大兄は、いつも親父やお袋の間違いや失態を、自分のことのように謝る。そんな風に言われると、俺が強気に出られないことを知ってるかのように。
「分かってる」
ひろ兄は、上機嫌で手酌で酒を注いだ。
さっきまで固い表情で事務的な対応してたのが、嘘みたいだ。いつもの、家で見せるひろ兄の顔に戻っていた。
「だが、これが上手くいけば、来栖財閥だって再建への道が見えてくるし、親父だって次の選挙に勝てるチャンスがある。お前はこんな綺麗な嫁さんもらえるわけだし。
お互いにとって、ウィンウィンだろ」
屈託ない笑顔を、俺に向けた。
どこが、ウィンウィンだよ。
俺は知っている。前回の選挙で親父が負けたのは、秘書である自分の責任だとひろ兄が強く感じているのは。
選挙で落選すると、大差であれば候補者の責任、僅差なら秘書の責任だと言われる。前回の選挙では僅か数票さで惜敗し、臍ほぞを噛んだ。
次回の選挙こそは必ず勝つと鼻息を荒くしているのは、親父だけじゃない。親父を秘書として支えるひろ兄だって、同じ気持ちでいるんだ。俺に対して軽く言ってるが、心の内では次回の選挙の勝利に向けての熱い思いがあるに違いない。
だからって、こんな風に俺たちを利用するようなやり方、気にくわねぇ。
「こっちが強気になれないのをいいことに、そっちの都合ばっか押し付けてきやがって。ひろ兄は、いつから親父の犬になったんだ」
「おい、大樹ひろきに謝れ。その言い方はないだろ?」
すかさず、大兄に注意された。
だが、ひろ兄は、なぜか笑顔のままだ。
「大和ー、お前まだそんな純粋な気持ちでいられるの、可愛いな。お前はそのままでいろよ」
そう言って、頭を撫でてくる。
「な、なんだよ、ひろ兄」
そしたら、なぜか大兄まで加わってきて頭を撫でてきた。
「ちょっ、やめろって......」
なんなんだ、兄貴たち。
「確かにな。俺は、お前が政治家への道を歩まずに済んでホッとしてる。
それに、来栖誠一郎氏になら、お前のことを安心して託せるしな」
大兄......
ひろ兄が悪戯っぽい表情を見せた。
「お前と美姫さんが婚約出来るように親父説得すんの、大変だったんだぞ。
スキャンダルの渦中にいるような女と婚約なんてさせたら、羽鳥大蔵の信頼にまで関わるって言い出してさ。打算でしか考えられない人だから、いかに大和が来栖財閥令嬢と結婚すれば親父にとって特になるのか、大々的にプレゼンして...」
「いや、ひろ。殆どの案は俺が考え、プレゼンしたんだろうが」
「でも、親父を最終的に言いくるめたのは秘書である俺だぞ!」
ふたりのやりとりを聞きながら、猪口を持つ手が止まった。
え。
じゃあ、あの親父からの条件ってのは......兄貴たちの提案だったってことなのか?
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる