555 / 1,014
晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー
19
しおりを挟む
すると、お袋が鼻を鳴らした。
「美姫さん、今じゃそこらの芸能人よりも有名なわけじゃない? なにせ、あの『ピアノ界の貴公子』来栖秀一を虜にしたと噂の姪っ子ですものね。そこを上手く利用するってわけ。
来栖秀一との恋愛関係を記者会見で否定し、本当にあなた達ふたりがこれから夫婦として来栖財閥を再建していくんだってとこを華やかに世間にアピールするのよ。テレビや雑誌の取材に応じるのはもちろん、来栖財閥の開発した商品についてのCMに出演したりね。あなたたち、若くて美男美女だから、世間に注目されること間違いないわよ。
そこは、逆に非難を受けることのないよう宣伝戦略も慎重に考えないといけないけれど、いい知り合いがいるから紹介してあげるわ、ふふっ。
影でいくつもの企業回って頭下げたり、自社製品の開発に努めたってね、世間はそんなの評価しないの。どんどん表に立って直接消費者に訴えかけていかなくちゃ。
マスコミに叩かれたんだったら、今度はそれを利用しなさいな。どれだけ世間がマスコミに影響されるか身をもって知った美姫さんですもの、私の意味、分かるでしょう?」
頭にカッと血が上った。
「そんなこと、出来るわけねぇだろ! 美姫があの週刊誌のせいで、どれだけ傷ついたと思ってんだ!
もし美姫が世間に顔を見せれば、また来栖秀一のことについて聞かれたり、蒸し返されることになるのは分かんだろ! 広告塔だなんて、まるで人身御供ひとみごくうじゃねぇか!
これ以上こいつを傷つけることは、俺が許さない!」
「大和、口のきき方に気をつけなさい」
今まで黙って聞いていた大兄が、俺を窘めた。滅多に怒ることのない大兄の圧力のある声音に、俺の熱が一気に下がった。
美姫が、そっと俺の手に自身の手を重ねた。
「大丈夫、だから......」
俯き、俺にしか聞こえないぐらい小さな声で言うと、顔を上げた。
「来栖財閥は今、消費者の信用を失い、不買運動までおこっています。両親は来栖財閥を立て直すために必死に働きかけていますが、おっしゃる通り、それによって失った消費者の信頼を取り戻すことは、正直出来ていません。
......もし、私が表に立つことが来栖財閥再建に繋がるというのなら、なんでもする覚悟でいます」
「美姫......」
美姫の決意を聞き、不安が広がっていくのを止められない。
だが、彼女の言葉には不安など感じられなかった。
「来栖財閥が失墜してしまったのは、父が倒れたのは、私が原因です。私には、来栖財閥を立て直し、その下にいる従業員を守る義務があります」
美姫は、力強く言った。そこには、相当の覚悟が滲んでいた。
美姫は、肚をくくってる。だったら俺は、そんな美姫を支えてやらなければいけないんだ。
「分かった。だったら俺も、協力する」
安心しろ。
お前のことは、俺が絶対に守ってやるから......
掌を返し、重ねられた美姫の手を強く握り締めた。凛子おばさんは、その様子を心配そうに見つめていた。
ひろ兄が、読み上げていた紙にお袋の条件を付け足した後、万年筆と共に凛子おばさんに2通書状を差し出す。
「それでは、こちらにご署名とご捺印を。来栖誠一郎氏には回復次第、ご署名を頂くということでお願いします」
あくまでビジネス対応なひろ兄に、胸糞悪さを覚える。いつも家で会うときは、俺にゲームで対戦挑んできたり、買ってきた服を次々に見せては古い服を押し付けてきたりするくせに。
別人、みたいだ。
「えぇ、それで結構です」
凛子おばさんは書状を受け取ると、万年筆の蓋を外した。俺は、凛子おばさんと美姫が署名するのをただ見ていることしか出来なかった。
「大和、お前もだ」
ひろ兄に言われ、「あぁ...」と美姫から紙とペンを受け取り、署名し、親指で捺印する。
婚約のためにこんなことをしなければならないのかと思うと苦い気持ちになったが、美姫との結婚を認めてもらえたことは予想外だったので、安心もした。
「美姫さん、今じゃそこらの芸能人よりも有名なわけじゃない? なにせ、あの『ピアノ界の貴公子』来栖秀一を虜にしたと噂の姪っ子ですものね。そこを上手く利用するってわけ。
来栖秀一との恋愛関係を記者会見で否定し、本当にあなた達ふたりがこれから夫婦として来栖財閥を再建していくんだってとこを華やかに世間にアピールするのよ。テレビや雑誌の取材に応じるのはもちろん、来栖財閥の開発した商品についてのCMに出演したりね。あなたたち、若くて美男美女だから、世間に注目されること間違いないわよ。
そこは、逆に非難を受けることのないよう宣伝戦略も慎重に考えないといけないけれど、いい知り合いがいるから紹介してあげるわ、ふふっ。
影でいくつもの企業回って頭下げたり、自社製品の開発に努めたってね、世間はそんなの評価しないの。どんどん表に立って直接消費者に訴えかけていかなくちゃ。
マスコミに叩かれたんだったら、今度はそれを利用しなさいな。どれだけ世間がマスコミに影響されるか身をもって知った美姫さんですもの、私の意味、分かるでしょう?」
頭にカッと血が上った。
「そんなこと、出来るわけねぇだろ! 美姫があの週刊誌のせいで、どれだけ傷ついたと思ってんだ!
もし美姫が世間に顔を見せれば、また来栖秀一のことについて聞かれたり、蒸し返されることになるのは分かんだろ! 広告塔だなんて、まるで人身御供ひとみごくうじゃねぇか!
これ以上こいつを傷つけることは、俺が許さない!」
「大和、口のきき方に気をつけなさい」
今まで黙って聞いていた大兄が、俺を窘めた。滅多に怒ることのない大兄の圧力のある声音に、俺の熱が一気に下がった。
美姫が、そっと俺の手に自身の手を重ねた。
「大丈夫、だから......」
俯き、俺にしか聞こえないぐらい小さな声で言うと、顔を上げた。
「来栖財閥は今、消費者の信用を失い、不買運動までおこっています。両親は来栖財閥を立て直すために必死に働きかけていますが、おっしゃる通り、それによって失った消費者の信頼を取り戻すことは、正直出来ていません。
......もし、私が表に立つことが来栖財閥再建に繋がるというのなら、なんでもする覚悟でいます」
「美姫......」
美姫の決意を聞き、不安が広がっていくのを止められない。
だが、彼女の言葉には不安など感じられなかった。
「来栖財閥が失墜してしまったのは、父が倒れたのは、私が原因です。私には、来栖財閥を立て直し、その下にいる従業員を守る義務があります」
美姫は、力強く言った。そこには、相当の覚悟が滲んでいた。
美姫は、肚をくくってる。だったら俺は、そんな美姫を支えてやらなければいけないんだ。
「分かった。だったら俺も、協力する」
安心しろ。
お前のことは、俺が絶対に守ってやるから......
掌を返し、重ねられた美姫の手を強く握り締めた。凛子おばさんは、その様子を心配そうに見つめていた。
ひろ兄が、読み上げていた紙にお袋の条件を付け足した後、万年筆と共に凛子おばさんに2通書状を差し出す。
「それでは、こちらにご署名とご捺印を。来栖誠一郎氏には回復次第、ご署名を頂くということでお願いします」
あくまでビジネス対応なひろ兄に、胸糞悪さを覚える。いつも家で会うときは、俺にゲームで対戦挑んできたり、買ってきた服を次々に見せては古い服を押し付けてきたりするくせに。
別人、みたいだ。
「えぇ、それで結構です」
凛子おばさんは書状を受け取ると、万年筆の蓋を外した。俺は、凛子おばさんと美姫が署名するのをただ見ていることしか出来なかった。
「大和、お前もだ」
ひろ兄に言われ、「あぁ...」と美姫から紙とペンを受け取り、署名し、親指で捺印する。
婚約のためにこんなことをしなければならないのかと思うと苦い気持ちになったが、美姫との結婚を認めてもらえたことは予想外だったので、安心もした。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説

義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。



甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる