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晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー

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 親父の考えは、言われなくても分かる。

 もし美姫が来栖秀一と恋人であった事実が発覚したり、スキャンダルが収集つかないような事態になったりして自分への政治家活動に影響を与えるようなら、俺たちを即刻離婚させるつもりだ。離婚しても養子縁組は解かず、しかもそのまま俺を来栖財閥の後継者として据えるつもりだろう。

 もちろん、その際には来栖の親族から反発を受けるに違い無い。

 そこで親父は、親族会議に羽鳥家を参入させることを考えた。もしそこで反対意見が出たとしても、羽鳥家の人間が出席することで、かなりの反対票を抑えることが出来るからだ。

 俺たちの結婚式に、来栖財閥の重役や関連企業の重役、関わりのある政治家や芸能人を可能な限り多く招待させることで、親父は様々な人脈を広げるつもりでいるのだろう。

 親父はこの婚姻を絶好の機会として、自分が政治家として返り咲く足掛かりにしようとしていることが窺えた。前回の選挙で敗北を喫した親父は、今度の選挙には絶対に勝利してみせると意気込んでいるからだ。

 来栖財閥の業績が上がれば、それに従って信頼度も上がる。それによって、来栖財閥の婿養子となった俺の親父の信頼度も上がると考えているのだ。

 俺たちは、親父の道具じゃねぇ。
 親父の自分勝手な目的のために、俺たちを利用するなんて許さない。

 まるで、羽鳥家が来栖財閥を乗っ取るかのような計画。いかにも親父らしい考えだ。
 こんなの、認めるわけねぇだろ。

 俺は怒りで拳を震わせた。

 凛子おばさんが文面に落としていた視線を上げ、背筋をピンと伸ばすと、凛とした声で告げた。

「分かりました。条件を、全てのみましょう」
「おばさ...」

 その言葉に驚愕し、美姫越しにおばさんを覗き込んだ。心配そうな顔を見せた俺に対し、おばさんは「まかせて」というように目で合図する。

 悔しいけど、来栖家側の意見を決めることは、今の俺には出来ない。
 凛子おばさんに任せるしかないんだ......

 仕方なく、俺はその後の言葉を飲み込んだ。

 凛子おばさんには、何の迷いも躊躇いも感じなかった。

「私たちはずっと以前から、大和さんが娘の美姫と結婚して婿養子となり、来栖財閥を引き継いでくれることを望んでおりました。今日、大和さんが私たちの元を訪れ、結婚の承諾に窺った時は本当に嬉しくて、胸がいっぱいになりました。
 大和さんはずっと美姫を支えてくれた、私たちにとっても大切な存在です。そんな彼を息子として迎え入れられることを、私たち夫婦はとても誇らしく、幸せに思っております。

 これから私は来栖誠一郎の秘書として、また来栖財閥の社長代理として、若い二人を支えていく所存でいます。大和さんが立派に来栖財閥の後継者となれるよう、そして美姫には彼を公私共に支える存在になれるよう、指導していきます。

 大和さんが来栖財閥の後継者となってくれるのであれば、来栖誠一郎の遺産の半分を彼が譲り受けることに私は異論はございません。彼なら、これからの来栖財閥を立て直し、飛躍させてくれるものと信じておりますから。夫も同じ考えでいると思います。

 結婚すれば羽鳥家は来栖家と親族になるわけですし、もちろん親族会議にも出席していただいて結構です」

 凛子おばさんの言葉に、俺は胸が熱くなった。美姫のことだけでなく、俺も息子として愛してくれる、そんな確信をもった。
 初めて、親の愛に触れた気がした。こんな両親をもつのだということが、とても誇らしかった。

「ただ、来栖財閥の業績を3年以内に回復させるというのは、もちろん努力はするつもりですが、確約は出来ませんので、その点はご理解いただければと」

 ひろ兄が頷いた。

「現在、来栖財閥の株は売りの状態が続き、その株価は急降下しています。我々はお二人の婚姻後、来栖財閥の株を大量に買い占めるつもりでいます。それにより来栖財閥の株価の降下を防ぎ、場合によっては上昇するかもしれません。その後、財閥の業績が回復すれば株価が上がり、私たちは互いに利益を得られることになります」

 その提案は凛子おばさんにとっても悪い話ではなかったようで、安堵の息を漏らした後、頷いていた。

「では、納得して頂けたところで......」

 ひろ兄が仕切ろうとしているところに、お袋がいきなり口を挟んできた。

「もうひとつ、条件に加えて下さらない?
『羽鳥大和と来栖美姫が来栖財閥の広告塔となり、好感度を上げる』、ってね」

 美姫が、遠慮がちに口を挟んだ。

「あ、あの......私と、大和さんが来栖財閥の広告塔になる、とは......どういった意味でしょうか」
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