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晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー
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美姫は、事前に打ち合わせした通りに話し出した。
俺と美姫が、高校生の時から想い合っていたこと。
友人から襲われかけ、それを俺が助けたことにより美姫が精神的にショックを受け、叔父である来栖秀一の元に身を寄せていたこと。
それが誤解を生み、週刊誌に「叔父と姪の恋愛」というスキャンダルとして取り上げられてしまったこと。
時には俺や凛子おばさんが口を挟んだり、付け加えることもあった。
「では、君と叔父の来栖秀一氏との間には、何もなかったと言うのだな」
親父の眼光が鋭く光った。
「だが、世間がそんな話、信じると思うか?
大事なのは、何が真実かではない。何を世間が信じるか、だ」
いかにも親父らしい言葉に、思わず唇を噛み締める。
「世間を必ず、信じさせてみせます」
美姫が真っ直ぐに親父を見つめ、はっきりと言った。
「どうやって、信じさせるつもりかね。一度こうだと思った考えを変えさせるのは、なかなか一筋縄ではいかんぞ」
美姫に向けられた意地の悪い視線を振り払うかのように、俺は親父を見据えて言った。
「記者会見を開きます。
俺と美姫の、婚約発表の会見を」
お袋がコロコロと笑う。
「まぁ、それは楽しみだわ。世間はきっとあなたたちの婚約の話よりも、美姫さんと『ピアノ界の貴公子』とのことを聞きたがるでしょうけどね、ふふっ」
これが、息子の婚約発表に対する意見かよ。
そう思いながらも、それが世間の反応なのだろうとも思った。
お袋が更に言い募る。
「ねぇ、その噂の張本人は今どこにいるのかしら? もし大和と美姫さんが結婚するのなら、ぜひ結婚式に出てもらいたいものねぇ」
美姫の膝に置かれた指先が、ピクッと痙攣したのが見えた。
「しゅ......叔父、は......今年の夏に開催されるザルツブルク音楽祭の準備のため、ウィーンに発ちました」
「あら。じゃあ、記者会見で弁明もしないってこと? それじゃ、説得力に欠けるわねぇ。凄いドラマが見られると思ったのに......
あ、なんなら記者会見を開くにあたってウィーンから呼び寄せるのはどうかしら? やっぱりドラマには華がないと」
その言葉に、美姫が息を呑むのが隣から伝わってきた。俺はこんな両親に会わせなければいけないことが、美姫に対して申し訳なかった。
親父もお袋も、美姫の心の傷を直接ナイフで抉るような真似しやがって......
これは、いくら何でも言い過ぎだろ。
「おふ...」
「お願いです。どうか......叔父を、巻き込まないで下さい。
彼は、何も悪くないんです。私が彼に頼ってしまったばかりに、誤解を生み、迷惑を掛けてしまっただけなんです。
来栖秀一は今、世界でも有数の音楽祭に招待され、大事な時期なんです。どうか、そっとしておいて下さい」
俺の言葉を遮り、美姫は俺の両親に頭を下げた。
美姫のあいつへの思いが、嫌でも俺に伝わって来る。
だがそれは、俺だけではない。お袋や親父、兄貴たちも感じているかもしれないんだ。
すると、凛子おばさんも頭を下げた。
「私からも、どうかよろしくお願いします。
美姫が幼い頃から仕事とはいえ夫婦で海外を飛び回り、家をあけることが多かった私たちは、義弟によく美姫の面倒をみてもらっていました。美姫にとって彼は、叔父よりも近い、兄のような存在です。
自分が叔父に頼ってしまった為にスキャンダルになり、その結果活動の場を日本からウィーンへ移させたのだと、美姫は自分を強く責めています。 そんな彼に対して、もうこれ以上迷惑をかけたくないと思うのは、当然のことだと思いませんか。
私自身も、日本での煩わしい世間の目やマスコミのことなど気にせず、彼にはピアニストしての活動に専念してもらいたいと願っています」
凛子おばさんの言葉を聞き、親父やお袋でさえも黙った。心から来栖秀一を信頼し、娘との情事など露とも信じていないような彼女の言動は、本当にふたりには何もなかったのではないかと思わせる力があった。
凛子おばさんもまた、娘を守るために必死なんだ......
俺と美姫が、高校生の時から想い合っていたこと。
友人から襲われかけ、それを俺が助けたことにより美姫が精神的にショックを受け、叔父である来栖秀一の元に身を寄せていたこと。
それが誤解を生み、週刊誌に「叔父と姪の恋愛」というスキャンダルとして取り上げられてしまったこと。
時には俺や凛子おばさんが口を挟んだり、付け加えることもあった。
「では、君と叔父の来栖秀一氏との間には、何もなかったと言うのだな」
親父の眼光が鋭く光った。
「だが、世間がそんな話、信じると思うか?
大事なのは、何が真実かではない。何を世間が信じるか、だ」
いかにも親父らしい言葉に、思わず唇を噛み締める。
「世間を必ず、信じさせてみせます」
美姫が真っ直ぐに親父を見つめ、はっきりと言った。
「どうやって、信じさせるつもりかね。一度こうだと思った考えを変えさせるのは、なかなか一筋縄ではいかんぞ」
美姫に向けられた意地の悪い視線を振り払うかのように、俺は親父を見据えて言った。
「記者会見を開きます。
俺と美姫の、婚約発表の会見を」
お袋がコロコロと笑う。
「まぁ、それは楽しみだわ。世間はきっとあなたたちの婚約の話よりも、美姫さんと『ピアノ界の貴公子』とのことを聞きたがるでしょうけどね、ふふっ」
これが、息子の婚約発表に対する意見かよ。
そう思いながらも、それが世間の反応なのだろうとも思った。
お袋が更に言い募る。
「ねぇ、その噂の張本人は今どこにいるのかしら? もし大和と美姫さんが結婚するのなら、ぜひ結婚式に出てもらいたいものねぇ」
美姫の膝に置かれた指先が、ピクッと痙攣したのが見えた。
「しゅ......叔父、は......今年の夏に開催されるザルツブルク音楽祭の準備のため、ウィーンに発ちました」
「あら。じゃあ、記者会見で弁明もしないってこと? それじゃ、説得力に欠けるわねぇ。凄いドラマが見られると思ったのに......
あ、なんなら記者会見を開くにあたってウィーンから呼び寄せるのはどうかしら? やっぱりドラマには華がないと」
その言葉に、美姫が息を呑むのが隣から伝わってきた。俺はこんな両親に会わせなければいけないことが、美姫に対して申し訳なかった。
親父もお袋も、美姫の心の傷を直接ナイフで抉るような真似しやがって......
これは、いくら何でも言い過ぎだろ。
「おふ...」
「お願いです。どうか......叔父を、巻き込まないで下さい。
彼は、何も悪くないんです。私が彼に頼ってしまったばかりに、誤解を生み、迷惑を掛けてしまっただけなんです。
来栖秀一は今、世界でも有数の音楽祭に招待され、大事な時期なんです。どうか、そっとしておいて下さい」
俺の言葉を遮り、美姫は俺の両親に頭を下げた。
美姫のあいつへの思いが、嫌でも俺に伝わって来る。
だがそれは、俺だけではない。お袋や親父、兄貴たちも感じているかもしれないんだ。
すると、凛子おばさんも頭を下げた。
「私からも、どうかよろしくお願いします。
美姫が幼い頃から仕事とはいえ夫婦で海外を飛び回り、家をあけることが多かった私たちは、義弟によく美姫の面倒をみてもらっていました。美姫にとって彼は、叔父よりも近い、兄のような存在です。
自分が叔父に頼ってしまった為にスキャンダルになり、その結果活動の場を日本からウィーンへ移させたのだと、美姫は自分を強く責めています。 そんな彼に対して、もうこれ以上迷惑をかけたくないと思うのは、当然のことだと思いませんか。
私自身も、日本での煩わしい世間の目やマスコミのことなど気にせず、彼にはピアニストしての活動に専念してもらいたいと願っています」
凛子おばさんの言葉を聞き、親父やお袋でさえも黙った。心から来栖秀一を信頼し、娘との情事など露とも信じていないような彼女の言動は、本当にふたりには何もなかったのではないかと思わせる力があった。
凛子おばさんもまた、娘を守るために必死なんだ......
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