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晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー

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 軽くノックをし、待っている間......吐きそうなぐらいの緊張感に襲われる。

 てか、いきなり俺が美姫と結婚......とか、びっくりだよな。だって、ふたりは美姫とあいつが付き合ってたことを知ってるわけだし。
 しかも、勢いで返事しちまったけど、来栖財閥の後継者って......あんなすげぇ財閥のトップに俺、が......務まんのかよ。もっと、考えるべきだったか......

 そんなことを考えてる間に扉が開き、凛子おばさんが俺を見て眉が上がる。

「あら......大和くん」
「ど、どうも」

 あぁ、なんでいつも肝心な時に俺は言葉が出てこねぇんだ。

 凛子おばさんはニコッと笑って扉を大きく開けてくれた。

「来てくれて、嬉しいわ。さ、どうぞ入って」

 誠一郎おじさんの病室は、悠のと広さは同じくらいあったけど、付添人が休むための部屋が和室になっていた。

「失礼、します」

 遠慮がちに声を掛け、誠一郎おじさんのベッドに美姫と向かう。ベッドに寝ているおじさんの姿が視界に入った途端、思わず目を瞠った。

 すげぇ、痩せた......

 まるで別人のように痩せ、無精髭が生え、白髪の混じったその容姿は、言われなければ誠一郎おじさんだとは分からないぐらいだった。美姫が父親に対してあれだけの罪悪感を抱いていたわけが、分かった気がした。

「誠一郎おじさん、お久しぶりです」

 声をかけると、おじさんは静かに目を開いた。俺を見る目が優しく細められ、そんなところは変わっていないと密かに安堵した。

「ふたりとも、どうぞ座って。お茶を入れてきますから......」

 そう声を掛けた凛子おばさんを引き止めるように、声を上げた。

「凛子おばさん! それから、誠一郎おじさん。
 実は......俺...」

 言いかけた俺のニットセーターの裾を、美姫がキュッと掴んだ。

「私たち、聞いて欲しいことがあります」
 
 キッチンへと行きかけた凛子おばさんは、俺たちの真剣な様子に驚きつつも足を止めた。

「そう、分かったわ」

 そんな様子を、誠一郎おじさんも心配そうに見上げていた。それに気付いた凛子おばさんが、椅子をもうひとつ運んできた。

「じゃ、誠一郎さんを囲んで皆で座って話しましょ」

 椅子に腰掛けたものの、どうやって話を切り出すべきか思いつかない。

 思案していると、美姫が口を開いた。

「お父様、お母様。今まで、たくさん心配をかけてしまい、おふたりだけでなく、来栖財閥に関わる全ての方々にご迷惑をかけてしまい、本当に......申し訳ありませんでした。
 私は、自分のことしか見えず、考えていませんでした。遅すぎるけれど......お父様が倒れられ、来栖財閥の現状を知り、ようやく私はそのことに気づきました。
 過ちを、取り戻すことは出来ない。けれど、これからは......お父様とお母様の側にいて、来栖財閥の再建に少しでも役に立ちたいんです」
「美姫......」

 凛子おばさんが、美姫をじっと見つめた。

 美姫はグッと手を握り締め、顔を俯かせて肩を震わせた。それから、決意したように顔を上げる。

「私は、秀一さんと別れます」

 その言葉に、二人とも息を呑んだように美姫を見つめた。長い沈黙がこの場を包む。

 美姫は、唇を噛み締め、鼻から息を漏らした。

「このまま秀一さんと一緒にいても、誰も幸せになれないんだって分かったんです。
 お父様やお母様だけじゃない。私も。秀一、さんも......

 彼には、ピアニストとしての輝かしい道を歩いて欲しいんです」
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