541 / 1,014
晴天の霹靂(へきれき) ー大和回想ー
5
しおりを挟む
美姫は、大きく息を吐いた。
「大和。私がここに大和を呼び出したのは......お願いを、するためなの。
これから、私がするのは......すごく狡くて、残酷なお願い。
私は......大和の優しさを、利用しようとしてる。自分でも、最低だって思ってる。
でも、こんなこと頼めるのは......大和しか、いないの。
どうか、私を。私たちを、救って......ッッ」
美姫が、両手に口を当て、頭を深く下げた。
美姫の、願い。それが、たとえどんなものであっても......
掌に爪が食い込むほど固く拳を握り締めると、美姫に力強く頷いた。
「あぁ、叶えてやる。
言っただろ? お前は狡くなっていいって。
それでお前が幸せになれるなら、俺はそれでいいんだ」
美姫は、『私たちを、救って』と言った。
美姫と、来栖秀一のため......
それが、美姫の幸せに繋がるなら......
美姫は瞳を潤ませ、喉をグッと詰まらせた。それから俺を見つめ、信じられない言葉を告げた。
「大和。
私と結婚して、来栖財閥の後継者として一緒に財閥を救って下さい」
な......
美姫を呆然と見つめたまま、言葉を失くした。一瞬、冗談かとも思ったが、こんな状況で美姫が冗談なんて言うはずがない。
それに......俺を見つめる美姫の瞳は、決意に満ちていた。
本気、なのか?
「だ、だってお前、今......来栖秀一とウィーンに行くって......」
俺は、それでも現実を受け止めきれずにいた。自分で言い聞かせるように、呆然としたまま独り言のように呟く。
そうだ、美姫はあいつとウィーンに行くんだ。
俺と結婚するなんて、ありえねぇ......
だが美姫は、決意に満ちた瞳を俺に向けた。
「明日の朝、私は秀一さんと成田空港で落ち合い、ウィーンに発つことになってる。
そこで私は......彼に、別れを告げるつもり」
俺は、耳を疑った。
絶対に、来栖秀一と別れる選択肢を美姫は選ばないと思っていた。
離れられるはずなどないと。
「出来る、のか?」
来栖秀一と、別れるなんて......
思わず、そんな言葉がついて出た。
美姫は俯き、肩を震わせた。
「私が、いちゃいけないの。
秀一さんと私は叔父と姪の関係。それは、何があっても変わることなどない。
私は、あの人の足枷にしかなれないの......」
来栖秀一を愛しながらも、あいつの為に自分の気持ちを押し殺す美姫の姿を見て、苦しくなった。
美姫を、苦しませたくない。
美姫が、好きだ。
だからこそ、俺は......たとえ、俺の手からまたすり抜ける事になっても、幸せになってもらいたい。
「だったら、ふたりでどこか世界の果てにでも逃げちまえばいいじゃねぇか! 誰にも見つからない場所で。
それで、二人だけで暮らせば...」
美姫が俺の言葉を遮り、ヒステリックに叫んだ。
「私だって!!!
私、だって......そう、したかった......でも、無理なの!!!
あの人は、ピアノがなくちゃ生きていけないの。ピアノは、彼そのものなの。
来栖秀一は、聴衆を虜にし、魅了することの出来る世界に誇るピアニスト。舞台に立ち、大勢の聴衆の前でピアノを奏でる時、その輝きは一層増す。
私には、それを奪えない。
彼は、世界に羽ばたくべき人なの。
ふたりでいても、お互いに苦しめるだけ......ウッ......底のない暗闇に堕ちていく、だけ......なの」
まるで血を絞り出すようにして、ひとことひとこと紡がれる美姫の言葉。来栖秀一を心の底から愛していることが、その端々から伝わってきた。愛する男の未来のために、身を引くと決断したその思いは、永遠の愛の誓いのようにも聞こえた。
それほどまでに、お前は......あいつを。
胸を激しく掻き毟りたくなるほどに、嫉妬が激しく立ち昇っていく。
---来栖秀一には敵わない。
認めたくない思いが、奥底から漏れ出してくる。
「秀一さんが、私との別れを望んでいないのは知ってる。私が別れを告げたところで、納得しないことも分かってる。
けれど、私は言わなければいけないの。この負の連鎖を、断ち切ると決めたから」
本気で、別れるつもりなんだな。
美姫の表情から、それが伝わってきた。だが、俺にはまだ納得できないことがある。
「お前が来栖秀一のために、別れを決断したことは分かった。
けど、だからって......何で、俺たちが結婚しなきゃいけないんだ?」
俺は、美姫の真意が掴めずにいた。
「大和。私がここに大和を呼び出したのは......お願いを、するためなの。
これから、私がするのは......すごく狡くて、残酷なお願い。
私は......大和の優しさを、利用しようとしてる。自分でも、最低だって思ってる。
でも、こんなこと頼めるのは......大和しか、いないの。
どうか、私を。私たちを、救って......ッッ」
美姫が、両手に口を当て、頭を深く下げた。
美姫の、願い。それが、たとえどんなものであっても......
掌に爪が食い込むほど固く拳を握り締めると、美姫に力強く頷いた。
「あぁ、叶えてやる。
言っただろ? お前は狡くなっていいって。
それでお前が幸せになれるなら、俺はそれでいいんだ」
美姫は、『私たちを、救って』と言った。
美姫と、来栖秀一のため......
それが、美姫の幸せに繋がるなら......
美姫は瞳を潤ませ、喉をグッと詰まらせた。それから俺を見つめ、信じられない言葉を告げた。
「大和。
私と結婚して、来栖財閥の後継者として一緒に財閥を救って下さい」
な......
美姫を呆然と見つめたまま、言葉を失くした。一瞬、冗談かとも思ったが、こんな状況で美姫が冗談なんて言うはずがない。
それに......俺を見つめる美姫の瞳は、決意に満ちていた。
本気、なのか?
「だ、だってお前、今......来栖秀一とウィーンに行くって......」
俺は、それでも現実を受け止めきれずにいた。自分で言い聞かせるように、呆然としたまま独り言のように呟く。
そうだ、美姫はあいつとウィーンに行くんだ。
俺と結婚するなんて、ありえねぇ......
だが美姫は、決意に満ちた瞳を俺に向けた。
「明日の朝、私は秀一さんと成田空港で落ち合い、ウィーンに発つことになってる。
そこで私は......彼に、別れを告げるつもり」
俺は、耳を疑った。
絶対に、来栖秀一と別れる選択肢を美姫は選ばないと思っていた。
離れられるはずなどないと。
「出来る、のか?」
来栖秀一と、別れるなんて......
思わず、そんな言葉がついて出た。
美姫は俯き、肩を震わせた。
「私が、いちゃいけないの。
秀一さんと私は叔父と姪の関係。それは、何があっても変わることなどない。
私は、あの人の足枷にしかなれないの......」
来栖秀一を愛しながらも、あいつの為に自分の気持ちを押し殺す美姫の姿を見て、苦しくなった。
美姫を、苦しませたくない。
美姫が、好きだ。
だからこそ、俺は......たとえ、俺の手からまたすり抜ける事になっても、幸せになってもらいたい。
「だったら、ふたりでどこか世界の果てにでも逃げちまえばいいじゃねぇか! 誰にも見つからない場所で。
それで、二人だけで暮らせば...」
美姫が俺の言葉を遮り、ヒステリックに叫んだ。
「私だって!!!
私、だって......そう、したかった......でも、無理なの!!!
あの人は、ピアノがなくちゃ生きていけないの。ピアノは、彼そのものなの。
来栖秀一は、聴衆を虜にし、魅了することの出来る世界に誇るピアニスト。舞台に立ち、大勢の聴衆の前でピアノを奏でる時、その輝きは一層増す。
私には、それを奪えない。
彼は、世界に羽ばたくべき人なの。
ふたりでいても、お互いに苦しめるだけ......ウッ......底のない暗闇に堕ちていく、だけ......なの」
まるで血を絞り出すようにして、ひとことひとこと紡がれる美姫の言葉。来栖秀一を心の底から愛していることが、その端々から伝わってきた。愛する男の未来のために、身を引くと決断したその思いは、永遠の愛の誓いのようにも聞こえた。
それほどまでに、お前は......あいつを。
胸を激しく掻き毟りたくなるほどに、嫉妬が激しく立ち昇っていく。
---来栖秀一には敵わない。
認めたくない思いが、奥底から漏れ出してくる。
「秀一さんが、私との別れを望んでいないのは知ってる。私が別れを告げたところで、納得しないことも分かってる。
けれど、私は言わなければいけないの。この負の連鎖を、断ち切ると決めたから」
本気で、別れるつもりなんだな。
美姫の表情から、それが伝わってきた。だが、俺にはまだ納得できないことがある。
「お前が来栖秀一のために、別れを決断したことは分かった。
けど、だからって......何で、俺たちが結婚しなきゃいけないんだ?」
俺は、美姫の真意が掴めずにいた。
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説


義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる