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首痕
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大和の足が止まり、驚いたように振り向いた。
「美、姫......」
その表情を見て、急に美姫は自分の大胆な発言に恥ずかしくなった。
「ぁ、ご...ごめ......なんでも、ない。
気にしなくていいから。おやすみ!」
大和の手首を離し、慌てて布団に潜り込もうとした途端、それがフワッと舞った。
「いいよ」
大和の大きな躰が滑り込むようにして、布団に入ってきた。
大和と同じベッド。触れていなくても、彼の熱を仄かに感じる。自分で言いだしておきながら、美姫は心臓がドキドキと速まっていくのを感じていた。
な、に......緊張、してんだろ。昔、付き合ってたはずなのに。
あの頃よりも、今の方が緊張してるなんて......
躰を硬直させる美姫に、大和が「プッ」と小さく笑った。
「な。なんで、笑ってんの?」
少し怒ったような困り顔を見せ、美姫が背中を向けていた躰を捻る。大和はまだ笑っている。
「お前、かたまり過ぎだろ。
別に取って食うつもりはねぇから、安心しろ」
大和は美姫の額をチョンと指でつつき、背中を向けた。
「明日は大事な日なんだから、早く寝ろよ」
何気なさを装いながらも、大和声には緊張感が滲んでいた。美姫はゴクリと喉を鳴らした。
そう、明日は大事な日。
私たちは、夫婦になるんだ。
秀一がウィーンに行ったことが証明され、美姫と大和が一緒に過ごしていることが確認されても、未だ秀一と美姫が恋仲にあるのではという疑いは払拭されていなかった。その方が世間の食い付く話題になるということもあるのだろう。中には、大和との婚約は偽装なのではと推測する者さえいた。
その疑いを晴らすためにも美姫と大和は結婚式を早く挙げる必要があったが、準備にはそれ相応の時間がかかる。そこで、取り急ぎ入籍だけでも済ませようということになったのだった。
ところが昨日の夜になり、大和が突然美姫に言い出した。
「考えたんだけどさ、籍入れるのは式が終わってからでいいんじゃねぇの。結婚式の準備してるってことが分かれば、籍を入れてなくたってマスコミが騒ぐことはねぇだろ」
美姫は、驚きを隠せなかった。
え。もう入籍は明後日するって決まってるのに、どうして突然そんなこと言い出すの?
それから、はたと大和の思いに気づいた。
まだ私に迷いがあるのなら、無理強いをさせたくないから。それで、式までの猶予を与えてくれていようとしているんだ。
自分の気持ちを、押し殺して......
大和の優しさの奥に隠れた不安を感じ、美姫はそれを取り除いてあげたいと思った。
「私は、マスコミのこととは関係なく、大和と結婚したいって思ってる。
今、こうして一緒に暮らしてるけど......同棲じゃなくて、夫婦として大和と生活したいの。大和と、一緒に歩んでいきたいの」
「美、姫......」
思いもよらなかった美姫の言葉に、大和は呆然と彼女を見つめた。
美姫が少し首を傾げ、不安そうに大和を見つめ返す。
「だめ、かな?」
大和の美姫を見つめる瞳が大きく見開き、頬が赤く染まる。
「ダメなわけ、ねぇだろ。
......あぁっ、もう!」
込み上げる感情と共に叫ぶと、美姫をギュッと強く抱き締めた。
「い、痛い! 大和、苦しいっ!」
「わ、ごめっ!」
大和は慌てて力を抜くと、今度は美姫が苦しくないように包み込むように抱き締めた。
「大切に、するから」
「うん......」
美姫にはまだ大和の妻になるという実感が湧いてこないものの、こうして隣にいてくれる彼の存在に心が温かくなり、救われていることを感じていた。
いつも大和は、私の気持ちを驚くほどに和らげてくれる。私を暗闇の底から、引っ張り上げてくれる。
ありがとう、大和。
美姫は、大きな背中に向かって心の中で呟いた。
まるで陽だまりに包まれているような気持ちになり、美姫はそっとその背中に躰を寄せた。先ほどの冷たく底のない暗い沼のような夢の影さえ、薄くなっていった。
「スー......」
美姫は、いつのまにか引き込まれるようにして眠りに落ちていた。
「美、姫......」
その表情を見て、急に美姫は自分の大胆な発言に恥ずかしくなった。
「ぁ、ご...ごめ......なんでも、ない。
気にしなくていいから。おやすみ!」
大和の手首を離し、慌てて布団に潜り込もうとした途端、それがフワッと舞った。
「いいよ」
大和の大きな躰が滑り込むようにして、布団に入ってきた。
大和と同じベッド。触れていなくても、彼の熱を仄かに感じる。自分で言いだしておきながら、美姫は心臓がドキドキと速まっていくのを感じていた。
な、に......緊張、してんだろ。昔、付き合ってたはずなのに。
あの頃よりも、今の方が緊張してるなんて......
躰を硬直させる美姫に、大和が「プッ」と小さく笑った。
「な。なんで、笑ってんの?」
少し怒ったような困り顔を見せ、美姫が背中を向けていた躰を捻る。大和はまだ笑っている。
「お前、かたまり過ぎだろ。
別に取って食うつもりはねぇから、安心しろ」
大和は美姫の額をチョンと指でつつき、背中を向けた。
「明日は大事な日なんだから、早く寝ろよ」
何気なさを装いながらも、大和声には緊張感が滲んでいた。美姫はゴクリと喉を鳴らした。
そう、明日は大事な日。
私たちは、夫婦になるんだ。
秀一がウィーンに行ったことが証明され、美姫と大和が一緒に過ごしていることが確認されても、未だ秀一と美姫が恋仲にあるのではという疑いは払拭されていなかった。その方が世間の食い付く話題になるということもあるのだろう。中には、大和との婚約は偽装なのではと推測する者さえいた。
その疑いを晴らすためにも美姫と大和は結婚式を早く挙げる必要があったが、準備にはそれ相応の時間がかかる。そこで、取り急ぎ入籍だけでも済ませようということになったのだった。
ところが昨日の夜になり、大和が突然美姫に言い出した。
「考えたんだけどさ、籍入れるのは式が終わってからでいいんじゃねぇの。結婚式の準備してるってことが分かれば、籍を入れてなくたってマスコミが騒ぐことはねぇだろ」
美姫は、驚きを隠せなかった。
え。もう入籍は明後日するって決まってるのに、どうして突然そんなこと言い出すの?
それから、はたと大和の思いに気づいた。
まだ私に迷いがあるのなら、無理強いをさせたくないから。それで、式までの猶予を与えてくれていようとしているんだ。
自分の気持ちを、押し殺して......
大和の優しさの奥に隠れた不安を感じ、美姫はそれを取り除いてあげたいと思った。
「私は、マスコミのこととは関係なく、大和と結婚したいって思ってる。
今、こうして一緒に暮らしてるけど......同棲じゃなくて、夫婦として大和と生活したいの。大和と、一緒に歩んでいきたいの」
「美、姫......」
思いもよらなかった美姫の言葉に、大和は呆然と彼女を見つめた。
美姫が少し首を傾げ、不安そうに大和を見つめ返す。
「だめ、かな?」
大和の美姫を見つめる瞳が大きく見開き、頬が赤く染まる。
「ダメなわけ、ねぇだろ。
......あぁっ、もう!」
込み上げる感情と共に叫ぶと、美姫をギュッと強く抱き締めた。
「い、痛い! 大和、苦しいっ!」
「わ、ごめっ!」
大和は慌てて力を抜くと、今度は美姫が苦しくないように包み込むように抱き締めた。
「大切に、するから」
「うん......」
美姫にはまだ大和の妻になるという実感が湧いてこないものの、こうして隣にいてくれる彼の存在に心が温かくなり、救われていることを感じていた。
いつも大和は、私の気持ちを驚くほどに和らげてくれる。私を暗闇の底から、引っ張り上げてくれる。
ありがとう、大和。
美姫は、大きな背中に向かって心の中で呟いた。
まるで陽だまりに包まれているような気持ちになり、美姫はそっとその背中に躰を寄せた。先ほどの冷たく底のない暗い沼のような夢の影さえ、薄くなっていった。
「スー......」
美姫は、いつのまにか引き込まれるようにして眠りに落ちていた。
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