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愛憎の果て

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 美姫は首にかかる秀一の指に手を掛け、引き剥がそうとした。

 けれど、秀一の力は緩むことなく、美姫の首の血管を圧迫していく。

「美姫が私の元を離れるというのなら.....貴女を殺して、私もここで死にます。
 貴女のいない世界でひとりで生きていくことなど、私にとっては死と同じ意味」
「ッ......ッッ......!!!」

 涙と鼻水が伝い、遠のきそうになる意識を必死に覚醒させ、美姫は必死に目線で訴えた。

 お願い......
 秀一さん、生きて!

 生きて、ピアニストとしての道を極めてください。

 私には、貴方と共に生きることは出来ない。
 でも、一緒に死ぬことも出来ないんです。

 ログハウスにいた時、私は貴方と死ぬことを望みました。
 貴方に殺されるのなら、幸せだと。

 けれど、今は違うんです。

 私は、救わなければならない。
 お父様を。お母様を。来栖財閥とその下にいる大勢の従業員とその家族を。

 私は、死ぬわけにはいかないんです。

 お願い、どうか......
 どうか......

 美姫の意識が朦朧とし、口から泡が出て、全身が痙攣する。

 秀一が突然現実に戻り、手を外した途端、美姫は力を失いバッタリと倒れた。

「み、美姫!? 美姫!!!
 しっかり......しっかりして下さい!!!」

 秀一は蒼白になり、美姫の躰に覆い被さった。

 私は、なんてことを......なんということを、してしまったのだ。
 愛する美姫を、手に掛けるなんて......

 秀一は、自分のした行為が信じられなかった。美姫を腕に抱いたまま、呆然とした。

「ッゴホッ、ゴホッ......」

 咳き込む音が響き、秀一が全身を震わせた。

「美姫......美姫......よかっ...」

 涙ぐむ秀一に、未だ朦朧としながらも美姫は秀一に訴えかけた。

「お、ねが......秀一、さん......生き、て。
 ピアニストとして、どうか生きて下さい......」

 秀一が、胸を詰まらせる。

 その時突然、背後から重い足音が響いた。

 秀一が後ろを振り向く前に腕を拘束され、白い布が口を覆った。

「ッ......!!」

 同時に胸を突かれ、息苦しくなった秀一は大きく息を吸い込み、クロロフィルムを嗅がされた。

 意識が朦朧とする中、秀一の視界に映るのは涙を浮かべた美姫の姿だった。

「秀一さん......ごめんな、さい......」

 美、姫......
 あなた、なのですか......

 美姫に手を伸ばそうとするものの、それは彼女に触れることなく、力なくだらりと床に落ちた。

「美姫さん、大丈夫ですか?」

 黒ずくめの大男の後ろから、か細い声が聞こえた。

 そこから顔を出したのは、秀一のマネージャー、上條智子だった。
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