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愛憎の果て
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ふたりの話が終わったのを見計らい、司会が案内する。
「では、今から質問を受け付けます。質問のある方は挙手願います。ひとりにつき、質問はひとつしか出来ませんのでご注意ください。
守れない方がおられた場合は、その時点で記者会見は終了となります」
それを合図に、一斉に記者の手が挙がる。
いよいよ、来た......
美姫は緊張で全身を固くした。
指名を受けた記者が、メモを手に質問する。
「あの週刊誌の記事の写真には、来栖秀一氏が美姫さんを横抱きにしたり、美姫さんと思われる女性とホテルの部屋でいかがわしい行為をしているようなものもありましたが、それについてはどう答えますか」
美姫が答える。
「大学の講堂で秀一さんが私を横抱きしたのは、私が凌辱の際の記憶が蘇ってパニックを起こし、倒れたのを助けあげたからです。あの写真にはふたりの姿しか載っていませんが、実際には周りにたくさんの学生がおり、私たちを囲んでいました。明らからに、ふたりの仲を見せつけるための悪意を感じます。
ホテルの部屋で撮られたあの写真の女性は、私ではありません。私は秀一さんとは別部屋でしたので、彼がどの女性と一夜を過ごしたのかは分かりませんが......彼は......常に女性関係は華やかですので、特定するのは難しいかと......思われます」
それを受け、会場に同調するような笑いが起こった。
続いて別の記者が質問する。
「ですが、叔父である来栖秀一氏の元に身を寄せたり、ご両親が合流しているものの一緒に旅行したり、叔父と姪の関係にしては、親しすぎるんじゃありませんか。ましてや、『ピアノ界の貴公子』と呼ばれるほどの秀一氏と一緒に過ごすうちに恋愛感情が芽生え、肉体関係になったと、こちらでは考えたくもなるのですが」
記者は、誘導尋問するかのように言った。だが、それが世間一般の考えなのだろう。
美姫は、乾いた唇を舐めて潤すと、喉から声を出した。
「たしかに、私は......秀一さんに対して、恋心を持っていました」
それを聞き、「おぉぉぉ」と記者たちが色めき立った。
「ですが、それは私が幼い頃の話です。
私の両親は仕事が忙しく、海外を飛び回る生活をしていて、なかなか会う機会がありませんでした。そんな私の遊び相手になってくれ、面倒を見てくれていたのが秀一さんでした。いつも優しく接してくれる秀一さんが私は大好きでした。
けれどそれは、ほんの幼い憧れ、思慕でしかありません。成長するにつれ、私はその違いを知りました。
彼は姪として私を愛し、私は叔父として彼を愛しています。それは昔から今まで、変わることはありません。私たちが特別親しいのは、私が両親と過ごすよりも秀一さんとの方が長い時間を過ごしてきたことにあると思います。
彼は私にとって兄のような、特別な存在なんです。確かに秀一さんは顔立ちも美しいですし、身のこなしも完璧で魅力的です。
私はそんな彼を叔父として、自慢に思っています」
一人の記者が声を上げる。
「でも、週刊誌に記事が載ったからと言って、もし潔白なら秀一氏は失踪などする必要はなかったんじゃないですか。それは、二人の間に疚やましいことがあったからとしか、思えないのですが」
「彼は以前、週刊誌にスキャンダルを取り上げられ、それ以来極度のマスコミ嫌いになっています。彼がどう説得しようと、マスコミはこぞって私たちの関係を叔父と姪の禁忌の恋愛だと決めつけ、おもしろおかしく書き立てるだろうと考えていました。それに、もし説明しようとすれば、私が凌辱されたことを話さなければならないので、秀一さんは私を守る為に、口を閉ざすことにしたのです。
確かに......詰まっていたスケジュールを全てキャンセルし、雲隠れしたことは事実ですが、彼はピアニストとしての道を断とうとしているわけではありません。
彼は、今年の夏に開催されるザルツブルグ音楽会に招待されています。その練習に打ち込むため、世間から離れたところに身を置くことにしたのです」
「では、今から質問を受け付けます。質問のある方は挙手願います。ひとりにつき、質問はひとつしか出来ませんのでご注意ください。
守れない方がおられた場合は、その時点で記者会見は終了となります」
それを合図に、一斉に記者の手が挙がる。
いよいよ、来た......
美姫は緊張で全身を固くした。
指名を受けた記者が、メモを手に質問する。
「あの週刊誌の記事の写真には、来栖秀一氏が美姫さんを横抱きにしたり、美姫さんと思われる女性とホテルの部屋でいかがわしい行為をしているようなものもありましたが、それについてはどう答えますか」
美姫が答える。
「大学の講堂で秀一さんが私を横抱きしたのは、私が凌辱の際の記憶が蘇ってパニックを起こし、倒れたのを助けあげたからです。あの写真にはふたりの姿しか載っていませんが、実際には周りにたくさんの学生がおり、私たちを囲んでいました。明らからに、ふたりの仲を見せつけるための悪意を感じます。
ホテルの部屋で撮られたあの写真の女性は、私ではありません。私は秀一さんとは別部屋でしたので、彼がどの女性と一夜を過ごしたのかは分かりませんが......彼は......常に女性関係は華やかですので、特定するのは難しいかと......思われます」
それを受け、会場に同調するような笑いが起こった。
続いて別の記者が質問する。
「ですが、叔父である来栖秀一氏の元に身を寄せたり、ご両親が合流しているものの一緒に旅行したり、叔父と姪の関係にしては、親しすぎるんじゃありませんか。ましてや、『ピアノ界の貴公子』と呼ばれるほどの秀一氏と一緒に過ごすうちに恋愛感情が芽生え、肉体関係になったと、こちらでは考えたくもなるのですが」
記者は、誘導尋問するかのように言った。だが、それが世間一般の考えなのだろう。
美姫は、乾いた唇を舐めて潤すと、喉から声を出した。
「たしかに、私は......秀一さんに対して、恋心を持っていました」
それを聞き、「おぉぉぉ」と記者たちが色めき立った。
「ですが、それは私が幼い頃の話です。
私の両親は仕事が忙しく、海外を飛び回る生活をしていて、なかなか会う機会がありませんでした。そんな私の遊び相手になってくれ、面倒を見てくれていたのが秀一さんでした。いつも優しく接してくれる秀一さんが私は大好きでした。
けれどそれは、ほんの幼い憧れ、思慕でしかありません。成長するにつれ、私はその違いを知りました。
彼は姪として私を愛し、私は叔父として彼を愛しています。それは昔から今まで、変わることはありません。私たちが特別親しいのは、私が両親と過ごすよりも秀一さんとの方が長い時間を過ごしてきたことにあると思います。
彼は私にとって兄のような、特別な存在なんです。確かに秀一さんは顔立ちも美しいですし、身のこなしも完璧で魅力的です。
私はそんな彼を叔父として、自慢に思っています」
一人の記者が声を上げる。
「でも、週刊誌に記事が載ったからと言って、もし潔白なら秀一氏は失踪などする必要はなかったんじゃないですか。それは、二人の間に疚やましいことがあったからとしか、思えないのですが」
「彼は以前、週刊誌にスキャンダルを取り上げられ、それ以来極度のマスコミ嫌いになっています。彼がどう説得しようと、マスコミはこぞって私たちの関係を叔父と姪の禁忌の恋愛だと決めつけ、おもしろおかしく書き立てるだろうと考えていました。それに、もし説明しようとすれば、私が凌辱されたことを話さなければならないので、秀一さんは私を守る為に、口を閉ざすことにしたのです。
確かに......詰まっていたスケジュールを全てキャンセルし、雲隠れしたことは事実ですが、彼はピアニストとしての道を断とうとしているわけではありません。
彼は、今年の夏に開催されるザルツブルグ音楽会に招待されています。その練習に打ち込むため、世間から離れたところに身を置くことにしたのです」
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