上 下
513 / 1,014
叩扉(こうひ)

13

しおりを挟む
 いつの間にか陽は落ち、部屋は真っ暗になっていた。

 応接椅子に座っていた凛子がのそりと立ち上がり、頼りない足取りで和室へと歩いてきた。

 膝を抱えて俯く美姫に、凛子の手が伸びる。

「美姫。
 大和くんから、これを......」

『大和』と聞き、美姫は顔を上げた。

 美姫の目の前には4つ折りにされた紙片があった。

 大和が、どうして......

 美姫の疑問を読んだように、凛子が答える。

「3日前に、大和くんと偶然病院で会ったんですよ」
「ぇ......」

 大和が、ここにいた。それは、悠がまだこの病院にいることを示していた。

 美姫の鼓動が、速くなる。

「彼、美姫のことをとても心配していて......その場でノートに何か書いて破ると、渡してほしいって頼まれました」

 凛子は美姫に紙片を渡すと、誠一郎の様子を見る為に背を向け、ベッドへ向かった。

 美姫は凛子の背中を見送ると、暗くなった部屋で4つ折りになった紙片を広げ、目をこらして読んだ。

 大和の走り書きを読んでいるうちに、美姫の瞳孔が次第に大きく開いていく。心臓が胸を突き破りそうなほどに爆動し、大きく開いた瞳孔からはみるみるうちに涙が溢れ出した。

 悠!

 悠、が......!!!

「ウッ...ウグッ......ヒッ...ッグ......ウヴッ......」

 美姫はそれから一晩中泣き続け、悩み続けた。頭の中をぐるぐると様々な思考が渦を巻き、混乱し、掻き乱され、不安に慄きながらも......
 美姫は、ようやくひとつの決断に辿り着いた。

 秀一さんと、私の為に……こうするしか、ない。

 重い躰を引き摺るようにして和室を出ると、ベッドの側に座る凛子が誠一郎のベッドに倒れかかるようにして眠っていた。父の無事を遠目に確かめた後、美姫はスマホを握り締めて病室を後にした。

 大きなガラス窓が嵌め込まれた応接ルームには、人気がなかった。
 
 美姫はスマホを胸の高さまで持ち上げ、記憶の中にある番号を押した。電話の通信音が鳴り響く間、美姫の心臓もバクバクと鳴り響いていた。

 相手が電話を取った受信音が「ピッ」と短く鳴った。美姫は相手の声を聞き、ゴクリと唾を飲み込んだ。

「もし、もし......」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ハイスペック上司からのドSな溺愛

鳴宮鶉子
恋愛
ハイスペック上司からのドSな溺愛

義妹のミルク

笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。 母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。 普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。 本番はありません。両片想い設定です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

処理中です...