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叩扉(こうひ)
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「両親を早くに亡くし、女手ひとつで私を育ててくれた祖母との二人暮し。苦労した祖母のため、必死に勉学に励んで大学を卒業後、大手企業の秘書を務めることになりました。
その後、私のそこでの働きぶりが評価を受け、来栖財閥の秘書としてヘッドハンティングされました。それを聞き、祖母は亡くなった私の両親にようやく顔向け出来ると、泣いて喜んでくれました。
そんな祖母を思うと、来栖財閥会長である来栖嘉一に手篭めにされたことなど、言えるはずなかった......
誠一郎さんの教育係を任された時、最初は嘉一の息子であることから、私はなるべく仕事以外では関わらないように避けていました。けれど、誠一郎さん......貴女のお父様は、来栖嘉一とはまったく違う、人間味のある優しい人でした。私は誠一郎さんの誠実で優しい人柄を知るにつれ、少しずつ彼に惹かれていくのを感じていました」
母の口から聞かされる、父との本当の馴れ初め話に、美姫はじっと耳を傾けた。
凛子の表情が曇り、低い声が落ちる。
「けれど、私は彼の父である嘉一の愛人。誠一郎さんは、私が嘉一の愛人であることを知りませんでした。私は自分の思いを押し隠し、彼となるべく距離をとろうとしました。
誠一郎さんが自分の思いを告白してくれた時も、お付き合いすることは出来ないとつっぱねたわ。ふふっ......それでも誠一郎さんは、諦めようとしませんでした。あなたのお父様、意外と頑固だから。
何度も何度も繰り返し、私に愛を告げてくれた誠一郎さん。その度に、心が引き裂かれそうな程の痛みを覚えました......」
ハァッ...と、深い溜息が吐かれた。
「けれど、ある時......誠一郎さんに、私が嘉一の愛人であることが知られてしまいました。誠一郎さんはショックを受けつつも、『それでも、自分の気持ちは変わらない』と言ってくれました。
そんな誠一郎さんの言葉が嬉しくて......私はついに、彼の愛を受け入れてしまったのです。
来栖財閥次期社長である誠一郎さんと一介の秘書である身寄りのない私の結婚を、来栖嘉一が許すはずないことは分かっていました。それでも私は、誠一郎さんの本妻にはなれなくても、愛人として認めてもらえるならそれでもいい......そう、思っていたのです」
凛子の決意を聞き、美姫は身を固くした。
ふたりの恋は、シンデレラストーリーなんてものじゃなかった。お母様はお父様への恋心を貫くため、愛人になる覚悟すら、していたんだ。
山道を下りて暫く走ると、昨日秀一と行ったコンビニエンスストアが視界に入った。
あの時見かけた学生たちが、ツイッターしたのかな......
そんなことを考えていると、凛子が再び口を開いた。
「私と誠一郎さんが隠れて付き合うようになってから暫くして、嘉一と妻の静江が不慮の事故により、亡くなりました。突然の出来事に驚きつつも、私は秘書としてその対応に追われて過ごしました。
そんな中、誠一郎さんが来栖財閥を受け継いで社長となり、私にプロポーズしてくれたのです。まるで、夢を見ているんじゃないかと思ったわ......喪が明けたら結婚しようと言ってくれた誠一郎さんの言葉に幸福になり、花嫁になる日を待ち侘びました。
そして、誠一郎さんと結婚し、一緒に暮らし始めました。これから、もっともっと幸せな生活が始まる......そう、信じていました」
過去として語る凛子の言葉に、美姫はずっしりと重いものを感じた。
その後、私のそこでの働きぶりが評価を受け、来栖財閥の秘書としてヘッドハンティングされました。それを聞き、祖母は亡くなった私の両親にようやく顔向け出来ると、泣いて喜んでくれました。
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何度も何度も繰り返し、私に愛を告げてくれた誠一郎さん。その度に、心が引き裂かれそうな程の痛みを覚えました......」
ハァッ...と、深い溜息が吐かれた。
「けれど、ある時......誠一郎さんに、私が嘉一の愛人であることが知られてしまいました。誠一郎さんはショックを受けつつも、『それでも、自分の気持ちは変わらない』と言ってくれました。
そんな誠一郎さんの言葉が嬉しくて......私はついに、彼の愛を受け入れてしまったのです。
来栖財閥次期社長である誠一郎さんと一介の秘書である身寄りのない私の結婚を、来栖嘉一が許すはずないことは分かっていました。それでも私は、誠一郎さんの本妻にはなれなくても、愛人として認めてもらえるならそれでもいい......そう、思っていたのです」
凛子の決意を聞き、美姫は身を固くした。
ふたりの恋は、シンデレラストーリーなんてものじゃなかった。お母様はお父様への恋心を貫くため、愛人になる覚悟すら、していたんだ。
山道を下りて暫く走ると、昨日秀一と行ったコンビニエンスストアが視界に入った。
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そして、誠一郎さんと結婚し、一緒に暮らし始めました。これから、もっともっと幸せな生活が始まる......そう、信じていました」
過去として語る凛子の言葉に、美姫はずっしりと重いものを感じた。
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