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崩れゆく世界

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 美姫は、慎重に駐車場を見回した。秀一の車の横には他の車が横付けされており、ここからは死角になる。

 万全を期すため、別の場所に移動し、秀一を確認するとスマホで話しているのが見えた。きっと管理人と話をつけているところなのだろう。

 再び雑誌コーナーへと戻り、秀一の姿が完全に見えないことを確認すると、美姫はおそるおそる雑誌を手にした。雑誌を持つ指が、細かく震えている。

 目次から頁を追うと、例の記事が見開きで載っていた。

 遠沢の名前は伏せられていた。彼は以前、来栖秀一と当時新進女優だった加賀美 梨華との熱愛をスクープした報道カメラマンで、今回は秀一と姪の恋仲を暴露する写真をスクープし、その記事が先週の雑誌に掲載されたことが説明されていた。

 記事によると、週刊誌が発売された3日後、遠沢は滞在していたホテルの屋上から飛び降り自殺したとのことだった。靴は綺麗にそろえられており、そこには自筆の遺書が入っていたらしい。

 記事には、遺書の写真が掲載されていた。A4サイズの白紙には、手書きではなくパソコンで打った文章が横書きに並んでいた。最後の遠沢隼人と書かれた印字の下に、本人のものと思われる自筆のサインが書かれている。 

 遺書には、次のように書かれていた。

「先日週刊誌に掲載された来栖秀一氏と姪の●●さんが恋人関係であるという記事は、すべて捏造したものです。来栖秀一氏に恨みをもつある人物から依頼され、報酬を受け取りました。
 ですが、事態が大きくなるにつれて恐ろしくなり、自身の犯した罪の意識に苛まれ、死をもって責任をとることにしました。
 世間を騒がせ、来栖秀一氏や●●さん、おふたりのご家族にもご迷惑を掛け、来栖財閥に多大な影響を及ぼし、大変申し訳ありませんでした。

 遠沢 隼人」

 美姫は来栖家令嬢とはいえ一般人の為か、名前は伏せられていた。そこに掲載されていた写真も秀一は顔が出ているものの、美姫の方には目に黒い線が引かれ、一応の配慮はなされていた。

 おそらく、先週の記事でもそうだったのだろう。だが、もし興味を持って調べれば、すぐに美姫の顔と名前などすぐに分かってしまうだろう。

 記事には、『現在来栖秀一とその恋人と噂される来栖家令嬢は失踪しており、自殺したカメラマンとの間に何かあったのでは......』と、関連性を疑うようなコメントが添えられていた。

 美姫は震える手で週刊誌を戻した。

 そ、んな......あのカメラマンが、自殺だなんて。

 美姫は、遠沢という人物については久美や秀一から得た情報でしか知りえなかった。だが、久美や秀一の話では、久美を強姦したあげく口止め料までせしめ、今回のスクープネタの報酬まで独り占めするような男だ。

 遺書で謝罪し、自殺するなんて......ありえない。

 美姫はそう、感じた。

 先ほど読んだ、記者のコメントが脳裏に浮かび上がる。

 秀一さんと遠沢の間にある、事件との関連性......

 その先は、考えたくなかった。
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