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決裂
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美姫は秀一を愛してはいるが、愛していてさえも、秀一が恐ろしいとは思わずにはいられなかった。
礼音も、久美も......秀一にとっては虫けら、いや、虫けら以下の存在なのだと感じた。美姫を傷つけ、二人の仲を引き裂く相手には、容赦しない。礼音の写真を見た時に、秀一の残虐性を垣間見た気がしたが、今隣にいる秀一から漂う殺気を感じ、改めて美姫は彼の中の残虐性を認めずにはいられなかった。
そうだ。
私は、久美を助けたいから秀一さんを止めたいんじゃない。
秀一さんに、これ以上罪を重ねて欲しくないから。自分が、もうこれ以上罪悪感に押し潰されたくないから......秀一さんを、止めたいんだ。
美姫は、はっきりと悟った。
「もし、久美に制裁をし、万、が一......さつ、がい...でもすることがあれば......私は、死ぬほどの苦しみを味わうことになるでしょう」
苦しげに告げる美姫を優しく抱き締めながら、秀一が美姫の髪を梳いた。
「美姫......貴女が苦しむことはないのです。悪いのは全部、あの女なのですから。自業自得、報いを受けてしかるべきなのです」
だが、秀一の腕の中で美姫は思い切り頭かぶりを振り、涙目で見上げた。
「違う!違うんです、秀一さん!
私はただ......自分のために。自分のエゴで、秀一さんを止めたいんです」
それを聞き、秀一が秀麗な眉をピクリとさせた。
「自分のため、ですか?」
久美に制裁することを止めることが、どうして美姫のためになるのか、それをエゴだと言うのか、秀一には全く理解できなかった。
「秀一さんには今まで黙っていましたが、寮で久美と会った時に、礼音があの事件の翌日に退学処分を受けたことを聞いていたんです。
私、その時すぐにそれが秀一さんの指示によるものだって分かりました。退学処分にするぐらいだから、礼音に対しても何らかの危害を加えたに違いないって。
秀一さんは、私を守るためになら何でも出来る......そう、心の中では分かっていたものの、それを認めたくありませんでした。
秀一さんが私を守ろうとし、私のした過ちのせいで自らの手を汚すことが恐くて。あれは秀一さんがしたことだと認めることで、私の罪の意識が大きくなっていくのが恐ろしくて。臭いものに蓋をするように、礼音のことは自分の記憶から消すことにしたんです。
あの、事件と共に......」
美姫が礼音の退学処分を随分前から知っていたことに秀一は驚き、目眩を覚えた。
もし美姫があの時点で久美から礼音の退学処分の話を聞いたと話してくれていれば、復讐の芽をすぐに摘み採れていたはずなのに。
そう思ったところで、今となっては後の祭りだ。
「久美から送られた礼音の写真を見た時、私の心に浮かんだもの。
それは、礼音に対しての同情ではなく、久美に対しての怒りでもなくて......秀一さんへの、懺悔でした。あの人間非道とも思える凄惨な礼音への制裁は、秀一さんの私への愛情の証でもあると知っているから。
あんなことをさせてしまって、ごめんなさい。いつも秀一さんは、私のせいで......その美しい手を、汚すことになって......ごめ、な......ッグ」
その後、嗚咽を漏らした美姫に、秀一も熱い喉の塊が焼け付くようにジンジンするのを感じた。
美姫は溢れそうになる涙を抑えると、一度深呼吸をしてから再び話し始めた。
「お父様との時だってそう。本当は、秀一さんはお父様を愛してらっしゃるのに。私との愛を貫くため、一生誰にも話すことはないと隠し通していた殺人幇助の罪を暴露すると脅すことになった。
そして今また、私たちの関係を守るために、久美にその手を伸ばそうとしている。
全部、私のせいなんです。秀一さんは私を、私たちの関係を守ろうとする度に、その手を汚し、罪を重ねている。
苦、しいんです......私の、せいで......ごめんなさ......ごめっ...しゅ、いちさ.....もう、これ以上......ッグ......私の為に、汚れないで、ウッくだ、さっ......ヒクッ
おねが......お、ねがっ......」
美姫は秀一に縋りつき、必死に何度も何度も頭を下げた。
礼音も、久美も......秀一にとっては虫けら、いや、虫けら以下の存在なのだと感じた。美姫を傷つけ、二人の仲を引き裂く相手には、容赦しない。礼音の写真を見た時に、秀一の残虐性を垣間見た気がしたが、今隣にいる秀一から漂う殺気を感じ、改めて美姫は彼の中の残虐性を認めずにはいられなかった。
そうだ。
私は、久美を助けたいから秀一さんを止めたいんじゃない。
秀一さんに、これ以上罪を重ねて欲しくないから。自分が、もうこれ以上罪悪感に押し潰されたくないから......秀一さんを、止めたいんだ。
美姫は、はっきりと悟った。
「もし、久美に制裁をし、万、が一......さつ、がい...でもすることがあれば......私は、死ぬほどの苦しみを味わうことになるでしょう」
苦しげに告げる美姫を優しく抱き締めながら、秀一が美姫の髪を梳いた。
「美姫......貴女が苦しむことはないのです。悪いのは全部、あの女なのですから。自業自得、報いを受けてしかるべきなのです」
だが、秀一の腕の中で美姫は思い切り頭かぶりを振り、涙目で見上げた。
「違う!違うんです、秀一さん!
私はただ......自分のために。自分のエゴで、秀一さんを止めたいんです」
それを聞き、秀一が秀麗な眉をピクリとさせた。
「自分のため、ですか?」
久美に制裁することを止めることが、どうして美姫のためになるのか、それをエゴだと言うのか、秀一には全く理解できなかった。
「秀一さんには今まで黙っていましたが、寮で久美と会った時に、礼音があの事件の翌日に退学処分を受けたことを聞いていたんです。
私、その時すぐにそれが秀一さんの指示によるものだって分かりました。退学処分にするぐらいだから、礼音に対しても何らかの危害を加えたに違いないって。
秀一さんは、私を守るためになら何でも出来る......そう、心の中では分かっていたものの、それを認めたくありませんでした。
秀一さんが私を守ろうとし、私のした過ちのせいで自らの手を汚すことが恐くて。あれは秀一さんがしたことだと認めることで、私の罪の意識が大きくなっていくのが恐ろしくて。臭いものに蓋をするように、礼音のことは自分の記憶から消すことにしたんです。
あの、事件と共に......」
美姫が礼音の退学処分を随分前から知っていたことに秀一は驚き、目眩を覚えた。
もし美姫があの時点で久美から礼音の退学処分の話を聞いたと話してくれていれば、復讐の芽をすぐに摘み採れていたはずなのに。
そう思ったところで、今となっては後の祭りだ。
「久美から送られた礼音の写真を見た時、私の心に浮かんだもの。
それは、礼音に対しての同情ではなく、久美に対しての怒りでもなくて......秀一さんへの、懺悔でした。あの人間非道とも思える凄惨な礼音への制裁は、秀一さんの私への愛情の証でもあると知っているから。
あんなことをさせてしまって、ごめんなさい。いつも秀一さんは、私のせいで......その美しい手を、汚すことになって......ごめ、な......ッグ」
その後、嗚咽を漏らした美姫に、秀一も熱い喉の塊が焼け付くようにジンジンするのを感じた。
美姫は溢れそうになる涙を抑えると、一度深呼吸をしてから再び話し始めた。
「お父様との時だってそう。本当は、秀一さんはお父様を愛してらっしゃるのに。私との愛を貫くため、一生誰にも話すことはないと隠し通していた殺人幇助の罪を暴露すると脅すことになった。
そして今また、私たちの関係を守るために、久美にその手を伸ばそうとしている。
全部、私のせいなんです。秀一さんは私を、私たちの関係を守ろうとする度に、その手を汚し、罪を重ねている。
苦、しいんです......私の、せいで......ごめんなさ......ごめっ...しゅ、いちさ.....もう、これ以上......ッグ......私の為に、汚れないで、ウッくだ、さっ......ヒクッ
おねが......お、ねがっ......」
美姫は秀一に縋りつき、必死に何度も何度も頭を下げた。
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