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邂逅(かいこう)
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「こんなとこで、何してんだ?」
「ッや、まと……」
どうして、この人は……
「な、んで……」
私が寂しい時、苦しい時に……
「や、今日実家寄ってて、なんか腹減ったからコンビニ行った帰り道」
いつも、現れるんだろう。
「ッッ……」
どう、して……
「ッグ……ヒグッや、まどぉっっウウッ……ッグ、ッグ」
大和を見た途端、気が緩んだ涙腺が一気に崩壊し、美姫は泣きじゃくった。
「美、姫……」
大和がハッとし、美姫の側に歩み寄ると、少し間を空けて隣に座った。
「ッッグ……ウッウッ……ヒグッ……ウッ...ッグ……」
大和が座ってる。
何も、しないのに。
何も、言わないのに。
ただ、隣に大和が座ってくれている。それだけで、鋭く尖った針が無数に突き刺さっているようだった心の痛みが和らいでいく。それがほんの一時的なものだと分かっていても、美姫にとってその救いは何よりも今、必要なものだった。
美姫の感情の波が穏やかになる頃を見計らって、大和が彼女の目の前に白いふわふわしたものを差し出した。
「こ、れ……」
「さっき、コンビニで買った。早く食わねぇと、冷めちまうから」
「……ありがと」
美姫は受け取った中華まんを半分に割って、片方を大和に渡した。外側は冷えて冷たくなっていたが、割った途端に中から白い湯気が出て、まだ温かかった。
「……相変わらず、カレーまん好きなんだね」
ぽつりと美姫が呟く。
大和もボソッと呟き返した。
「ピザまんでなくて悪かったな」
どちらを買うかで言い争って、お互い好きなのを買うことにしたものの、相手の食べているのが気になって、結局半分ずつして食べた……そんな時もあったと、思い出す。
考えてみれば、今日はずっと秀一さんの行動が気になってたから、まともに食事とれてなかったな。
一口頬張るとカレーの香辛料が口の中にほんわりと広がり、それが空腹だったことすら忘れていた神経を刺激して、たちまち食欲を増進させた。
あったかい……
カレーまんの温かさが五臓六腑に染み渡っていき、涙が再びじわりと湧いてきた。懐かしい、味だった。
「ほら、これも」
差し出された缶コーヒー。
「うん……」
まだ満たされていない胃の状態で飲むには刺激が強すぎると思いつつも、美姫は口をつけた。食道にまでコーヒーが流れ込む感覚が伝わり、熱い液体に胃がキリっとする。泣きすぎてボーッとしていた頭が冴えてくる気がした。
一口、一口、噛み締めるように、美姫はカレーまんとコーヒーを少しずつ味わった。そんな様子を見つめることもせず、大和はただベンチに躰を預け、誰も乗ることのないスプリング遊具を見つめている。
ブランコ脇の街灯がチカチカと点滅し、やがて光が弱くなっていき、消えた。いつもよりも澄んだ空に瞬く冬の星座が、優しくふたりを包み込んだ。
やがて、美姫はベンチから立ち上がった。
「大和、ありがとう……私、戻るね」
その声に、大和も立ち上がる。
「実家か? 送るよ」
「いいよ。すぐ近くだし」
大和は美姫の手から紙屑とコーヒーの缶を取り上げてコンビニの袋に入れると、ゴミ箱へと捨てに行った。その足で、歩き始める。
「夜道をひとりで歩くなんて、危ねぇだろ」
いつも、そう。私は、大和の優しさに守られてしまう。
そして……そんな彼の優しさを、踏みにじってしまうんだ。
歩き出した途端、強い風が吹き付け、美姫はブルッと震えて両手で躰を抱き締めた。
「ほら、これ着とけ」
ふわっと暖かいものに包まれて、胸元を見ると、大和のダウンジャケットだった。
「いいから、着とけって」
大和は美姫が言いだそうとする言葉さえも予期し、その前に強引にそう言って少し前を歩き出した。
「あり、がとう……」
ほら、また。
温かいのに……
切なくて、悲しくて、苦しくて、
ーー大和の、匂いがする。
泣きたく、なる。
大和は、実家の近くの公園のベンチに座っていたこと、急に泣き出したことについて、何も聞いてこなかった。ふたりは、黙々と歩いた。
家が近くなるにつれ、その気持ちと共に重くなり、ゆっくりとなる美姫の足取りに前を歩いていた大和が気づき、立ち止まる。追いついた美姫から少し離れて横に並ぶと、美姫の歩幅に合わせて大和が再び歩き出した。
美姫の実家の門前まで来ると、大和は急にじっと美姫の瞳を見つめた。
「あの、さぁ……」
やっぱり、何かあったのか聞かれるのかもしれない。
心臓がギュッと掴まれたように軋むのを感じながら、美姫は大和を見上げた。
「ッや、まと……」
どうして、この人は……
「な、んで……」
私が寂しい時、苦しい時に……
「や、今日実家寄ってて、なんか腹減ったからコンビニ行った帰り道」
いつも、現れるんだろう。
「ッッ……」
どう、して……
「ッグ……ヒグッや、まどぉっっウウッ……ッグ、ッグ」
大和を見た途端、気が緩んだ涙腺が一気に崩壊し、美姫は泣きじゃくった。
「美、姫……」
大和がハッとし、美姫の側に歩み寄ると、少し間を空けて隣に座った。
「ッッグ……ウッウッ……ヒグッ……ウッ...ッグ……」
大和が座ってる。
何も、しないのに。
何も、言わないのに。
ただ、隣に大和が座ってくれている。それだけで、鋭く尖った針が無数に突き刺さっているようだった心の痛みが和らいでいく。それがほんの一時的なものだと分かっていても、美姫にとってその救いは何よりも今、必要なものだった。
美姫の感情の波が穏やかになる頃を見計らって、大和が彼女の目の前に白いふわふわしたものを差し出した。
「こ、れ……」
「さっき、コンビニで買った。早く食わねぇと、冷めちまうから」
「……ありがと」
美姫は受け取った中華まんを半分に割って、片方を大和に渡した。外側は冷えて冷たくなっていたが、割った途端に中から白い湯気が出て、まだ温かかった。
「……相変わらず、カレーまん好きなんだね」
ぽつりと美姫が呟く。
大和もボソッと呟き返した。
「ピザまんでなくて悪かったな」
どちらを買うかで言い争って、お互い好きなのを買うことにしたものの、相手の食べているのが気になって、結局半分ずつして食べた……そんな時もあったと、思い出す。
考えてみれば、今日はずっと秀一さんの行動が気になってたから、まともに食事とれてなかったな。
一口頬張るとカレーの香辛料が口の中にほんわりと広がり、それが空腹だったことすら忘れていた神経を刺激して、たちまち食欲を増進させた。
あったかい……
カレーまんの温かさが五臓六腑に染み渡っていき、涙が再びじわりと湧いてきた。懐かしい、味だった。
「ほら、これも」
差し出された缶コーヒー。
「うん……」
まだ満たされていない胃の状態で飲むには刺激が強すぎると思いつつも、美姫は口をつけた。食道にまでコーヒーが流れ込む感覚が伝わり、熱い液体に胃がキリっとする。泣きすぎてボーッとしていた頭が冴えてくる気がした。
一口、一口、噛み締めるように、美姫はカレーまんとコーヒーを少しずつ味わった。そんな様子を見つめることもせず、大和はただベンチに躰を預け、誰も乗ることのないスプリング遊具を見つめている。
ブランコ脇の街灯がチカチカと点滅し、やがて光が弱くなっていき、消えた。いつもよりも澄んだ空に瞬く冬の星座が、優しくふたりを包み込んだ。
やがて、美姫はベンチから立ち上がった。
「大和、ありがとう……私、戻るね」
その声に、大和も立ち上がる。
「実家か? 送るよ」
「いいよ。すぐ近くだし」
大和は美姫の手から紙屑とコーヒーの缶を取り上げてコンビニの袋に入れると、ゴミ箱へと捨てに行った。その足で、歩き始める。
「夜道をひとりで歩くなんて、危ねぇだろ」
いつも、そう。私は、大和の優しさに守られてしまう。
そして……そんな彼の優しさを、踏みにじってしまうんだ。
歩き出した途端、強い風が吹き付け、美姫はブルッと震えて両手で躰を抱き締めた。
「ほら、これ着とけ」
ふわっと暖かいものに包まれて、胸元を見ると、大和のダウンジャケットだった。
「いいから、着とけって」
大和は美姫が言いだそうとする言葉さえも予期し、その前に強引にそう言って少し前を歩き出した。
「あり、がとう……」
ほら、また。
温かいのに……
切なくて、悲しくて、苦しくて、
ーー大和の、匂いがする。
泣きたく、なる。
大和は、実家の近くの公園のベンチに座っていたこと、急に泣き出したことについて、何も聞いてこなかった。ふたりは、黙々と歩いた。
家が近くなるにつれ、その気持ちと共に重くなり、ゆっくりとなる美姫の足取りに前を歩いていた大和が気づき、立ち止まる。追いついた美姫から少し離れて横に並ぶと、美姫の歩幅に合わせて大和が再び歩き出した。
美姫の実家の門前まで来ると、大和は急にじっと美姫の瞳を見つめた。
「あの、さぁ……」
やっぱり、何かあったのか聞かれるのかもしれない。
心臓がギュッと掴まれたように軋むのを感じながら、美姫は大和を見上げた。
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