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悍しい記憶 ー秀一回想ー
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その後、どう帰ったのか記憶がない。家でのピアノレッスンでも集中を欠き、珍しく講師に注意された。
重く気怠い躰を引き摺ってベッドに沈み込ませるものの、躰は疲労しているのに目が冴えて眠れない。昼間の女教師との忌まわしい悪夢を否が応でも思い出させられた。
恐怖と嫌悪感で頭が満たされているというのに、それとは逆に下半身は疼いた。そんな自分にも、失望を覚えた。
心から愛し、深い愛情で包んでくれていた母は、もういない。愛されたいという父への願いは、出会った瞬間に消え去った。
愛してくれていると信じていた兄様は、私から離れていった。
信頼を寄せていた先生には、その思いを打ち砕かれた。
絶望と孤独と憤りが、ぽっかりと空いた胸の中に渦巻く。
愛するから、愛されたいと願うから、信じていたから……裏切られたと、深く傷つくことになるのだ。
だったら、私は……もう誰も、愛さない。誰にも、愛されたくなど、ない。
誰も、信じない。
決して……心の内を明かさない。
だから、今夜だけ、は……
「……ッ、ウゥッ……ッグ」
布団に潜り込み、声を押し殺して泣いた。
重い瞼に差し込む光。朝を知らせる窓辺の鳥の囀さえずり。
廊下からくぐもって聞こえるメイド達の足音。
朦朧としながらも、朝の気配に少しずつ意識を覚醒した私は、違和感を覚えてシーツを捲った。
「ッ!!」
私の肉棒からはトランクスとパジャマを通して白い液が滴り落ち、シーツを濡らしていた。夢精、だった。
初めてのことに戸惑い、そして恐怖を覚える。
もし、これを義母に知られてしまったら、どんな仕打ちをうけるか分からない。
そう思っているうちに、扉をノックする音が聞こえて躰がビクンとなる。
メイドだ。
毎日メイドは私を起こし、私が朝食を食べている間にシーツを新しいものと交換する。もしシーツが濡れていることをあの女に告げ口されたら……終わりだ。急いでパジャマを脱ぎ、濡れたパジャマとトランクスをゴミ箱に捨てて着替えた。
いつもならメイドが来る前に着替え終わり、全身の関節から始め、指のストレッチを丹念に行うのが日課だった。だが、昨夜は泣き疲れた果てに微睡むようにして意識を失くしていたようだ。これ以上時間をかけては、メイドに怪しまれてしまう。
「はい……」
緊張がそのまま表れたような硬い口調で答え、扉を開けた。
「秀一坊っちゃま、おはようございます。朝食の準備が整っておりますので、どうぞダイニングルームへ」
いつもならそのままメイドとすれ違いに扉の外へ向かうが、シーツのことがあり、離れられない。
メイドは中に入ることができず、不審な表情を見せた。
「坊っちゃま、どうなさったのですか?」
ここにずっと立っているわけにはいかない。
覚悟を決め、メイドを中に通して扉を閉めた。メイドはさっさと中に入るといつも通りの仕事を始めた。
どうか、シーツが濡れていることが見つかりませんように……
祈るように見つめる視線の先。羽毛布団を持ち上げた途端、メイドの表情がハッとする。
露呈してしまった。終わりだ……
「坊っ、ちゃま……」
トランクスを捨てる際に慌てて白くドロッとした部分を拭いたものの、まだシミが残っている。見た目だけで判断すれば、夜尿にも見える。だがそこからは微かではあるが、野生の雄の匂いがしていた。
私はどうしていいか分からず、咄嗟にメイドの胸に飛び込んだ。
「お、願いです!! あの人たちには……言わないで、下さい」
こんなものを見られて羞恥で頬が火照り、情けなさで瞳を潤ませながらメイドを見上げ、必死に懇願した。
すると、今まで仕事用の表情で接していたメイドが急に瞳の色を変えた。私を切なく愛おしそうな眼差しで見つめ、頬をピンクに染め、その口元を緩ませた。
メイドがおずおずと手を差し伸べ、私の頭を優しく撫でた。
「秀一坊っちゃま。私、決して誰にも話しませんので、ご安心ください」
そう言って微笑んだメイドからは、女教師と同じ、雌の匂いがした。
学校へなど、行く気分ではなかった。だが、休めば何か疑われるかもしれない。もしかしたら、あの女教師が家に直接電話を掛けてくるかもしれない。
そう思うと、行くしかなかった。
女は、皆の見ているホームルームや授業中には不審な態度を見せることはなかった。
また学校が終わった後で呼び出されるのではとビクビクしていたが、それもなく、かえって肩透かしに感じたほどだった。
そして、何事もなく日々が過ぎていった。
重く気怠い躰を引き摺ってベッドに沈み込ませるものの、躰は疲労しているのに目が冴えて眠れない。昼間の女教師との忌まわしい悪夢を否が応でも思い出させられた。
恐怖と嫌悪感で頭が満たされているというのに、それとは逆に下半身は疼いた。そんな自分にも、失望を覚えた。
心から愛し、深い愛情で包んでくれていた母は、もういない。愛されたいという父への願いは、出会った瞬間に消え去った。
愛してくれていると信じていた兄様は、私から離れていった。
信頼を寄せていた先生には、その思いを打ち砕かれた。
絶望と孤独と憤りが、ぽっかりと空いた胸の中に渦巻く。
愛するから、愛されたいと願うから、信じていたから……裏切られたと、深く傷つくことになるのだ。
だったら、私は……もう誰も、愛さない。誰にも、愛されたくなど、ない。
誰も、信じない。
決して……心の内を明かさない。
だから、今夜だけ、は……
「……ッ、ウゥッ……ッグ」
布団に潜り込み、声を押し殺して泣いた。
重い瞼に差し込む光。朝を知らせる窓辺の鳥の囀さえずり。
廊下からくぐもって聞こえるメイド達の足音。
朦朧としながらも、朝の気配に少しずつ意識を覚醒した私は、違和感を覚えてシーツを捲った。
「ッ!!」
私の肉棒からはトランクスとパジャマを通して白い液が滴り落ち、シーツを濡らしていた。夢精、だった。
初めてのことに戸惑い、そして恐怖を覚える。
もし、これを義母に知られてしまったら、どんな仕打ちをうけるか分からない。
そう思っているうちに、扉をノックする音が聞こえて躰がビクンとなる。
メイドだ。
毎日メイドは私を起こし、私が朝食を食べている間にシーツを新しいものと交換する。もしシーツが濡れていることをあの女に告げ口されたら……終わりだ。急いでパジャマを脱ぎ、濡れたパジャマとトランクスをゴミ箱に捨てて着替えた。
いつもならメイドが来る前に着替え終わり、全身の関節から始め、指のストレッチを丹念に行うのが日課だった。だが、昨夜は泣き疲れた果てに微睡むようにして意識を失くしていたようだ。これ以上時間をかけては、メイドに怪しまれてしまう。
「はい……」
緊張がそのまま表れたような硬い口調で答え、扉を開けた。
「秀一坊っちゃま、おはようございます。朝食の準備が整っておりますので、どうぞダイニングルームへ」
いつもならそのままメイドとすれ違いに扉の外へ向かうが、シーツのことがあり、離れられない。
メイドは中に入ることができず、不審な表情を見せた。
「坊っちゃま、どうなさったのですか?」
ここにずっと立っているわけにはいかない。
覚悟を決め、メイドを中に通して扉を閉めた。メイドはさっさと中に入るといつも通りの仕事を始めた。
どうか、シーツが濡れていることが見つかりませんように……
祈るように見つめる視線の先。羽毛布団を持ち上げた途端、メイドの表情がハッとする。
露呈してしまった。終わりだ……
「坊っ、ちゃま……」
トランクスを捨てる際に慌てて白くドロッとした部分を拭いたものの、まだシミが残っている。見た目だけで判断すれば、夜尿にも見える。だがそこからは微かではあるが、野生の雄の匂いがしていた。
私はどうしていいか分からず、咄嗟にメイドの胸に飛び込んだ。
「お、願いです!! あの人たちには……言わないで、下さい」
こんなものを見られて羞恥で頬が火照り、情けなさで瞳を潤ませながらメイドを見上げ、必死に懇願した。
すると、今まで仕事用の表情で接していたメイドが急に瞳の色を変えた。私を切なく愛おしそうな眼差しで見つめ、頬をピンクに染め、その口元を緩ませた。
メイドがおずおずと手を差し伸べ、私の頭を優しく撫でた。
「秀一坊っちゃま。私、決して誰にも話しませんので、ご安心ください」
そう言って微笑んだメイドからは、女教師と同じ、雌の匂いがした。
学校へなど、行く気分ではなかった。だが、休めば何か疑われるかもしれない。もしかしたら、あの女教師が家に直接電話を掛けてくるかもしれない。
そう思うと、行くしかなかった。
女は、皆の見ているホームルームや授業中には不審な態度を見せることはなかった。
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