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それぞれの懺悔
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陽子の運転する車が、悠の搬送された病院の駐車場に停まる。
車中では、ふたりとも押し黙ったままだった。
終始小刻みに震えている美姫を陽子は心配していたが、それを言葉にしてしまうと更に不安になりそうで、声をかけることが出来なかった。美姫もまた、陽子が自分を気にかけていることを知りつつ、安心させてやる言葉を見つけることが出来ずにいたのだった。
美姫が自宅から持参した空色の傘を、背の高い陽子が差す。爽やかな傘の色とは対照的に、空はどんよりとした灰褐色に覆われていた。
昼から降り始めた雪は、もう既に辺り一面を真っ白く覆い尽くし、横殴りに吹雪が吹き付ける。
ふたりでひとつの傘に入ると病院へと急いだ。傘を差していても、髪や衣服に雪が突き刺さってくる。美姫は寒さから身を守るように、コートを強く胸元に引き寄せながら陽子と共に早足で歩いた。
一歩足を進める度に、水気を含んだ重い雪がブーツの中にまで染み込んでくるように感じた。
駐車場を越してロータリー沿いに歩き、タクシー乗り場を通り過ぎ、外来診療入口からロビーに入る。自動扉が開いた途端、室内の温度が体を溶かすようにして浸透してきた。
本来ならここで人心地つきたいところだが、今は一刻も早く悠のいる手術室へ向かわなければならない。
ふたりは落ち着きなく周りを見渡した。入口から真正面にある白い半円のテーブルの上に「総合案内」の札があり、事務員がふたり立っていた。
陽子が先に歩き出し、美姫も鞄の中のスマホの電源を切った後、それに続く。
陽子が総合案内へと行くと、エレベーターを挟んだ向かい側の受付へと行くように指示された。
そこで面会受付に行き、事情を話すと救命救急センターの家族用の入口を案内される。最初に総合案内で入口を案内すればいいものを、こういった手順をいちいち踏まなければならないことに美姫は苛立ちを覚えた。
駆け出したい気持ちを抑え、急ぎ足で入口へと向かう。
両開きのガラスの扉の上には太い文字で「救命救急センター」と表示があり、その先には薄暗い廊下がまっすぐ続いている。
先程まで急いていた心が、急に壁に突き当たったかのように押し戻される。
「行こう......」
躊躇しそうになる美姫の心を、陽子が引き締める。
美姫は拳を握り、無言で頷くと、彼女の少し後ろをついて歩いた。
天井からぶら下がっている案内板の「手術室」の矢印に沿って歩いていると、美姫の鼓動がどんどん速くなり、息苦しくなってくる。
お願い、どうか。
どうか、悠......無事でいて......
手術室へと近づくと、固く閉められた白い扉の向かいにあるベンチに腰掛け、頭を項垂れている男性が視界に入った。
や、まと......
ふたりの足音が静かな廊下に響き、確実にそこに近づいているというのに、大和は顔を上げるどころか、指先ひとつ動かさなかった。
大和の躰に陽子の影が伸びる。
「羽、鳥......くん。
風間...くん、は?」
緊張で掠れた声で陽子が尋ねると、大和はようやく顔を上げた。その表情は、悲嘆に暮れていた。
「まだ......中に、いる......」
車中では、ふたりとも押し黙ったままだった。
終始小刻みに震えている美姫を陽子は心配していたが、それを言葉にしてしまうと更に不安になりそうで、声をかけることが出来なかった。美姫もまた、陽子が自分を気にかけていることを知りつつ、安心させてやる言葉を見つけることが出来ずにいたのだった。
美姫が自宅から持参した空色の傘を、背の高い陽子が差す。爽やかな傘の色とは対照的に、空はどんよりとした灰褐色に覆われていた。
昼から降り始めた雪は、もう既に辺り一面を真っ白く覆い尽くし、横殴りに吹雪が吹き付ける。
ふたりでひとつの傘に入ると病院へと急いだ。傘を差していても、髪や衣服に雪が突き刺さってくる。美姫は寒さから身を守るように、コートを強く胸元に引き寄せながら陽子と共に早足で歩いた。
一歩足を進める度に、水気を含んだ重い雪がブーツの中にまで染み込んでくるように感じた。
駐車場を越してロータリー沿いに歩き、タクシー乗り場を通り過ぎ、外来診療入口からロビーに入る。自動扉が開いた途端、室内の温度が体を溶かすようにして浸透してきた。
本来ならここで人心地つきたいところだが、今は一刻も早く悠のいる手術室へ向かわなければならない。
ふたりは落ち着きなく周りを見渡した。入口から真正面にある白い半円のテーブルの上に「総合案内」の札があり、事務員がふたり立っていた。
陽子が先に歩き出し、美姫も鞄の中のスマホの電源を切った後、それに続く。
陽子が総合案内へと行くと、エレベーターを挟んだ向かい側の受付へと行くように指示された。
そこで面会受付に行き、事情を話すと救命救急センターの家族用の入口を案内される。最初に総合案内で入口を案内すればいいものを、こういった手順をいちいち踏まなければならないことに美姫は苛立ちを覚えた。
駆け出したい気持ちを抑え、急ぎ足で入口へと向かう。
両開きのガラスの扉の上には太い文字で「救命救急センター」と表示があり、その先には薄暗い廊下がまっすぐ続いている。
先程まで急いていた心が、急に壁に突き当たったかのように押し戻される。
「行こう......」
躊躇しそうになる美姫の心を、陽子が引き締める。
美姫は拳を握り、無言で頷くと、彼女の少し後ろをついて歩いた。
天井からぶら下がっている案内板の「手術室」の矢印に沿って歩いていると、美姫の鼓動がどんどん速くなり、息苦しくなってくる。
お願い、どうか。
どうか、悠......無事でいて......
手術室へと近づくと、固く閉められた白い扉の向かいにあるベンチに腰掛け、頭を項垂れている男性が視界に入った。
や、まと......
ふたりの足音が静かな廊下に響き、確実にそこに近づいているというのに、大和は顔を上げるどころか、指先ひとつ動かさなかった。
大和の躰に陽子の影が伸びる。
「羽、鳥......くん。
風間...くん、は?」
緊張で掠れた声で陽子が尋ねると、大和はようやく顔を上げた。その表情は、悲嘆に暮れていた。
「まだ......中に、いる......」
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