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成人式
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「じゃ、乾杯しよっか」
シャンパングラスを傾けて乾杯しようとした瞬間、後ろから声が響いた。
「よかったぁ、薫子いたいたー」
いかにも不慣れそうな着物姿で、女性が歩いて来る。
この人が、薫子が言ってたお友達かな?
橙色を基調に、大小様々な大きさと色の鞠が重なったデザインの着物は、明るく活発そうな雰囲気の彼女にとてもよく似合っていた。髪も着物に合わせ、橙と白のふたつの鞠をあしらった簪かんざしが挿してある。
だが、よく見ると裾がちぐはぐになって乱れている。
「ちょっと、持っててもらっていいかな?」
薫子が美姫にシャンパングラスを預けた。
「陽子、上前の裾が下がってるよ」
ようこさんって人なんだ。
薫子は、同じ文学部の友人だと以前に説明してくれた。もし、美姫が別の大学に入学しなければ、陽子と友達になっていたかもしれない。
薫子は帯の下に指を入れて腰紐を少し浮かせ、着物をたくし上げて帯の中へ差し込んだ。左右が均等になるようにしながら、爪先が少し上がり、裾が足袋にかかるぐらいの長さに調節する。
「さっすが、着慣れてるね」
陽子は感心した声をあげた。
最後に薫子は少し後ろに下がって全体のバランスを見た後で頷いた。
「うん、これで大丈夫だよ」
「ありがとね、助かった。着物着て運転なんて初めてだったから、捲し上げた裾を下ろした後、車から降りようとして裾を踏んづけちゃったんだよね」
「えっ、陽子...自分で運転してきたの!? ご家族は一緒じゃないの?」
薫子は驚いて声を張り上げていた。
「あぁ、うち商売してるからさぁ。祝日とか休めないんだよね。ま、朝にちゃんと振袖は見せて写真撮ったし、もうそれで満足みたい。それに元々行こうと思ってた地元の小学校の成人式では、親は同伴しないしね」
「そう、なの?」
「まぁ最近では親が出席する成人式も増えてきてるらしいけど、普通は式に参加するのは成人者だけだよ」
陽子の視線が薫子から横に立つ美姫へと移り、一瞬目を丸くした。その視線に、妙な違和感を覚える。
薫子が、思い出したように慌てて紹介した。
「あ...紹介が遅れてごめんね。美姫、こちらが大学の友人の平川陽子さん。で、幼馴染の来栖美姫、さん」
陽子は美姫ににこっと笑いかけた。
「よろしくね、美姫さん。式の後で迎えに行くから、後で住所教えて」
計画では、陽子が美姫を家まで車で迎えに行き、それから薫子を空港まで送ることになっていた。
「こちらこそ、よろしくね。初めて会ったのに、運転お願いしちゃってごめんね。
ねぇ、陽子さんは式が終わったら着替えはどこでするつもり?」
成人式とパーティーの間は2時間ある為、自宅に一旦戻って着替えてからパーティーに戻る者が多いが、それでは面倒だからホテルに部屋をとってそこで着替えをする者もいた。
「あぁ、ここのホテルのお手洗いででも着替えようと思ってたけど。今日は自宅じゃなくて実家から来たから、車で帰ると片道1時間半かかるんだよね」
お手洗いじゃ、着物を脱ぐのは絶対に大変だよね……
「じゃあ、式が終わったらよかったら一緒に家に来ない?私の両親も一緒だけど、そしたら後で迎えに来る必要もないし」
「嘘っ!!いいの?めっちゃ助かるー。ありがとう!」
「どういたしまして」
美姫が笑顔を見せた。陽子は幼稚園組とは違って気さくで話しかけやすい印象の女性だ。これまでの薫子が関わってきた友人とはまったく別のタイプだった。
薫子もそれを聞き、安堵した表情を見せた。
陽子はちょうど通りかかった給仕からシャンパングラスをひょいと受け取った。
「じゃ、とりあえず乾杯しとこーよ」
その言葉を受け、薫子が美姫からシャンパングラスを受け取る。
「成人、おめでとう!って、自分たちに向かっていうの、おかしいか」
陽子の明るい音頭に薫子と美姫にも笑顔が溢れ、3人でグラスを重ねた。
すると、陽子が周囲をチラチラと見回した後、小声で囁く。
「それと、今日の計画の成功を祈って......」
3人は顔を見合わせ、今度は小さくグラスを鳴らした。
シャンパングラスを傾けて乾杯しようとした瞬間、後ろから声が響いた。
「よかったぁ、薫子いたいたー」
いかにも不慣れそうな着物姿で、女性が歩いて来る。
この人が、薫子が言ってたお友達かな?
橙色を基調に、大小様々な大きさと色の鞠が重なったデザインの着物は、明るく活発そうな雰囲気の彼女にとてもよく似合っていた。髪も着物に合わせ、橙と白のふたつの鞠をあしらった簪かんざしが挿してある。
だが、よく見ると裾がちぐはぐになって乱れている。
「ちょっと、持っててもらっていいかな?」
薫子が美姫にシャンパングラスを預けた。
「陽子、上前の裾が下がってるよ」
ようこさんって人なんだ。
薫子は、同じ文学部の友人だと以前に説明してくれた。もし、美姫が別の大学に入学しなければ、陽子と友達になっていたかもしれない。
薫子は帯の下に指を入れて腰紐を少し浮かせ、着物をたくし上げて帯の中へ差し込んだ。左右が均等になるようにしながら、爪先が少し上がり、裾が足袋にかかるぐらいの長さに調節する。
「さっすが、着慣れてるね」
陽子は感心した声をあげた。
最後に薫子は少し後ろに下がって全体のバランスを見た後で頷いた。
「うん、これで大丈夫だよ」
「ありがとね、助かった。着物着て運転なんて初めてだったから、捲し上げた裾を下ろした後、車から降りようとして裾を踏んづけちゃったんだよね」
「えっ、陽子...自分で運転してきたの!? ご家族は一緒じゃないの?」
薫子は驚いて声を張り上げていた。
「あぁ、うち商売してるからさぁ。祝日とか休めないんだよね。ま、朝にちゃんと振袖は見せて写真撮ったし、もうそれで満足みたい。それに元々行こうと思ってた地元の小学校の成人式では、親は同伴しないしね」
「そう、なの?」
「まぁ最近では親が出席する成人式も増えてきてるらしいけど、普通は式に参加するのは成人者だけだよ」
陽子の視線が薫子から横に立つ美姫へと移り、一瞬目を丸くした。その視線に、妙な違和感を覚える。
薫子が、思い出したように慌てて紹介した。
「あ...紹介が遅れてごめんね。美姫、こちらが大学の友人の平川陽子さん。で、幼馴染の来栖美姫、さん」
陽子は美姫ににこっと笑いかけた。
「よろしくね、美姫さん。式の後で迎えに行くから、後で住所教えて」
計画では、陽子が美姫を家まで車で迎えに行き、それから薫子を空港まで送ることになっていた。
「こちらこそ、よろしくね。初めて会ったのに、運転お願いしちゃってごめんね。
ねぇ、陽子さんは式が終わったら着替えはどこでするつもり?」
成人式とパーティーの間は2時間ある為、自宅に一旦戻って着替えてからパーティーに戻る者が多いが、それでは面倒だからホテルに部屋をとってそこで着替えをする者もいた。
「あぁ、ここのホテルのお手洗いででも着替えようと思ってたけど。今日は自宅じゃなくて実家から来たから、車で帰ると片道1時間半かかるんだよね」
お手洗いじゃ、着物を脱ぐのは絶対に大変だよね……
「じゃあ、式が終わったらよかったら一緒に家に来ない?私の両親も一緒だけど、そしたら後で迎えに来る必要もないし」
「嘘っ!!いいの?めっちゃ助かるー。ありがとう!」
「どういたしまして」
美姫が笑顔を見せた。陽子は幼稚園組とは違って気さくで話しかけやすい印象の女性だ。これまでの薫子が関わってきた友人とはまったく別のタイプだった。
薫子もそれを聞き、安堵した表情を見せた。
陽子はちょうど通りかかった給仕からシャンパングラスをひょいと受け取った。
「じゃ、とりあえず乾杯しとこーよ」
その言葉を受け、薫子が美姫からシャンパングラスを受け取る。
「成人、おめでとう!って、自分たちに向かっていうの、おかしいか」
陽子の明るい音頭に薫子と美姫にも笑顔が溢れ、3人でグラスを重ねた。
すると、陽子が周囲をチラチラと見回した後、小声で囁く。
「それと、今日の計画の成功を祈って......」
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