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理想と現実
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日本に帰国した翌日に美姫は薫子に電話し、翌日、秀一の自宅へと招くことになった。そこなら、誰かに話を聞かれる心配はない。
秀一が車を運転し、薫子の自宅へと向かう。
「秀一さんにご迷惑をおかけして、すみません」
申し訳なさそうに謝る美姫に、秀一がにこりと笑みを浮かべた。
「美姫が謝ることはありませんよ。親友である櫻井さんに会えば、美姫の気も少しは晴れるでしょうし」
薫子に会うことで、この重苦しい気持ちは晴れるのだろうか。
けれど、美姫には彼女からのメールが気にかかっていた。彼女の文面から重大な悩みを感じ、もっと重苦しい気持ちになりそうな、そんな予感がしていた。
車が薫子の自宅の門に到着する。旧華族だったという薫子の祖母の邸宅は、門まで瀟洒しょうしゃな造りだった。
門を抜けて車がゲスト用の駐車場に停車すると、秀一が声を掛けた。
「私も一緒に行きましょうか」
「いえ、私ひとりで大丈夫です」
きっと、秀一さんがいたら薫子が萎縮しちゃうから。
薫子が秀一を苦手であることは、なんとなく感じていた。親友である薫子には、恋人の秀一と親しくなるまではいかないにしても、良好な関係になってほしい。そう思うものの、ずっと大和と美姫が恋人であることを望んでいた彼女には、難しいことなのかもしれない。
インターフォンを鳴らすと、いつもならメイドが対応するのだが、今日はすぐに扉が開き、薫子が顔を見せた。
「薫子、久しぶり」
そう言って笑顔を見せた美姫に、薫子が息を呑んだ。
その反応に、密かに傷つく。
自分でもなんとなく気付いてはいたが、あの事件以降、美姫はかなり体重が落ちた。元々痩せている方ではあったが、それが腕や脚に顕著に表れ、手足の長さが目立ち、顎もシャープになった気がする。
薫子の反応によって、自分だけではなく、他人から見ても分かるほどなのだと思い知らされた。
「いこっか」
薫子を秀一の待つ車まで案内し、努めて明るく美姫は振る舞ったが、薫子にどう思われているのかと気になって仕方ない。
薫子は、私の不自然さに気がついているはずなのに、何も言わない。それは、優しさからなの? それとも、もう既に何か知っているからなの?
薫子が後部座席に座り、バックミラー越しに秀一に挨拶した。
「わざわざお迎えに来ていただき、申し訳ありません」
「いえ、どうぞお気になさらず」
秀一がにこやかに一礼したが、薫子はますます表情をこわばらせた。
薫子を秀一のマンションに連れてくるのは、初めてだ。美姫自身、秀一と恋仲になる前はずっと出向くことはなかったぐらいだから、当然と言えば当然なのだが。
薫子は秀一とエレベーターに乗っている間も緊張で躰を硬くしていた。
秀一は薫子をリビングルームへと案内すると、美姫にお茶を淹れるように頼んだ。
「私は直ぐに仕事で出ますから、二人の分だけで結構ですよ」
「わかり、ました」
美姫は頷き、キッチンへと歩いていくが、秀一が薫子に何を話すのだろうと気になった。けれど、もし聞き耳でもたてれば、秀一にすぐ感づかれてしまう。
美姫がお茶と茶菓子を用意していると、秀一の声が小さく届いた。
「では、どうぞごゆっくり」
えっ、もう!?
玄関へと向かう足音を追って、美姫は慌てて玄関へと駆け寄った。
「秀一さん、もう出てしまうんですか?」
不安げな表情を見せる美姫は、まるで母親に留守を頼まれた幼子のように心許ない様子だった。
「大丈夫ですよ、夜までには必ず帰ってきます」
「えぇ……」
秀一が美姫の頬を手で包み込む。
秀一さん……
彼の愛情を感じ、ようやく美姫は安堵して微笑んだ。
秀一は美姫の髪を一束指に絡ませ、口づけた。
「楽しんでくださいね」
案内音が鳴り、開いたエレベーターに乗り込む。
薫子がいても、秀一さんがいてくれないと寂しい……不安に、感じてしまう。
美姫は、扉がきっちりと閉まる瞬間までそこで名残惜しげに立っていた。
秀一が車を運転し、薫子の自宅へと向かう。
「秀一さんにご迷惑をおかけして、すみません」
申し訳なさそうに謝る美姫に、秀一がにこりと笑みを浮かべた。
「美姫が謝ることはありませんよ。親友である櫻井さんに会えば、美姫の気も少しは晴れるでしょうし」
薫子に会うことで、この重苦しい気持ちは晴れるのだろうか。
けれど、美姫には彼女からのメールが気にかかっていた。彼女の文面から重大な悩みを感じ、もっと重苦しい気持ちになりそうな、そんな予感がしていた。
車が薫子の自宅の門に到着する。旧華族だったという薫子の祖母の邸宅は、門まで瀟洒しょうしゃな造りだった。
門を抜けて車がゲスト用の駐車場に停車すると、秀一が声を掛けた。
「私も一緒に行きましょうか」
「いえ、私ひとりで大丈夫です」
きっと、秀一さんがいたら薫子が萎縮しちゃうから。
薫子が秀一を苦手であることは、なんとなく感じていた。親友である薫子には、恋人の秀一と親しくなるまではいかないにしても、良好な関係になってほしい。そう思うものの、ずっと大和と美姫が恋人であることを望んでいた彼女には、難しいことなのかもしれない。
インターフォンを鳴らすと、いつもならメイドが対応するのだが、今日はすぐに扉が開き、薫子が顔を見せた。
「薫子、久しぶり」
そう言って笑顔を見せた美姫に、薫子が息を呑んだ。
その反応に、密かに傷つく。
自分でもなんとなく気付いてはいたが、あの事件以降、美姫はかなり体重が落ちた。元々痩せている方ではあったが、それが腕や脚に顕著に表れ、手足の長さが目立ち、顎もシャープになった気がする。
薫子の反応によって、自分だけではなく、他人から見ても分かるほどなのだと思い知らされた。
「いこっか」
薫子を秀一の待つ車まで案内し、努めて明るく美姫は振る舞ったが、薫子にどう思われているのかと気になって仕方ない。
薫子は、私の不自然さに気がついているはずなのに、何も言わない。それは、優しさからなの? それとも、もう既に何か知っているからなの?
薫子が後部座席に座り、バックミラー越しに秀一に挨拶した。
「わざわざお迎えに来ていただき、申し訳ありません」
「いえ、どうぞお気になさらず」
秀一がにこやかに一礼したが、薫子はますます表情をこわばらせた。
薫子を秀一のマンションに連れてくるのは、初めてだ。美姫自身、秀一と恋仲になる前はずっと出向くことはなかったぐらいだから、当然と言えば当然なのだが。
薫子は秀一とエレベーターに乗っている間も緊張で躰を硬くしていた。
秀一は薫子をリビングルームへと案内すると、美姫にお茶を淹れるように頼んだ。
「私は直ぐに仕事で出ますから、二人の分だけで結構ですよ」
「わかり、ました」
美姫は頷き、キッチンへと歩いていくが、秀一が薫子に何を話すのだろうと気になった。けれど、もし聞き耳でもたてれば、秀一にすぐ感づかれてしまう。
美姫がお茶と茶菓子を用意していると、秀一の声が小さく届いた。
「では、どうぞごゆっくり」
えっ、もう!?
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「秀一さん、もう出てしまうんですか?」
不安げな表情を見せる美姫は、まるで母親に留守を頼まれた幼子のように心許ない様子だった。
「大丈夫ですよ、夜までには必ず帰ってきます」
「えぇ……」
秀一が美姫の頬を手で包み込む。
秀一さん……
彼の愛情を感じ、ようやく美姫は安堵して微笑んだ。
秀一は美姫の髪を一束指に絡ませ、口づけた。
「楽しんでくださいね」
案内音が鳴り、開いたエレベーターに乗り込む。
薫子がいても、秀一さんがいてくれないと寂しい……不安に、感じてしまう。
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