346 / 1,014
破門宣告
11
しおりを挟む
モルテッソーニと秀一さんの兄弟弟子と対面し、私は疎外感を感じた。ウィーン留学中の二年間が私と秀一さんの間に大きな川となって立ちはだかり、大勢の中にいても孤立しているようだった。
言葉が通じない国で生活するということがどういうことなのか、不安を感じた。
それはきっと......秀一さんにも伝わっただろう。
そんな私の様子を見て、将来ウィーンに住むという彼の目論見はどんどん遠ざかっていくのを感じたのではないだろうか。
秀一さんはそんなことはおくびにも出さず、私を気遣ってくれていた。
モルテッソーニが突然私の元を訪れた時は、とても驚いた。
彼の言葉は、私の心に鋭いナイフのように突き刺さり、肉を抉り、血を流させた。
『単刀直入に言わせてもらうと...ミキ、君からシューイチがウィーンに戻るように説得して欲しいんだ』
『シューイチほどのピアニストが、なぜ世界へと羽ばたくことなく、日本に留まっているのか...
それは、ミキ。君が原因なんだ。君はもう成人を迎え、シューイチの庇護を必要としない。そろそろ彼を...彼の足枷を外してやってくれないか』
そこで、彼は秀一さんとの過去について語った。
仕事が忙しくて不在がちな両親の元に育った幼い私の傍にいるために、モルテッソーニに師事することを断った秀一さん。
モルテッソーニは、私が秀一さんに依存する限り、彼が世界へと羽ばたく事は出来ないと考えたのだ。
彼は秀一さんがザルツブルク音楽祭に招待されているのを知っていた。だから、モルテッソーニは私に秀一さんがウィーンに留まるように説得させようとしたんだ。
そして、秀一さんが音楽祭の為だけでなく、終了後もここで音楽活動をして欲しいと考えたんだ。
あの時私は、単純にモルテッソーニはウィーンの秀一さんのピアノを愛するファンや弟子たちの士気を高め、そして自分の後継者を育てたいという漠然とした希望をもとに語っているのだと思っていた。
けれど、モルテッソーニはもっと現実的な未来を見据えていたんだ。
『......モルテッソーニは......秀一さんに、ウィーンに戻ってきて欲しいと言っていました』
そう言った私に、秀一さんはどうして欲しいのかと尋ねた。
『ッ...ヒッ...ウッ......行って、ほしく...ッグ...な、い......しゅ、いち...ッウ...さん......そ、ばに...ッグ、ウウッ......』
秀一さんの肩に縋りつき、泣きじゃくる私を、彼はどう思っていたのだろう。
そして、秀一さんの口から出た言葉。
『美姫は......こちらに一緒に住むことは、考えられませんか』
それはきっと、ザルツブルク音楽祭、そして未来の移住についてのことを考えて私に聞いたに違いない。
ウィーンに来てからの一連の出来事から、秀一さんは私がここに住むことを受け入れられないことは分かっていたはず......それでも、僅かな可能性をかけて私に聞いたのかもしれない。
それなのに、私は......子供のように大きく首を振り、秀一さんのそんな思いを否定した。
『そう、ですか......大丈夫ですよ、私は貴女の傍にずっといます、ずっと......
それが、私の意思ですから』
優しく言ってくれた秀一さんの心中は、どんなだったんだろう......
この時秀一さんは、きっと......ザルツブルク音楽祭を辞退する決意を固めたのだ。
私の、ために......
言葉が通じない国で生活するということがどういうことなのか、不安を感じた。
それはきっと......秀一さんにも伝わっただろう。
そんな私の様子を見て、将来ウィーンに住むという彼の目論見はどんどん遠ざかっていくのを感じたのではないだろうか。
秀一さんはそんなことはおくびにも出さず、私を気遣ってくれていた。
モルテッソーニが突然私の元を訪れた時は、とても驚いた。
彼の言葉は、私の心に鋭いナイフのように突き刺さり、肉を抉り、血を流させた。
『単刀直入に言わせてもらうと...ミキ、君からシューイチがウィーンに戻るように説得して欲しいんだ』
『シューイチほどのピアニストが、なぜ世界へと羽ばたくことなく、日本に留まっているのか...
それは、ミキ。君が原因なんだ。君はもう成人を迎え、シューイチの庇護を必要としない。そろそろ彼を...彼の足枷を外してやってくれないか』
そこで、彼は秀一さんとの過去について語った。
仕事が忙しくて不在がちな両親の元に育った幼い私の傍にいるために、モルテッソーニに師事することを断った秀一さん。
モルテッソーニは、私が秀一さんに依存する限り、彼が世界へと羽ばたく事は出来ないと考えたのだ。
彼は秀一さんがザルツブルク音楽祭に招待されているのを知っていた。だから、モルテッソーニは私に秀一さんがウィーンに留まるように説得させようとしたんだ。
そして、秀一さんが音楽祭の為だけでなく、終了後もここで音楽活動をして欲しいと考えたんだ。
あの時私は、単純にモルテッソーニはウィーンの秀一さんのピアノを愛するファンや弟子たちの士気を高め、そして自分の後継者を育てたいという漠然とした希望をもとに語っているのだと思っていた。
けれど、モルテッソーニはもっと現実的な未来を見据えていたんだ。
『......モルテッソーニは......秀一さんに、ウィーンに戻ってきて欲しいと言っていました』
そう言った私に、秀一さんはどうして欲しいのかと尋ねた。
『ッ...ヒッ...ウッ......行って、ほしく...ッグ...な、い......しゅ、いち...ッウ...さん......そ、ばに...ッグ、ウウッ......』
秀一さんの肩に縋りつき、泣きじゃくる私を、彼はどう思っていたのだろう。
そして、秀一さんの口から出た言葉。
『美姫は......こちらに一緒に住むことは、考えられませんか』
それはきっと、ザルツブルク音楽祭、そして未来の移住についてのことを考えて私に聞いたに違いない。
ウィーンに来てからの一連の出来事から、秀一さんは私がここに住むことを受け入れられないことは分かっていたはず......それでも、僅かな可能性をかけて私に聞いたのかもしれない。
それなのに、私は......子供のように大きく首を振り、秀一さんのそんな思いを否定した。
『そう、ですか......大丈夫ですよ、私は貴女の傍にずっといます、ずっと......
それが、私の意思ですから』
優しく言ってくれた秀一さんの心中は、どんなだったんだろう......
この時秀一さんは、きっと......ザルツブルク音楽祭を辞退する決意を固めたのだ。
私の、ために......
0
お気に入りに追加
345
あなたにおすすめの小説


義妹のミルク
笹椰かな
恋愛
※男性向けの内容です。女性が読むと不快になる可能性がありますのでご注意ください。
母乳フェチの男が義妹のミルクを飲むだけの話。
普段から母乳が出て、さらには性的に興奮すると母乳を噴き出す女の子がヒロインです。
本番はありません。両片想い設定です。


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる