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羞恥という名の快楽
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自分の見立てで用意をし、事前に着るものが分かっていたにも関わらず、思わず息を呑んだ。
美しい......
自分と美姫以外の時が止まり、まるでモノクロの世界に美姫だけがその眩い白いドレスと共に光を放っているように輝いて見えた。その姿を見ていると、ウェディングドレスを連想せずにはいられなかった。
「本当に、美しい...まるで......」
無意識のうちに口からついて出た言葉に驚き、口を噤んだ。
女性であれば憧れるであろう、ウェディングドレス。特に童話のプリンセスが大好きだった美姫が、考えない筈などない。
「花が咲いたような、美しさですね......」
とってつけたような言葉で誤魔化し、微笑んだ秀一に、美姫も固い笑みで返した。
そう、考えない筈などないのだ......
秀一は今まで、結婚に憧れを抱いたことがなかった。
普通の家庭というものを知らない。家族の温かさを感じたことがない。
そんな秀一は、結婚した自分、子供をもつ自分を頭の中に思い描くことなどなかった。
同級生が次々に結婚し、子どもが出来たという話を聞いても、どこか別世界のことのような感覚でいた。美姫に恋愛感情を抱いていても、それは結婚に直結することはなかった。
ただ、一緒にいられればそれでいい。ずっと美姫の傍で彼女を守り、愛し続けていく。
それだけを考えていた。
だが、美姫は秀一とは違う。
仲の良い両親の元に生まれ、愛され、慈しまれて育てられながらも寂しい思いを味わってきた美姫は、結婚というものに強い憧れをもっているに違いない。
周りから祝福されて結婚し、子どもを産み、育てる.....
そんな、当たり前と言える幸せを求めているであろう。
そう、だから......貴女は、幼い頃に私と結婚式の真似事をしたのですよね。
あの時ですら、結婚式の真似事をする美姫を可愛いと感じ、愛おしく思ってはいたが、だからといって、それが秀一の結婚観に何か影響を与えたということはなかった。
不意に秀一は、シェーンブルン宮殿で美姫に何気なく放った言葉を思い出した。
『幼い子供は『好き』と思うと、すぐ結婚に結びつくところが無邪気で可愛いですね』
『ねぇ、美姫? 貴女も...幼い頃は無邪気で可愛かったですね……』
自分としては、懐かしい思い出をただ語っただけのつもりだった。幼い美姫が白いドレスを着てカフェカーテンをベールに見立て、慣れないヒールを履いて歩いていた、あの可愛い姿を思い浮かべただけの。
だが、それは美姫にとってはどうだったのだろう。
結婚に憧れていた頃の自分を思い出させ、それが叶う望みがないという現実に打ち拉がれたのではないだろうか。しかも、それを恋人である男に言われ......
そう気付いた時、秀一の胸が鋭い針で刺されたような痛みに襲われた。
私との道を選んでしまったがゆえに、普通の幸せを与えてやることが出来ない私を......美姫、許してください。
そんな秀一の懺悔の思いに応えるかの如く、美姫は天使のように微笑んで見上げた。
「秀一さん、私...とても、幸せ。
今、とても幸せです......」
その瞳は穢れのない澄みきった煌めきを見せ、ピンクに色づいた頬、艶のあるルージュの唇......全てが秀一の瞳に焼け付くように目の前に迫ってくるように感じた。
美姫、貴女は......女性としての憧れを捨ててでも、私と共に生きようと思っていて下さるのですね。
私には、貴女を法的に妻として庇護することは出来ない。世間から祝福されるような幸せを与えてやることは出来ない。
けれど......
「美姫……ここに誓わせて下さい。貴女を一生、愛し続けると。
病める時も健やかなる時も...どんな苦難が襲いかかろうとも、私は生涯貴女だけを愛し、守り抜きます」
片膝を付き、美姫の手を取ると恭しく手の甲に誓いの口づけを落とした。
せめて、永遠の誓いをさせて下さい。
薄っぺらい紙などではなく、愛の言霊で貴女と私を結びつけたい......
美しい......
自分と美姫以外の時が止まり、まるでモノクロの世界に美姫だけがその眩い白いドレスと共に光を放っているように輝いて見えた。その姿を見ていると、ウェディングドレスを連想せずにはいられなかった。
「本当に、美しい...まるで......」
無意識のうちに口からついて出た言葉に驚き、口を噤んだ。
女性であれば憧れるであろう、ウェディングドレス。特に童話のプリンセスが大好きだった美姫が、考えない筈などない。
「花が咲いたような、美しさですね......」
とってつけたような言葉で誤魔化し、微笑んだ秀一に、美姫も固い笑みで返した。
そう、考えない筈などないのだ......
秀一は今まで、結婚に憧れを抱いたことがなかった。
普通の家庭というものを知らない。家族の温かさを感じたことがない。
そんな秀一は、結婚した自分、子供をもつ自分を頭の中に思い描くことなどなかった。
同級生が次々に結婚し、子どもが出来たという話を聞いても、どこか別世界のことのような感覚でいた。美姫に恋愛感情を抱いていても、それは結婚に直結することはなかった。
ただ、一緒にいられればそれでいい。ずっと美姫の傍で彼女を守り、愛し続けていく。
それだけを考えていた。
だが、美姫は秀一とは違う。
仲の良い両親の元に生まれ、愛され、慈しまれて育てられながらも寂しい思いを味わってきた美姫は、結婚というものに強い憧れをもっているに違いない。
周りから祝福されて結婚し、子どもを産み、育てる.....
そんな、当たり前と言える幸せを求めているであろう。
そう、だから......貴女は、幼い頃に私と結婚式の真似事をしたのですよね。
あの時ですら、結婚式の真似事をする美姫を可愛いと感じ、愛おしく思ってはいたが、だからといって、それが秀一の結婚観に何か影響を与えたということはなかった。
不意に秀一は、シェーンブルン宮殿で美姫に何気なく放った言葉を思い出した。
『幼い子供は『好き』と思うと、すぐ結婚に結びつくところが無邪気で可愛いですね』
『ねぇ、美姫? 貴女も...幼い頃は無邪気で可愛かったですね……』
自分としては、懐かしい思い出をただ語っただけのつもりだった。幼い美姫が白いドレスを着てカフェカーテンをベールに見立て、慣れないヒールを履いて歩いていた、あの可愛い姿を思い浮かべただけの。
だが、それは美姫にとってはどうだったのだろう。
結婚に憧れていた頃の自分を思い出させ、それが叶う望みがないという現実に打ち拉がれたのではないだろうか。しかも、それを恋人である男に言われ......
そう気付いた時、秀一の胸が鋭い針で刺されたような痛みに襲われた。
私との道を選んでしまったがゆえに、普通の幸せを与えてやることが出来ない私を......美姫、許してください。
そんな秀一の懺悔の思いに応えるかの如く、美姫は天使のように微笑んで見上げた。
「秀一さん、私...とても、幸せ。
今、とても幸せです......」
その瞳は穢れのない澄みきった煌めきを見せ、ピンクに色づいた頬、艶のあるルージュの唇......全てが秀一の瞳に焼け付くように目の前に迫ってくるように感じた。
美姫、貴女は......女性としての憧れを捨ててでも、私と共に生きようと思っていて下さるのですね。
私には、貴女を法的に妻として庇護することは出来ない。世間から祝福されるような幸せを与えてやることは出来ない。
けれど......
「美姫……ここに誓わせて下さい。貴女を一生、愛し続けると。
病める時も健やかなる時も...どんな苦難が襲いかかろうとも、私は生涯貴女だけを愛し、守り抜きます」
片膝を付き、美姫の手を取ると恭しく手の甲に誓いの口づけを落とした。
せめて、永遠の誓いをさせて下さい。
薄っぺらい紙などではなく、愛の言霊で貴女と私を結びつけたい......
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