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舞踏会
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ダンスホールの隅に立ち、加代子と秀一を見つめる。
加代子は秀一とほぼ同じ背の高さだったが、加代子が秀一の右腕に左手を添え、ダンスの態勢に入った途端、そんなことは気にならなくなった。
ヨーゼフ・シュトラウスのウィンナ・ワルツ「我が人生は愛と喜び」が流れる。静かで穏やかな曲調から段々と力強く、華やかな曲調へと変化し、それに従ってダンスも華やかさを増していく。
さすがダンスの講師だけあって、加代子のダンスはデビュタントたちのものとは一線を画していた。曲に合わせて片脚を真っ直ぐにしなやかに伸ばしたり、片脚を上げたまま優美にターンする。
曲が盛り上がりを見せた時点で秀一が加代子の腰を支え、リフトアップし、くるりと回転させた。
違う......
加代子さんが凄いと思っていたけれど、それをリードする秀一さんが、凄いんだ......
普通の男性なら、加代子の高いダンスの能力をここまで引き出すことは出来ないだろう。
ホールの端に立って眺めている観客だけでなく、周りで踊っている人たちですら、秀一と加代子へと視線が集まっているのが見て取れた。
だから加代子さんは、秀一さんにダンスのパートナーを申し込んだんだ......加代子さんは以前、秀一さんと舞踏会で会ったと話していたけど、その時にきっと秀一さんが踊っているのを見かけたのかもしれない。もしかしたら......一緒に踊ったこともあったのかもしれない。
多少強引とも思えたあの誘いは、秀一のダンスのリードの素晴らしさを知っていたからこそなのだと美姫は考えた。
私、じゃ...きっと、秀一さん、物足りないよね......
この日のために練習してきたとはいえ、プロである加代子のダンスには足元も及ばない。華麗なダンスを披露するふたりを見ながら、美姫は溜息をついた。
「Darf ich bitten?」
突然、美姫の目の前に男性が現れ、声を掛けてきた。
背の高い、ダークブラウンの短髪に濃いめの眉に高い鼻が印象的な男性だ。年は30代前半ぐらいに見えたが、日本人の感覚からしてなので、実際はもっと若いのかもしれない。
"Darf ich bitten?"って、確か、"私と踊っていただけますか?"って意味だよね。秀一さんと以前コンサートホールの鏡の部屋で踊った時に、そう言ってたし。それに、ここは舞踏会......間違いなく、私...この男性にダンスのお誘いを受けているんだ。
どうしよう......これって、断ってもいいものなの、かな。マナー違反にならないかな。
けれど、マナー違反であろうと、私はこの人の手を取ることは出来ない......
どうしたらいいの......
すると男性は何かに気づいたように笑顔を向けた。
『ごめんね、ドイツ語が分からなかった?英語なら分かるかな?』
その言葉に美姫はどう答えていいか迷っていた。
英語は分かるが、ここで英語が出来ると答えてしまえば、ダンスの誘いを受けなくてはいけなくなるかもしれない。
「あ、あの......」
美姫は後退りしながら日本語で答えた。すると男性は、英語で話しかけるのは諦めたものの、今度はジェスチャーでダンスをしようと誘ってきた。
ど、どうしよう...まだ、諦めてくれない......
マナー違反と思われても、ここでパニックを起こすよりは逃げた方がいいかもしれない......
そう思い、美姫が逃げる態勢に入るためにもう一歩後退りした途端、誰かにぶつかった。
加代子は秀一とほぼ同じ背の高さだったが、加代子が秀一の右腕に左手を添え、ダンスの態勢に入った途端、そんなことは気にならなくなった。
ヨーゼフ・シュトラウスのウィンナ・ワルツ「我が人生は愛と喜び」が流れる。静かで穏やかな曲調から段々と力強く、華やかな曲調へと変化し、それに従ってダンスも華やかさを増していく。
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違う......
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だから加代子さんは、秀一さんにダンスのパートナーを申し込んだんだ......加代子さんは以前、秀一さんと舞踏会で会ったと話していたけど、その時にきっと秀一さんが踊っているのを見かけたのかもしれない。もしかしたら......一緒に踊ったこともあったのかもしれない。
多少強引とも思えたあの誘いは、秀一のダンスのリードの素晴らしさを知っていたからこそなのだと美姫は考えた。
私、じゃ...きっと、秀一さん、物足りないよね......
この日のために練習してきたとはいえ、プロである加代子のダンスには足元も及ばない。華麗なダンスを披露するふたりを見ながら、美姫は溜息をついた。
「Darf ich bitten?」
突然、美姫の目の前に男性が現れ、声を掛けてきた。
背の高い、ダークブラウンの短髪に濃いめの眉に高い鼻が印象的な男性だ。年は30代前半ぐらいに見えたが、日本人の感覚からしてなので、実際はもっと若いのかもしれない。
"Darf ich bitten?"って、確か、"私と踊っていただけますか?"って意味だよね。秀一さんと以前コンサートホールの鏡の部屋で踊った時に、そう言ってたし。それに、ここは舞踏会......間違いなく、私...この男性にダンスのお誘いを受けているんだ。
どうしよう......これって、断ってもいいものなの、かな。マナー違反にならないかな。
けれど、マナー違反であろうと、私はこの人の手を取ることは出来ない......
どうしたらいいの......
すると男性は何かに気づいたように笑顔を向けた。
『ごめんね、ドイツ語が分からなかった?英語なら分かるかな?』
その言葉に美姫はどう答えていいか迷っていた。
英語は分かるが、ここで英語が出来ると答えてしまえば、ダンスの誘いを受けなくてはいけなくなるかもしれない。
「あ、あの......」
美姫は後退りしながら日本語で答えた。すると男性は、英語で話しかけるのは諦めたものの、今度はジェスチャーでダンスをしようと誘ってきた。
ど、どうしよう...まだ、諦めてくれない......
マナー違反と思われても、ここでパニックを起こすよりは逃げた方がいいかもしれない......
そう思い、美姫が逃げる態勢に入るためにもう一歩後退りした途端、誰かにぶつかった。
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