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舞踏会
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オープニングのファンファーレが鳴り響き、ダンスホールにいた人々が中央から端へと移動し始めた。
秀一の言葉を受けて美姫がダンスホールの中央へと目を向けると、暗かったそこにスポットライトが当たり、同時にウィンナ・ワルツが流れ始めた。
この曲は、加代子さんのスタジオで何度も繰り返し聴いた曲だ......
そう思っていると、舞台の端から見慣れた男女のグループが現れた。加代子のスタジオの生徒たちだ。
美姫と同じように女性は純白のドレスに白いカサブランカの髪飾りをつけ、男性はタキシードを身に纏っている。
華麗な音楽に合わせてドレスがくるくると回り、次々に男女が入れ替わりながらステップを踏んで踊るカドリーユのダンスに皆が引き込まれていく。何度も見慣れた筈のダンスであったが、こうして特別な舞台で正装して踊る姿に興奮せずにはいられなかった。
そして、自分もあの中に加われたらよかったのに...と思わず願ってしまった程だった。
「さぁ、私たちもお披露目の時間ですよ」
秀一の声に美姫は頷くと、緊張で引き攣りそうになる顔に掌を当てた。
「大丈夫ですよ。私のリードに身を委ねてください」
手を差し伸べる秀一に自身の手を重ねると、美姫の緊張で強張っていた全身が解きほぐされた。
男、女、女、男で横一列に並び、その後ろにも同じような4人の列が果てしなく縦に続いていく。
凄い。これ、みんな今夜デビュタントとして舞踏会に参加するカップルなんだ……
圧巻というべき光景だった。
国歌が終わり、デビュタント達が入場する。美姫は隣の女性とブーケを交差するようにして手首を重ね合わせ、秀一が軽く腕を上げた掌にそっと手をのせた。
オーケストラの演奏が流れる中、粛々と舞踏会のダンスホールへと進んで行く。列の先頭へと辿り着くと恭しくお辞儀をし、そこから4人だった列が真ん中を挟んで1組の男女となって右と左に分かれて端の列の後ろへと並ぶ。まるで、ショーのランウェイのようだ。
すべてのデビュタントたちの紹介が終わり、全員が左右それぞれの端に並んだ。
「Alles Walzer!(みんなワルツを!)」
周りの観衆から呼び声がかかり、デビュタントたちはそれに従い、ダンスのために列を保ったまま前に進み出る。
女性が片膝をつき、男性は繋いでいる手の甲に口づけを落とす真似をする。この時、唇はつけないのが本来のマナーだ。
美姫も皆と同じように片膝をつくと、秀一がお辞儀をするような姿勢で手の甲に顔を近づけた。秀麗なその顔立ちと華やかな雰囲気に、美姫は眩暈を起こしそうな程に恍惚し、酔ってしまいそうだった。
秀一が促すように少し手を持ち上げ、美姫はハッとしたように立ち上がった。左手を秀一の右腕に添え、ダンスの姿勢に入る。
ウィーン出身で「ワルツ王」と謳われたヨハン・シュトラウスの代表曲「美しき青きドナウ」が流れ、皆が一斉にドレスを揺らしてワルツのステップを踏み始める。秀一のライトグレーの瞳に見つめられながら、ふわふわとした心地で何度もターンする。
なんて優雅な時間なんだろう。まるで、童話の世界に入ってしまったみたい……
気づけば曲は鳴り止み、周りから大喝采を浴びていた。美姫は、秀一に華やいだとびきりの笑顔を見せ、お辞儀をした。
秀一の言葉を受けて美姫がダンスホールの中央へと目を向けると、暗かったそこにスポットライトが当たり、同時にウィンナ・ワルツが流れ始めた。
この曲は、加代子さんのスタジオで何度も繰り返し聴いた曲だ......
そう思っていると、舞台の端から見慣れた男女のグループが現れた。加代子のスタジオの生徒たちだ。
美姫と同じように女性は純白のドレスに白いカサブランカの髪飾りをつけ、男性はタキシードを身に纏っている。
華麗な音楽に合わせてドレスがくるくると回り、次々に男女が入れ替わりながらステップを踏んで踊るカドリーユのダンスに皆が引き込まれていく。何度も見慣れた筈のダンスであったが、こうして特別な舞台で正装して踊る姿に興奮せずにはいられなかった。
そして、自分もあの中に加われたらよかったのに...と思わず願ってしまった程だった。
「さぁ、私たちもお披露目の時間ですよ」
秀一の声に美姫は頷くと、緊張で引き攣りそうになる顔に掌を当てた。
「大丈夫ですよ。私のリードに身を委ねてください」
手を差し伸べる秀一に自身の手を重ねると、美姫の緊張で強張っていた全身が解きほぐされた。
男、女、女、男で横一列に並び、その後ろにも同じような4人の列が果てしなく縦に続いていく。
凄い。これ、みんな今夜デビュタントとして舞踏会に参加するカップルなんだ……
圧巻というべき光景だった。
国歌が終わり、デビュタント達が入場する。美姫は隣の女性とブーケを交差するようにして手首を重ね合わせ、秀一が軽く腕を上げた掌にそっと手をのせた。
オーケストラの演奏が流れる中、粛々と舞踏会のダンスホールへと進んで行く。列の先頭へと辿り着くと恭しくお辞儀をし、そこから4人だった列が真ん中を挟んで1組の男女となって右と左に分かれて端の列の後ろへと並ぶ。まるで、ショーのランウェイのようだ。
すべてのデビュタントたちの紹介が終わり、全員が左右それぞれの端に並んだ。
「Alles Walzer!(みんなワルツを!)」
周りの観衆から呼び声がかかり、デビュタントたちはそれに従い、ダンスのために列を保ったまま前に進み出る。
女性が片膝をつき、男性は繋いでいる手の甲に口づけを落とす真似をする。この時、唇はつけないのが本来のマナーだ。
美姫も皆と同じように片膝をつくと、秀一がお辞儀をするような姿勢で手の甲に顔を近づけた。秀麗なその顔立ちと華やかな雰囲気に、美姫は眩暈を起こしそうな程に恍惚し、酔ってしまいそうだった。
秀一が促すように少し手を持ち上げ、美姫はハッとしたように立ち上がった。左手を秀一の右腕に添え、ダンスの姿勢に入る。
ウィーン出身で「ワルツ王」と謳われたヨハン・シュトラウスの代表曲「美しき青きドナウ」が流れ、皆が一斉にドレスを揺らしてワルツのステップを踏み始める。秀一のライトグレーの瞳に見つめられながら、ふわふわとした心地で何度もターンする。
なんて優雅な時間なんだろう。まるで、童話の世界に入ってしまったみたい……
気づけば曲は鳴り止み、周りから大喝采を浴びていた。美姫は、秀一に華やいだとびきりの笑顔を見せ、お辞儀をした。
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