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舞踏会

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 ウィーンの大晦日イベントのハイライトであるホーフブルク王宮で開催される「王宮大晦日舞踏会」は、その歴史は古くハプスブルクの時代にまで遡り、「皇帝舞踏会」と呼ばれていた。現在、舞踏会はチケットさえ購入すれば誰でも参加でき、世界約40カ国から2500人が集まる大舞踏会イベントとなっている。

 舞踏会のみの参加なら夜10時からオープニングとなるが、秀一はディナーからのチケットを購入していたため、開場時間となる6時半に合わせて王宮へ向かうべく、この日のために特別手配したロールスロイスに乗り込んだ。ベージュの革張りのシートに秀一と美姫は並んで腰掛け、シャンパンで新年の前祝いをする。

「幼い頃に憧れた舞踏会に出られるなんて、夢のようです」

 美姫が興奮気味に頬を紅潮させると、秀一が優艶な笑みを浮かべた。

「では私は、しっかりプリンセスのエスコートが出来るよう、努めましょう」

 青色にライトアップされたホーフブルク王宮の前には、高級車や馬車が乗り入れていた。ふたりの乗ったロールスロイスも横付けされ、運転手がドアを開け、秀一のエスコートで美姫は車から降りた。

 これから始まる舞踏会の荘厳な雰囲気に呑み込まれるようにして、ふたりは建物の中へと向かった。

 白い階段の真ん中に幅広に敷かれた深紅の絨毯には、既に大勢の正装した男女が溢れかえっており、華々しいムードが会場全体に漂っていた。

 カクテルレセプションへと向かい、ウェルカムドリンクであるカクテルを受け取り、暫しそこで歓談しながら案内を待つ。その間に秀一は何人もの人から声をかけられ、その度に美姫は紹介され、お辞儀を繰り返した。

 突然音楽が鳴り響き、オープニングイベントとしてバレエの踊りが披露された。人々の意識が一瞬にしてそちらへ集中し、熱気が上がり、ますます舞踏会の雰囲気は高まっていく。

 それが終わるといよいよ大晦日の特別ディナーであるガラディナーとなり、ふたりは案内されて席へと着いた。

 ガラディナーは前菜、スープ、メインコース、デザート、プティフール(焼き菓子)がついているコースとなっており、それに3種類から選べるワインがつく。特別なディナーというだけあって、味はもちろんのこと、見た目も繊細で凝っており、華やかな音楽を聴きながらふたりは優雅な食事を楽しんだ。

 長テーブルの座席の為、純白のドレスに身を包んでいる美姫に対し、近くの席に座っている人々が口々に社交界デビューのお祝いの言葉をかけてくる。だが、それを秀一に訳してもらわなければいけないので、美姫は申し訳ない気持ちになった。

 デザートが終わった後、給仕がプティフールとしてアフタヌーンティーの際に出される3段のティースタンドを運んできた。

「わぁっ、可愛い......」

 そこには小さなチョコレート菓子や焼き菓子、チョコレートでディップされたフルーツ等が並べられており、見た目も可愛らしくどれも魅力的だ。

 ゆっくりとディナーを堪能した後、秀一が美姫に声を掛けた。

「では、そろそろ参りましょうか」

 ダンスホールのある階上へと秀一のエスコートで上がると、そこはまた別世界だった。

 舞踏会のダンスホールはピンクがかった紫にライトアップされ、天井には丸い球のモニュメント。一番奥には大きな円形の看板に「Hofburg Silvester Ball(ホーフブルク大晦日舞踏会)」とあった。その看板の下には真紅の絨毯で敷き詰められた舞台があり、オーケストラが演奏している。ダンスホールは、まさにすし詰め状態だった。

「凄い、人ですね……」

 美姫が圧倒されながら呟くと、秀一はフフッと笑みを溢した。

「ウィーンだけではなく、世界中からこの舞踏会に参加する為に集まっていますからね」

 秀一は腕時計に視線を落とし、今度は舞台へと顔を向けた。

「もうそろそろ、始まりますよ」
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