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足枷

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※実際はドイツ語で話したのを加代子が日本語に通訳して美姫に伝えている部分を、ここでは読者様が読みやすいように自身が語っている形にして描いています。


 それから美姫は......午前中に加代子が迎えに来て、ブランチを食べ、昼は舞踏会に向けてダンスのレッスン。夕方は生徒たちのカドリーユを見学。それが終わればまたダンスのレッスン。加代子の自宅にて夕食を食べた後秀一が迎えに来る……という生活を繰り返していた。

 加代子とは歳は離れているが、まるで気の合う友人のように一緒に時間を過ごすうちに親しくなっていった。

 加代子はもう5年以上も日本に帰国していないとのことで、美姫から聞く日本の最近のファッションやテレビ、音楽などの話も興味深く聞いてくれた。


 舞踏会を前日に控えた30日、加代子のスタジオにて最終の確認のための練習を終えて生徒たちが帰って行った。

 いつものように美姫が加代子とダンスの練習をしていると、音楽に混じって何か違う音が聞こえてきた。

 加代子が音を止めると、入口の扉をノックする音が響いた。

「こんな時間に普通は訪問する人はいないんだけど、誰かしら...」

 加代子はスタジオの扉近くの長椅子に置いておいたジャージを羽織ると出て行った。

 美姫は心持ち不安な気持ちになりながら、半分はもしかしたら秀一が仕事を終えて早くに迎えに来てくれたのかもしれないという期待を胸に、スタジオの扉の覗き窓から入口を覗き込んだ。

 後ろ姿で対応する加代子の陰からその姿を確認した時、美姫は思わず「ぁ...」と、小さく声を上げた。

 ど、どうしてここに彼が......

 堂々とした風格で、その人はスタジオの中に入ってきた。

「モルテッソーニ......」

 美姫はあまりに驚いて挨拶すら忘れて彼を見上げていた。加代子も戸惑いを隠せないまま、美姫に説明する。

「実は私も驚いてるんだけど...彼ね、美姫さんにお話があってここに来たんですって」
「え...」

 それを聞き、美姫の背中にヒヤリと冷たいものが走る。

「ここじゃ、なんだから...狭いけど、事務所スペースに椅子があるからそこで話しましょう」

 加代子の提案により、3人はスタジオから事務所へと移動した。その間も美姫の不安は加速を増し、鼓動が煩く騒めいていく。

「どうぞ...」

 狭いスペースを片付け、なんとか椅子を3脚置くと、それだけでもういっぱいだった。

 モルテッソーニが加代子に向かってドイツ語で話しかけ、加代子はそれに頷いた。

「モルテッソーニがこれから話すのを私が日本語に通訳するから、聞いて欲しいって」

 美姫は逃げ出したい気持ちを抑え、不安で胃液が上がってくるような気持ち悪さを感じつつ、無理やり笑顔を作り、頷いた。

「わ、かりました...」

 モルテッソーニは、いったいどんな話をするんだろう......
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