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綱渡りの会話
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でも、それならなぜお母様は直接聞かないの?もし、私が秀一さんと付き合っているのでは、と疑っているのならば、問いただしてもおかしくないはず。
けれど、お母様は直接的な言葉は何も仰らない。
凛子の言葉は、真綿でギリギリと首を絞められているようだった。優しく見せかけて、じわりじわりと追い詰められていく......
これは、警告......なのかもしれない。これ以上、禁忌の関係に踏み込まないようにというお母様からの警告。
けれど、私は......もう、戻れないところまで来てしまっている......
「......えぇ。私もお父様やお母様のように、愛し愛されるような恋人と巡り会えるといいなと願っています」
美姫の言葉に、凛子はにこやかに微笑んだ。
「えぇ、きっと出会えますよ......」
ホテルでディナーを食べ、美姫は夜の不安を掻き消すようにお酒の力に頼った。
ふわふわとした心地で凛子とともに部屋へ戻り、重くなった躰をなんとか支え、化粧を落とし、パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい、美姫」
「おやすみなさい、お母様...」
凛子は寝室の美姫に声をかけた後、また仕事のためかリビングへと戻っていった。スプリングのきいたマットレスに躰がどんどん沈みこむ感覚と眠りに堕ちていく感覚が重なり、瞼が重くなっていくのを感じた。
眠れ、そう......
安堵しかけた美姫だったが、たった今まで安らぎを与えてくれていたはずの躰に纏わりつくシーツの感触が不快なものへと変わり、眠りへと誘う沈み込んでいく躰が、まるで底なし沼に引きずり込まれていくような恐怖となった。
ハァッハァッハァッハァッハァッハァッハァッ......
静寂な部屋に美姫の短く荒い呼吸が響く。扉の下からは薄明かりが漏れ、僅かにパソコンを叩くカチッ、カチッという早い音が聞こえて来る。全身が小刻みに震えだし、毛穴から嫌な汗が湧き出てくる。目の前の天井がグルグルと回りだし、キーンという耳鳴りが響き出し、心臓が警告音をかき鳴らす。息の継ぎ方が分からなくなってくる。
ダメ...ここで、パニックを起こしたら......お母様に聞かれたら、気づかれてしまう......
美姫は必死で震える腕を伸ばした。
ハァッ、あと...す、こし......
ベッドサイドのライトの灯りがつくと、間接照明の淡い光が暗闇を温かく照らしてくれた。
秀一さん、秀一さん......しゅう、いち......
愛しい人の顔を思い浮かべ、宥めるように胸を押さえ、秀一が耳元で囁いているのを想像しながら呼吸を繰り返す。
深く吸って...吐いて...吸って...吐いて......
だんだんと気持ちが落ち着き、呼吸が整ってきた。
だい、じょうぶ......私は、ちゃんと...制御、できる......
半身を起こし、額から流れ出た冷や汗を拭うと、ガチャッという扉の音とともに、凛子が入ってきた。
「あら、美姫。まだ起きていたの?」
「え...ぇぇ。喉が、渇いて...しまって......お酒の、飲み過ぎですね......」
美姫は凛子に背を向け、鉛のように思い躰をなんとかベッドから立ち上がらせると、水を飲むために冷蔵庫へとむかった。
けれど、お母様は直接的な言葉は何も仰らない。
凛子の言葉は、真綿でギリギリと首を絞められているようだった。優しく見せかけて、じわりじわりと追い詰められていく......
これは、警告......なのかもしれない。これ以上、禁忌の関係に踏み込まないようにというお母様からの警告。
けれど、私は......もう、戻れないところまで来てしまっている......
「......えぇ。私もお父様やお母様のように、愛し愛されるような恋人と巡り会えるといいなと願っています」
美姫の言葉に、凛子はにこやかに微笑んだ。
「えぇ、きっと出会えますよ......」
ホテルでディナーを食べ、美姫は夜の不安を掻き消すようにお酒の力に頼った。
ふわふわとした心地で凛子とともに部屋へ戻り、重くなった躰をなんとか支え、化粧を落とし、パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。
「おやすみなさい、美姫」
「おやすみなさい、お母様...」
凛子は寝室の美姫に声をかけた後、また仕事のためかリビングへと戻っていった。スプリングのきいたマットレスに躰がどんどん沈みこむ感覚と眠りに堕ちていく感覚が重なり、瞼が重くなっていくのを感じた。
眠れ、そう......
安堵しかけた美姫だったが、たった今まで安らぎを与えてくれていたはずの躰に纏わりつくシーツの感触が不快なものへと変わり、眠りへと誘う沈み込んでいく躰が、まるで底なし沼に引きずり込まれていくような恐怖となった。
ハァッハァッハァッハァッハァッハァッハァッ......
静寂な部屋に美姫の短く荒い呼吸が響く。扉の下からは薄明かりが漏れ、僅かにパソコンを叩くカチッ、カチッという早い音が聞こえて来る。全身が小刻みに震えだし、毛穴から嫌な汗が湧き出てくる。目の前の天井がグルグルと回りだし、キーンという耳鳴りが響き出し、心臓が警告音をかき鳴らす。息の継ぎ方が分からなくなってくる。
ダメ...ここで、パニックを起こしたら......お母様に聞かれたら、気づかれてしまう......
美姫は必死で震える腕を伸ばした。
ハァッ、あと...す、こし......
ベッドサイドのライトの灯りがつくと、間接照明の淡い光が暗闇を温かく照らしてくれた。
秀一さん、秀一さん......しゅう、いち......
愛しい人の顔を思い浮かべ、宥めるように胸を押さえ、秀一が耳元で囁いているのを想像しながら呼吸を繰り返す。
深く吸って...吐いて...吸って...吐いて......
だんだんと気持ちが落ち着き、呼吸が整ってきた。
だい、じょうぶ......私は、ちゃんと...制御、できる......
半身を起こし、額から流れ出た冷や汗を拭うと、ガチャッという扉の音とともに、凛子が入ってきた。
「あら、美姫。まだ起きていたの?」
「え...ぇぇ。喉が、渇いて...しまって......お酒の、飲み過ぎですね......」
美姫は凛子に背を向け、鉛のように思い躰をなんとかベッドから立ち上がらせると、水を飲むために冷蔵庫へとむかった。
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