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綱渡りの会話
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凛子はいつもの上品な笑みを見せた。
「シンデレラストーリーというなら、お父様はプリンスチャーミングってことになるけれど......ふふ...そんな感じではなかったわね......
最初はね、まだ大学生だった誠一郎さんが見習いとして会社に来た時、なんて頼りない男性なんだろうって思っていたんですよ。私は彼よりも5歳年上で、もうその時既にキャリアも積んでいましたし、それなりに仕事に対する知識もありましたから。
確かに誠一郎さんは仕事の上では新人で右も左も分かりませんでしたけれど......彼と一緒に仕事をするうちに、彼の仕事に対する真摯な態度、そして、たとえ部下や下請け先の従業員であっても変わらない優しい接し方、そして真面目で誠実な性格に少しずつ惹かれていったの。
でも、彼は来栖財閥の御曹司。私とは住む世界が違う...と、彼との恋愛関係は望んでいなかったわ。私は誠一郎さんの側で彼の仕事を支えられるだけで、幸せだと思っていたの。
それが、突然誠一郎さんから告白されて......とても嬉しかったけれど、身分違いだからと断ったんですよ。身寄りのない、一介の秘書である私が来栖財閥の一族になど、とてもじゃないけどなれるはずがない、と身の程をわきまえていましたから。
それでも誠一郎さんは引いて下さらなくて......何度も何度も想いを伝えて下さって、次第に彼の熱意に私も根負けして、私も彼の想いに応えたいと思えるようになったのですよ。
......誠一郎さんと結婚出来て、美姫、あなたが生まれて......本当に私は幸せだと思っているんですよ。
私は、この家族の幸せを守るためならなんだって出来る......そう、感じています」
身分違いの恋に身をやつしたお父様とお母様......きっと、相当の覚悟をしたに違いない。
それほどまでに、ふたりは愛し合っていたってことなんだよね。今のふたりの仲の良さからも感じることが出来る。
苦しく、辛い思いもたくさんしたかもしれないけれど、その先に待っていたハッピーエンド。ふたりは、そこに辿りつくことが出来たんだ。
......私と秀一さんの関係にはハッピーエンドなんて...ない。
私たちが幸せになることで、不幸になる人がいる。私を、家族を大事に思ってくれているお父様とお母様の娘への将来の夢を、希望を、私は踏みにじろうとしている......
分かっている、許されることじゃないと。ふたりを悲しませることだと。
私たちが罪を背負っていかなければならないことだと。
......それでもこの恋心は、消えることなどない。
私は、秀一さんなしでは生きられない。
どうしたらいいの?どうしたら......
「......ねぇ、美姫......」
凛子が美姫の瞳を覗き込んだ。
「なんですか、お母様?」
何を聞かれるのか不安に慄き、ドキドキと心臓が落ち着かない。
「大和君とは...別れてしまったのね」
「えっ!!!」
美姫は凛子の言葉に驚愕した。
なぜなら、美姫は大和と別れたことはおろか、付き合っていたことすら話したことなどなかったからだ。
「シンデレラストーリーというなら、お父様はプリンスチャーミングってことになるけれど......ふふ...そんな感じではなかったわね......
最初はね、まだ大学生だった誠一郎さんが見習いとして会社に来た時、なんて頼りない男性なんだろうって思っていたんですよ。私は彼よりも5歳年上で、もうその時既にキャリアも積んでいましたし、それなりに仕事に対する知識もありましたから。
確かに誠一郎さんは仕事の上では新人で右も左も分かりませんでしたけれど......彼と一緒に仕事をするうちに、彼の仕事に対する真摯な態度、そして、たとえ部下や下請け先の従業員であっても変わらない優しい接し方、そして真面目で誠実な性格に少しずつ惹かれていったの。
でも、彼は来栖財閥の御曹司。私とは住む世界が違う...と、彼との恋愛関係は望んでいなかったわ。私は誠一郎さんの側で彼の仕事を支えられるだけで、幸せだと思っていたの。
それが、突然誠一郎さんから告白されて......とても嬉しかったけれど、身分違いだからと断ったんですよ。身寄りのない、一介の秘書である私が来栖財閥の一族になど、とてもじゃないけどなれるはずがない、と身の程をわきまえていましたから。
それでも誠一郎さんは引いて下さらなくて......何度も何度も想いを伝えて下さって、次第に彼の熱意に私も根負けして、私も彼の想いに応えたいと思えるようになったのですよ。
......誠一郎さんと結婚出来て、美姫、あなたが生まれて......本当に私は幸せだと思っているんですよ。
私は、この家族の幸せを守るためならなんだって出来る......そう、感じています」
身分違いの恋に身をやつしたお父様とお母様......きっと、相当の覚悟をしたに違いない。
それほどまでに、ふたりは愛し合っていたってことなんだよね。今のふたりの仲の良さからも感じることが出来る。
苦しく、辛い思いもたくさんしたかもしれないけれど、その先に待っていたハッピーエンド。ふたりは、そこに辿りつくことが出来たんだ。
......私と秀一さんの関係にはハッピーエンドなんて...ない。
私たちが幸せになることで、不幸になる人がいる。私を、家族を大事に思ってくれているお父様とお母様の娘への将来の夢を、希望を、私は踏みにじろうとしている......
分かっている、許されることじゃないと。ふたりを悲しませることだと。
私たちが罪を背負っていかなければならないことだと。
......それでもこの恋心は、消えることなどない。
私は、秀一さんなしでは生きられない。
どうしたらいいの?どうしたら......
「......ねぇ、美姫......」
凛子が美姫の瞳を覗き込んだ。
「なんですか、お母様?」
何を聞かれるのか不安に慄き、ドキドキと心臓が落ち着かない。
「大和君とは...別れてしまったのね」
「えっ!!!」
美姫は凛子の言葉に驚愕した。
なぜなら、美姫は大和と別れたことはおろか、付き合っていたことすら話したことなどなかったからだ。
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