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変調

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 秀一さんがレナードに対して恋愛感情がないことは分かっているけれど、『弟のような存在』というだけで心が揺れてしまう。どれだけ、私は独占欲が強いのだろう。
 秀一さんにとって私だけが、特別な存在でいて欲しい……と、強く…願ってしまう。

 ミシェルが脚を組んだ膝に反対側の肘を載せ、整えられた顎鬚を艶めかしい細く筋張った指先で弄る。その仕草からも溢れんばかりの色香を感じた。フフッとミシェルが、妖艶な笑いを響かせる。

『シューイチの演奏する愛の曲は、いつもどこか憂いと哀しみを帯びていたわ。
 それを変えたのは……いったい、誰なのかしらね……』

 その言葉に美姫の心臓がドキンッと音をたてるかのように跳ね上がり、心拍数が急激に速まる。

『あっ、あの…私……ちょっと心配なので、様子を見てきますね』

 そう言って美姫は立ち上がった。

「3階の一番奥がレナードの部屋だよ」

 ザックが教えてくれた。

 ミシェルの言動は……何か見透かされている感じがして、怖い……

 まだ階段の途中から、レナードの甲高い声がくぐもって響き渡る。感情が昂っているせいなのか、秀一と話している時はいつもそうなのか、英語で捲し立てているため自然に美姫の耳に入ってきてしまった。

『あんな演奏、シューイチじゃないっっ!!!なんなの、あのふやけた生温い音は!!!それに、演奏してる時のあの表情!!!
 ......僕が聴きたいのは、そんなんじゃない!!!』
『レオ……』

 秀一の低い声が静かに聞こえた時、美姫は階段を上りきり、廊下に立っていた。

 少し斜めになった後ろ姿の秀一の表情は艶のある流れるような漆黒の髪に隠れてしまっていて、サングラスのフレームしか見ることが出来ない。その向かいに立つレナードは秀一の影に隠れつつも、その腕越しに僅かに表情を窺うことが出来た。

 レナードは廊下に立つ美姫の存在に気付いたようで、一瞬眉を動かし、僅かに瞳孔を見開いた後、唇を噛み締めた。

『誰を…誰を…思ってたんだよ……シューイチ……僕の気持ち、分かってるでしょ……』

 そう言うと、いきなり秀一の首にレナードが腕を回して引き寄せるようにし、踵を上げて秀一の唇に自らの唇を押し付けるようにして重ねた。レナードのプラチナブロンドの前髪の隙間から覗くアクアマリンの瞳は邪気を含み、真っ直ぐ美姫を挑戦的に見据えている。


 なっ……


 美姫は呼吸も忘れて立ち尽くしていた。きっと実際には数十秒、いや数秒の出来事だったのかもしれないが……

 美姫にはそれが、永遠に続く時のように感じた。
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