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本心 ー秀一視点ー
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そして、いよいよ旅立ち。
美姫がいつもよりも気分が高揚しているのが伝わってきた。その表情、仕草、声音、体温から発せられる熱から……私への想い、だけではない。
そう、美姫の躰の奥に眠っていた欲情が燻り始めているのを感じてゾクゾクした。
私達の躰と心の交わりは、もう、すぐそこまで来ていると、思っていた。
美姫のことは私が一番理解している、と。私が求めてやまなかったことを、美姫も求めているのだと、確信していた。
もう、トラウマなど過去のものに押しやっていた。
そして、行為の最中……それは起こったのだった。
最初は何が起こったのか分からなかった。
それから、必死で美姫を宥め、落ち着かせることだけに神経を集中した。
美姫が泣き疲れて眠ってしまった後も、美姫を心配する気持ちの方が大きくて、まだ自分のことを考える余裕などなかった。美姫を救いたい……その、一心だった。
そんな中、美姫の無意識の抱擁に思わず欲情を煽られ……私の中の冷め切れなかった熱はいとも簡単に押し戻された。無抵抗の美姫に夢中で愛撫し、鬱積した欲を吐き出したのだ。
その後、シャワーを浴びているうちに、欲情で熱されていた頭が冷やされ、冷静になってきた。
今まで美姫は、私には拒否反応を示さなかった。それなのに、美姫は行為の最中フラッシュバックを起こした。
私に対して…初めて、拒否の反応を示した……
壁に手を付いて、拳を握った。ワナワナと拳が震える。流しっぱなしのシャワーが飛沫を飛ばしながら項垂れた脳天に打ち付ける。
想像していた以上の衝撃に、打ちひしがれた。
なぜ......なぜ、なのですか。
美姫、なぜ私を......拒否するのですか。
貴女は......貴女だけは、私を拒否することなどない......そう、信じていたのに。
強く…思い知らされた。
美姫が、私がいないと生きていけない……のではない。
私が、美姫がいないと生きていけないのだ。
もし、この先……美姫がこのことを機に、私に触れるのを躊躇ったり……それどころか、避けられたら……
そう思うと、熱いシャワーを浴びているにも関わらず、冷水を浴びているかのように全身に寒気が走り、震えが止まらなかった。
私の唯一の光がこの手からすり抜け、去っていくこと。
それは、私にとって死を宣告されることに等しかった。
私は、美姫のことをもっと知らなければならない。彼女のトラウマを理解し、そして見えない鎖で繋いでおくために。
手を、打たなければ……
シャワーの栓を捻ると、水気を拭くのもそこそこにガウンを羽織り、スマホを手にした。
現在時刻は、夜中の2時……日本では、朝の9時ですね……
この時間なら大丈夫だろう。
特殊なルートを使い、心的外傷の権威である専門医を紹介してもらい、無理を言って電話での問い合わせに答えてもらうこととなった。
レイプ未遂の直後から一週間後に大学で起こった事件とその時の美姫の様子を、順を追って詳しく説明した。
『それは、RTSと呼ばれる症状ですね……』
そこで初めてRTS、レイプ外傷症候群という言葉を耳にした。医師が、その症状について詳細に解説してくれた。
「今まで美姫は、私に対して拒否症状を示すことはありませんでした。だが…今日…行為の最中…突然フラッシュバックを起こしたのです……」
躊躇いながらもその時の状況を話す。
『恐らくそれは、来栖さんの何らかの行為が美姫さんにレイプ未遂の際の似たような状況を思い起こさせ、それを、疑似体験したと認識したことによって起こったのでしょう……』
自分でも何となく自覚していたこととはいえ、専門医から言われると、更にその重みが増した。
「それによって、彼女が私に対して…今後、拒否反応を示すようなことはあるでしょうか……」
これこそが、私が聞きたかったことだった。
彼は、言葉を選ぶように慎重に、ゆっくりと口を開いた。
『それは……人によりますので、何とも言えません。ただ、今後とも来栖さんが美姫さんに触れることによって、再びフラッシュバックを起こす可能性があるということだけは覚えておいて下さい。
それは、彼女がレイプ未遂の事実を受け入れて、自分のアイデンティティーとして統合しない限り、ずっと続いていく不安要素になります』
再び…あのフラッシュバックが、私の愛撫によって、引き起こされるかもしれない……
気持ちと共に躰まで底なし沼に沈んでいくような気がした。
電話を終えてからもまだ、その気持ちを引き摺ったまま、美姫の眠るベッドに戻る事なく、彼女の寝顔を見つめながら、まんじりと眠れぬまま一夜を過ごした。
美姫がいつもよりも気分が高揚しているのが伝わってきた。その表情、仕草、声音、体温から発せられる熱から……私への想い、だけではない。
そう、美姫の躰の奥に眠っていた欲情が燻り始めているのを感じてゾクゾクした。
私達の躰と心の交わりは、もう、すぐそこまで来ていると、思っていた。
美姫のことは私が一番理解している、と。私が求めてやまなかったことを、美姫も求めているのだと、確信していた。
もう、トラウマなど過去のものに押しやっていた。
そして、行為の最中……それは起こったのだった。
最初は何が起こったのか分からなかった。
それから、必死で美姫を宥め、落ち着かせることだけに神経を集中した。
美姫が泣き疲れて眠ってしまった後も、美姫を心配する気持ちの方が大きくて、まだ自分のことを考える余裕などなかった。美姫を救いたい……その、一心だった。
そんな中、美姫の無意識の抱擁に思わず欲情を煽られ……私の中の冷め切れなかった熱はいとも簡単に押し戻された。無抵抗の美姫に夢中で愛撫し、鬱積した欲を吐き出したのだ。
その後、シャワーを浴びているうちに、欲情で熱されていた頭が冷やされ、冷静になってきた。
今まで美姫は、私には拒否反応を示さなかった。それなのに、美姫は行為の最中フラッシュバックを起こした。
私に対して…初めて、拒否の反応を示した……
壁に手を付いて、拳を握った。ワナワナと拳が震える。流しっぱなしのシャワーが飛沫を飛ばしながら項垂れた脳天に打ち付ける。
想像していた以上の衝撃に、打ちひしがれた。
なぜ......なぜ、なのですか。
美姫、なぜ私を......拒否するのですか。
貴女は......貴女だけは、私を拒否することなどない......そう、信じていたのに。
強く…思い知らされた。
美姫が、私がいないと生きていけない……のではない。
私が、美姫がいないと生きていけないのだ。
もし、この先……美姫がこのことを機に、私に触れるのを躊躇ったり……それどころか、避けられたら……
そう思うと、熱いシャワーを浴びているにも関わらず、冷水を浴びているかのように全身に寒気が走り、震えが止まらなかった。
私の唯一の光がこの手からすり抜け、去っていくこと。
それは、私にとって死を宣告されることに等しかった。
私は、美姫のことをもっと知らなければならない。彼女のトラウマを理解し、そして見えない鎖で繋いでおくために。
手を、打たなければ……
シャワーの栓を捻ると、水気を拭くのもそこそこにガウンを羽織り、スマホを手にした。
現在時刻は、夜中の2時……日本では、朝の9時ですね……
この時間なら大丈夫だろう。
特殊なルートを使い、心的外傷の権威である専門医を紹介してもらい、無理を言って電話での問い合わせに答えてもらうこととなった。
レイプ未遂の直後から一週間後に大学で起こった事件とその時の美姫の様子を、順を追って詳しく説明した。
『それは、RTSと呼ばれる症状ですね……』
そこで初めてRTS、レイプ外傷症候群という言葉を耳にした。医師が、その症状について詳細に解説してくれた。
「今まで美姫は、私に対して拒否症状を示すことはありませんでした。だが…今日…行為の最中…突然フラッシュバックを起こしたのです……」
躊躇いながらもその時の状況を話す。
『恐らくそれは、来栖さんの何らかの行為が美姫さんにレイプ未遂の際の似たような状況を思い起こさせ、それを、疑似体験したと認識したことによって起こったのでしょう……』
自分でも何となく自覚していたこととはいえ、専門医から言われると、更にその重みが増した。
「それによって、彼女が私に対して…今後、拒否反応を示すようなことはあるでしょうか……」
これこそが、私が聞きたかったことだった。
彼は、言葉を選ぶように慎重に、ゆっくりと口を開いた。
『それは……人によりますので、何とも言えません。ただ、今後とも来栖さんが美姫さんに触れることによって、再びフラッシュバックを起こす可能性があるということだけは覚えておいて下さい。
それは、彼女がレイプ未遂の事実を受け入れて、自分のアイデンティティーとして統合しない限り、ずっと続いていく不安要素になります』
再び…あのフラッシュバックが、私の愛撫によって、引き起こされるかもしれない……
気持ちと共に躰まで底なし沼に沈んでいくような気がした。
電話を終えてからもまだ、その気持ちを引き摺ったまま、美姫の眠るベッドに戻る事なく、彼女の寝顔を見つめながら、まんじりと眠れぬまま一夜を過ごした。
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