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誘惑 ー大和視点ー
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<大和回想>
あー、挨拶回りもようやく落ち着いたか……
櫻井財閥の傘下である、歴史ある由緒正しき櫻ロイヤルホテルの中でも一番の広さを誇るパーティー会場「絢爛の間」に、俺は立っていた。
入口には『羽鳥大蔵君を励ます会』とデカデカと書かれた立て札があり、2000人以上収容できる広さの会場には政財界の大物や各界の著名人、芸能人など大勢の人々で賑わい、熱気で溢れていた。会費制で行われるこのパーティーは、資金目的であることは暗黙の了解であり、この面子でこの人数の招待客で幾ら資金が集まったのか……などとは考えたくもなかった。
既に公での挨拶やスピーチは終わり、あとは個人的に挨拶しておかなければならない人物と短い談笑を兼ねた挨拶で回るだけ…そして、それをようやく終えたところだった。
高校生まではこういった社交場は免除されていたが、さすがに大学生ともなると無視することはできず、大学に入って羽鳥大蔵の三男として形だけの社交界デビューすることとなった。慣れないスーツに身を包み、如何にも青二才な俺に対して大勢の招待客から見え透いたおだてやおべんちゃらがかけられ、ほとほと疲れ切っていた。
親父や兄貴はよくやるぜ……俺には政治家なんて、到底無理だな……
長男である大地は親父がお世話になった大物政治家で元内閣総理大臣も務めた大瀧永十郎の議員秘書、次男、大樹は親父の第一秘書として務めている。
それに、悠も……
会場には、悠の姿もあった。
細身のスーツを颯爽と着こなし、遠くから見ていてもその物腰、仕草は会場と馴染み、とても同い年とは思えない程の落ち着きようだ。
大勢の女性達に囲まれ、すぐ隣で話しかけているのは往年の大女優、長妻景子だ。悠は、普段滅多に見せない微笑みを浮かべ、和やかに歓談している。いつものあの無愛想からは想像出来ない……
もし俺が女だったら……惚れているかもしれねぇな。
さすが、幼い頃からこうした社交場に連れ出されているだけあるな、と感心した。
今日は父親がパーティーに出られない為、代理で出席することになったのだと先程親父と共に挨拶した際に話していた。
悠の親父は悠を後継者として育てる為に、着々と足固めをしているように思えた。以前から仕事の為、大学の講義を休むことがあったが、最近はより頻繁になっていた。
悠は……どうするんだろうな。あんな忙しいんじゃ、きっと、薫子ともなかなか会えてねぇよな。大丈夫なのかよ......
そんな余計な心配が脳裏を過っていると、がっしりとした手が肩に置かれ、聞き覚えのある声が後ろから響いた。
「大和君もついに社交界デビューか」
「ご、無沙汰しております……」
声をかけてきたのは、このホテル総帥であり、櫻井財閥を牛耳るトップ。そして、薫子の父親である櫻井龍太郎だった。
隣には若葉色の着物を纏った薫子が立っていて、俺にぎこちない笑顔を向けた。助けを求めているような、泣きそうな表情にも見える。
そして、その隣には……
「大和君、お久しぶりです」
「えっ……もしかして、遼……なの、か!?」
「えぇ、長い米国滞在を経てようやくこちらに戻って来ました。君とは同じ大学の学部に通うことになるから、ひとつまた、よろしく頼みます」
遼が爽やかな笑顔を向け、米国帰りらしく握手を求めてきた。
「……こ、ちらこそ」
俺も笑顔を向け、手を差し出したが、心の中ではかなり動揺していた。
あの、ガキ大将で薫子の後ろばかり追い回してた遼が……
顔は幼い頃からそのままだったが、その態度の変わりように俺は言葉もなかった。
「そうか、大和君は遼君とは幼稚舎で一緒だったのだな。これからは薫子の婚約者、ゆくゆくは配偶者となるから、仕事も含めて懇意に頼むよ、ハッハッハッハ……」
上機嫌な龍太郎の言葉に、思わず薫子を見つめる。薫子は黙って悲しそうに頷いた。
じゃあ……薫子が言っていたお見合い相手って……遼の、ことだったのか……
あー、挨拶回りもようやく落ち着いたか……
櫻井財閥の傘下である、歴史ある由緒正しき櫻ロイヤルホテルの中でも一番の広さを誇るパーティー会場「絢爛の間」に、俺は立っていた。
入口には『羽鳥大蔵君を励ます会』とデカデカと書かれた立て札があり、2000人以上収容できる広さの会場には政財界の大物や各界の著名人、芸能人など大勢の人々で賑わい、熱気で溢れていた。会費制で行われるこのパーティーは、資金目的であることは暗黙の了解であり、この面子でこの人数の招待客で幾ら資金が集まったのか……などとは考えたくもなかった。
既に公での挨拶やスピーチは終わり、あとは個人的に挨拶しておかなければならない人物と短い談笑を兼ねた挨拶で回るだけ…そして、それをようやく終えたところだった。
高校生まではこういった社交場は免除されていたが、さすがに大学生ともなると無視することはできず、大学に入って羽鳥大蔵の三男として形だけの社交界デビューすることとなった。慣れないスーツに身を包み、如何にも青二才な俺に対して大勢の招待客から見え透いたおだてやおべんちゃらがかけられ、ほとほと疲れ切っていた。
親父や兄貴はよくやるぜ……俺には政治家なんて、到底無理だな……
長男である大地は親父がお世話になった大物政治家で元内閣総理大臣も務めた大瀧永十郎の議員秘書、次男、大樹は親父の第一秘書として務めている。
それに、悠も……
会場には、悠の姿もあった。
細身のスーツを颯爽と着こなし、遠くから見ていてもその物腰、仕草は会場と馴染み、とても同い年とは思えない程の落ち着きようだ。
大勢の女性達に囲まれ、すぐ隣で話しかけているのは往年の大女優、長妻景子だ。悠は、普段滅多に見せない微笑みを浮かべ、和やかに歓談している。いつものあの無愛想からは想像出来ない……
もし俺が女だったら……惚れているかもしれねぇな。
さすが、幼い頃からこうした社交場に連れ出されているだけあるな、と感心した。
今日は父親がパーティーに出られない為、代理で出席することになったのだと先程親父と共に挨拶した際に話していた。
悠の親父は悠を後継者として育てる為に、着々と足固めをしているように思えた。以前から仕事の為、大学の講義を休むことがあったが、最近はより頻繁になっていた。
悠は……どうするんだろうな。あんな忙しいんじゃ、きっと、薫子ともなかなか会えてねぇよな。大丈夫なのかよ......
そんな余計な心配が脳裏を過っていると、がっしりとした手が肩に置かれ、聞き覚えのある声が後ろから響いた。
「大和君もついに社交界デビューか」
「ご、無沙汰しております……」
声をかけてきたのは、このホテル総帥であり、櫻井財閥を牛耳るトップ。そして、薫子の父親である櫻井龍太郎だった。
隣には若葉色の着物を纏った薫子が立っていて、俺にぎこちない笑顔を向けた。助けを求めているような、泣きそうな表情にも見える。
そして、その隣には……
「大和君、お久しぶりです」
「えっ……もしかして、遼……なの、か!?」
「えぇ、長い米国滞在を経てようやくこちらに戻って来ました。君とは同じ大学の学部に通うことになるから、ひとつまた、よろしく頼みます」
遼が爽やかな笑顔を向け、米国帰りらしく握手を求めてきた。
「……こ、ちらこそ」
俺も笑顔を向け、手を差し出したが、心の中ではかなり動揺していた。
あの、ガキ大将で薫子の後ろばかり追い回してた遼が……
顔は幼い頃からそのままだったが、その態度の変わりように俺は言葉もなかった。
「そうか、大和君は遼君とは幼稚舎で一緒だったのだな。これからは薫子の婚約者、ゆくゆくは配偶者となるから、仕事も含めて懇意に頼むよ、ハッハッハッハ……」
上機嫌な龍太郎の言葉に、思わず薫子を見つめる。薫子は黙って悲しそうに頷いた。
じゃあ……薫子が言っていたお見合い相手って……遼の、ことだったのか……
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