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美姫への想い ー大和過去編ー

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「でも、それでも構わないって、思ってた。俺があいつを忘れさせてやるって思ってたんだ。
 ま、結局無理だったけどな」

 そんな自分を自嘲して笑った。

「苦しんでるお前をずっと見てた......けど、いつかはきっと来栖秀一のことは諦めるんだって、そう願ってた......」

 叔父である来栖秀一のことなんか忘れて、いい男見つけて、お前には幸せになって欲しい......

 そう、願ってた。それが、俺の幸せでもあるから。

 ック......なのに、なんでだ...なんで、こんなことになんだよ......

 抑えていた怒りと苛立ちが、またフツフツと湧き上がる。

 こんなの、間違ってる......

「分かってるのか?お前とあいつは…」
「分かってる!!!」

 美姫は俺の言葉を待たず、声を荒げた。

「……」
「……」

 ふたりの間に剣呑な空気が流れる。

 深い溜息が漏れる。

 違う、違うんだ。お前を...責めたいワケでも怒らせたいワケでもねぇんだ......

「俺は...美姫が幸せになって欲しくて美姫と別れたし、友達でいようって決めた……俺じゃなくても、美姫が好きな相手ならそれでいいって思ってた。
 でも……あいつ...あの人は……お前を、幸せにはできない……」
「……」

 分かってくれ......
 俺は、ただ...お前の幸せを祈ってるだけなんだ。お前の苦しむ顔は見たくない。

 お前には、いつも心からの笑顔で笑っていて欲しんだ......

「俺は……美姫が不幸になるのを黙って見てられない。
 分かってるのか? ……これは、許される関係じゃないんだ……」

 叔父と姪の禁忌の関係に、ハッピーエンドなんてありえねぇ。目ぇ醒ませよ、美姫。
 お前は、ちゃんとまともな恋愛をしてくれ......

 でないと俺は...いつまでもお前のことを忘れられねぇんだ。

「そんなの......言われなくても数えきれないぐらい考えたし、何度も諦めようともした……でも、駄目なの……秀一さんじゃなきゃ、駄目……
 私には…秀一さんしか、いないの!!!」


 美姫は俺に対して敵意を剥き出しにし、怒りを露わにした。こんなに激しい感情を向ける美姫を初めて見た。

 それほどまでにあいつが好きで、あいつとの関係を守りたいのかと思うと、胸が絞られるような痛みに襲われる。悔しさがこみ上げ、奥歯を噛み締めた。

 美姫は唇をキュッと結び、俺を睨みつけた。虚勢を張っていても、その躰は小刻みに震え、胸の内から溢れ出した感情で涙ぐんでいた。そんな美姫を見ていると、こんな状況にも関わらずこの胸に抱き留めたい感情が溢れてくる。

「不幸になるって、なに?幸せの基準は自分がどう感じるかでしょ?世間のいう幸せとか、関係ない!!私は…私にとっての幸せは、秀一さんと一緒にいることなの!!好きな人を好きって思って何がいけないの?叔父とか姪とか関係ない!!
 大和に…私の幸せの基準を押し付ける権利なんて、ない!!!」

 そこまで一気に捲し立てた後、美姫はハッとして口を押さえた。

 叔父と姪という関係を超えてまで、好きってことかよ......

 確かに、俺にお前と来栖秀一のことについてとやかく言う権利はない。
 けど...それでも俺は......

 居た堪れず席を立ち上がり、扉へと向かおうとする美姫の手首を掴んだ。

「離してっ!」

 美姫が手首を左右に振り払おうとするが、力を入れて手首を握った。

「......おじさんやおばさんのことは、考えたのか?」

 なんとしてでも、止めなきゃいけねぇんだ。美姫が不幸になるだけだって分かってて、見過ごせねぇんだよ。

 美姫の手首に込められていた力が失われ、怒りが急速に引いていくのが分かった。

 美姫、落ち着け。冷静になって、考えるんだ。

「美姫のことを愛しているのは一人だけじゃない。大切な家族を裏切ることになるんだぞ」

 俺は、美姫の両親の愛情をダシに使い、美姫と来栖秀一の仲を裂こうとした。

 ......だが、そんな俺の最後の望みも断たれ、美姫はこの部屋を出ていっちまった。

 美姫、お前は......本当にそれで、いいのか? それが、お前の思う『幸せ』なのか?
 俺は...俺は、ただ黙って遠くから見守ることしかできねぇ、のか......

 壁越しに隣からはまだ大音量の歌声や笑い声が響いていたが、それはもう俺を苛つかせることはなかった。

 俺は、何も聞こえない暗闇に......ただひとり佇んでいた。
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