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美姫への想い ー大和過去編ー

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 そして、高校3年の秋。

「……話があるの」

 文化祭の後、美姫の家の近くの公園に呼び出された。

 ふたりになることを避けていた美姫が俺を呼び出すなんて、おかしい。これは、何か深刻な話なんだろう......

 そう思うと、心が沈んだ。


 ブランコと鉄棒とパンダとネコを模したスプリング遊具と砂場があるだけの小さい公園のベンチに、既に美姫は腰掛けて待っていた。もうそこには子供どころか美姫以外は人影ひとつなく、秋の夕暮れの寂しい雰囲気が漂っていた。

 美姫はまだ俺に気づいていないようだ。少し乱れた髪を掻き上げ、耳にかける美姫の仕草に胸が甘く疼く。俺は、未だにこいつが好きなのだと改めて思い知らされる。

 スーッと深く息を吸い込み、吐き出した。美姫に笑顔で近づく。

「それで、話って?」

 なんでもない、そんな雰囲気で美姫の横に座る。だが、実際は美姫に心臓の音が聞かれてんじゃねぇかと思うぐらいバクバクして、パニクってた。

 美姫は深く息を吸い込んで静かに吐き出した。

「私…N大、受けることにしたの」

 N、大......

 その言葉に、俺は大きな衝撃を受けた。

 美姫が俺を避けていることは分かっていたが、まさか別大学を受験してまで俺から離れようとしていたとは思っていなかった。まさに、晴天の霹靂へきれきだ。

 俺は、今はギクシャクしちまっているけど、いつかはまたお互い気持ちが落ち着いて、昔みたいな関係に戻れるんじゃねぇかってどこかで期待し、楽観していた。

 俺が、美姫をそこまで追い詰めたのか......

「……もう、決めたのか?」

 お願いだ、嘘だと言ってくれ。冗談だって、笑えよ......そしたら俺も、笑うから......

「うん、先生にも話した。すごく反対されたけど……最後にはお前の選択だって言ってくれて。昨日、センター試験の出願、出してきた」
「そ、そっか……」

 もうそこまで話が進んでたのか。出願までした、なんて......本気、なんだな......

「……俺の、せいなのか?」

 俺は無意識に言葉を発していた。

 美姫が慌てたように、取り繕った笑顔で説明する。ほんとに、昔から美姫は嘘がヘタだ。

 「そ、んなわけ……ないよ。あの大学に憧れの教授がいたこともあるし、大学の寮に入って自立した生活をしてみたいって気持ちもあったから」

 俺は、大バカだな。あんなこと言って、『はい、そうです』なんて、美姫が答えるワケねぇのに...... 
 俺は、お前を傷つけたいんじゃねぇんだ。お前を苦しめたかったワケじゃ、ねぇ......

 ふぅーーっと大きく息を吐いた。

 おら、羽鳥大和。お前が言わなきゃいけねぇことは分かってんだろ。
 これ以上、美姫を苦しめんな。

 自分に言い聞かせ、美姫に精一杯の笑顔を見せた。

「美姫が決めたことなら、応援する。がんばれよ」

 その言葉に美姫は唇を噛み締め、潤んだ瞳で俺を見つめて頷いた。

「うん、ありがと……」

 俺の大切なものが、この手から完全にすり抜けていく......

 美姫にはもう、俺のことで苦しんで欲しくない。お前には、笑顔でいて欲しいんだ......


 美姫と過ごす残りの高校生活は、せめて楽しく過ごそう。そう俺は決意し、プライベートで会うことはなくなったものの、学校で会えば以前のように美姫に対して接するように心がけた。そして美姫も、そんな俺に合わせるように学校では友達として接してくれた。

 お互い仮面を被ったままの付き合い。

 それでもいい。それで、いいんだ......
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