102 / 1,014
美姫への想い ー大和過去編ー
15
しおりを挟む
だが、ついにその日は訪れた。
いつもの学校からの帰り道。最近は口数が少なくなってきていた美姫だったが、その日は一言も発することはなかった。
学校を出てから美姫の家までの帰り道、美姫が何度も俺に声を掛けようとしてはやめるのを感じていた。
ついに、来たか......
俺はそんな美姫に声を掛けることなく、重く暗い空気を引き摺ったまま美姫の家路へと黙って向かった。
そんな俺達の気持ちを代弁するかのように、見上げると空一面に暗雲が立ち込めていた。嵐の前の静けさを感じた。
美姫の家の門が目の前に迫ってきた。一歩一歩近づくにつれ、胸が苦しくなる。
このまま、何も言わずに帰ってくれ。いいんだ、俺はこのままでも......
ただ、お前の横に立ってるだけでいいから......
だが、美姫は門の前で立ち止まり、俺に振り向いた。暗く重くどんよりとした空気が二人を包み込んだ。じっとりとした雨を含んだ空気の匂いがした。
「本当に……ごめんなさい。
もう、私……大和とは、付き合えない」
ダメ、だったか……
いつかこの日が来ることは、心のどこかで分かってたし、覚悟してた。俺は本音を押し隠し、最後くらいはいい男であろうと、必死に虚勢を張った。
「……そっか……美姫に俺のこと好きになってもらって、美姫は俺が幸せにしてやりたかったんだけど……ダメなもんは、仕方ねぇよな……」
心が、引き裂かれそうだ......
俺じゃ、ダメなのか? お前の中には、まだあいつの影が消えてないのか?
こんな無様な気持ち、美姫には知られたくない。美姫には、優しくて、理解のある男だと思われていたい。
俺は美姫に心の内を覗かれないよう自分を奮い立たせ、「いい男」を演じ続けた。声が震えそうになるのを抑え、カラカラになった喉でわざと大きな声で明るく聞こえるように言った。
「恋人は解消だけどさ、これからは友達として付き合う前みたいに気軽な関係に戻ろうぜ。な?だから、もう『ごめん』とか変な罪悪感もたなくていいから」
俺は、お前じゃなきゃダメなんだ。お前がもう恋人としてやっていけねぇなら、友達としてでもいい、から......
お願いだ。お前の傍にいて、見守るだけでもさせてくれ......
俺の心の奥は慟哭していた。
だがそんな気持ちも、俯いていた美姫の頬からコンクリートへと染み込んだ涙の跡を見た途端、吹き飛んだ。
「み、美姫っ!?な、泣くなっ!!」
予想外の美姫の涙に慌て、慰めようとして美姫の肩に手を置きかけ、ハッとして手を離した。
別れを告げられた俺が美姫を慰めるなんて、そんなこと.....出来るわけねぇよな......
「ごめん……ごめんね、大和……」
何度も謝る美姫の震える華奢な肩に雨粒が落ち、染み込んで色濃く跡を残した。
きっと、今までずっと苦しんできたんだろう。俺の気持ちを考え、罪悪感を感じ、何度も考えた末に辿り着いた上での別れだったんだろう。
もう、美姫の心が俺に向くことはない......
心の均衡が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
一つずつ小さな染みを残していた雨粒はやがて重なって大きな染みとなり、いつしか染みを全て塗り潰し、全身を覆い尽くしていた。髪の毛から制服、靴下までぐっしょり濡れている美姫に声をかけた。
「美姫、ほら...風邪ひくから、中入れよ。俺は大丈夫だから」
げん、かいだ。これ以上ここにいると、美姫に縋り付きそうだ。
そんな真似は、絶対にしたくない......
雨に濡れて前髪から滴る雫を制服の袖で拭い、美姫を安心させるように笑って見せた。すると、美姫がハッとした。
「ご、ごめん大和...今、タオルと傘持ってくるから待って...」
「いい。本当に大丈夫だから」
お、願いだ。早く、行ってくれ......
強張る喉から絞り出すようにして声を出した。
「っほんとに、だいじょぶ、だから......このまま、帰らせてくれ」
頼む......
「わ、かった......」
俺は美姫を背にし、来た道を重い足取りで戻った。
美姫、美姫……美姫……おれ、は......
本当に、お前のことが...…好き、だった。
雷が鳴り始めた。豪雨は俺の躰を激しく叩きつける。
ふらつきながら美姫の家のある通りから右に曲がり、細い路地に入った。突き当たりは行き止まりで滅多に誰も通らない。
壁にもたれかかるとそのままズルズルと躰の力が抜けて滑り落ち、地面に脚を投げ出した。一人になると、今まで抑えていた嗚咽が込み上げてきた。
「っ...ぐ...うヴっっ......」
なんで、あいつなんだ......なんで……なんで、お前は俺じゃダメなんだ......
俺は......お前を救ってやれなかった。笑顔にしてやれなかった。
美姫、俺は......俺はどうすれば、お前を幸せに出来た?
「…ッグウォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
地面に血が滲むほど何度も拳を打ち付け、発狂したように叫んだ咆哮は、激しく叩きつける豪雨に飲み込まれた。
いつもの学校からの帰り道。最近は口数が少なくなってきていた美姫だったが、その日は一言も発することはなかった。
学校を出てから美姫の家までの帰り道、美姫が何度も俺に声を掛けようとしてはやめるのを感じていた。
ついに、来たか......
俺はそんな美姫に声を掛けることなく、重く暗い空気を引き摺ったまま美姫の家路へと黙って向かった。
そんな俺達の気持ちを代弁するかのように、見上げると空一面に暗雲が立ち込めていた。嵐の前の静けさを感じた。
美姫の家の門が目の前に迫ってきた。一歩一歩近づくにつれ、胸が苦しくなる。
このまま、何も言わずに帰ってくれ。いいんだ、俺はこのままでも......
ただ、お前の横に立ってるだけでいいから......
だが、美姫は門の前で立ち止まり、俺に振り向いた。暗く重くどんよりとした空気が二人を包み込んだ。じっとりとした雨を含んだ空気の匂いがした。
「本当に……ごめんなさい。
もう、私……大和とは、付き合えない」
ダメ、だったか……
いつかこの日が来ることは、心のどこかで分かってたし、覚悟してた。俺は本音を押し隠し、最後くらいはいい男であろうと、必死に虚勢を張った。
「……そっか……美姫に俺のこと好きになってもらって、美姫は俺が幸せにしてやりたかったんだけど……ダメなもんは、仕方ねぇよな……」
心が、引き裂かれそうだ......
俺じゃ、ダメなのか? お前の中には、まだあいつの影が消えてないのか?
こんな無様な気持ち、美姫には知られたくない。美姫には、優しくて、理解のある男だと思われていたい。
俺は美姫に心の内を覗かれないよう自分を奮い立たせ、「いい男」を演じ続けた。声が震えそうになるのを抑え、カラカラになった喉でわざと大きな声で明るく聞こえるように言った。
「恋人は解消だけどさ、これからは友達として付き合う前みたいに気軽な関係に戻ろうぜ。な?だから、もう『ごめん』とか変な罪悪感もたなくていいから」
俺は、お前じゃなきゃダメなんだ。お前がもう恋人としてやっていけねぇなら、友達としてでもいい、から......
お願いだ。お前の傍にいて、見守るだけでもさせてくれ......
俺の心の奥は慟哭していた。
だがそんな気持ちも、俯いていた美姫の頬からコンクリートへと染み込んだ涙の跡を見た途端、吹き飛んだ。
「み、美姫っ!?な、泣くなっ!!」
予想外の美姫の涙に慌て、慰めようとして美姫の肩に手を置きかけ、ハッとして手を離した。
別れを告げられた俺が美姫を慰めるなんて、そんなこと.....出来るわけねぇよな......
「ごめん……ごめんね、大和……」
何度も謝る美姫の震える華奢な肩に雨粒が落ち、染み込んで色濃く跡を残した。
きっと、今までずっと苦しんできたんだろう。俺の気持ちを考え、罪悪感を感じ、何度も考えた末に辿り着いた上での別れだったんだろう。
もう、美姫の心が俺に向くことはない......
心の均衡が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
一つずつ小さな染みを残していた雨粒はやがて重なって大きな染みとなり、いつしか染みを全て塗り潰し、全身を覆い尽くしていた。髪の毛から制服、靴下までぐっしょり濡れている美姫に声をかけた。
「美姫、ほら...風邪ひくから、中入れよ。俺は大丈夫だから」
げん、かいだ。これ以上ここにいると、美姫に縋り付きそうだ。
そんな真似は、絶対にしたくない......
雨に濡れて前髪から滴る雫を制服の袖で拭い、美姫を安心させるように笑って見せた。すると、美姫がハッとした。
「ご、ごめん大和...今、タオルと傘持ってくるから待って...」
「いい。本当に大丈夫だから」
お、願いだ。早く、行ってくれ......
強張る喉から絞り出すようにして声を出した。
「っほんとに、だいじょぶ、だから......このまま、帰らせてくれ」
頼む......
「わ、かった......」
俺は美姫を背にし、来た道を重い足取りで戻った。
美姫、美姫……美姫……おれ、は......
本当に、お前のことが...…好き、だった。
雷が鳴り始めた。豪雨は俺の躰を激しく叩きつける。
ふらつきながら美姫の家のある通りから右に曲がり、細い路地に入った。突き当たりは行き止まりで滅多に誰も通らない。
壁にもたれかかるとそのままズルズルと躰の力が抜けて滑り落ち、地面に脚を投げ出した。一人になると、今まで抑えていた嗚咽が込み上げてきた。
「っ...ぐ...うヴっっ......」
なんで、あいつなんだ......なんで……なんで、お前は俺じゃダメなんだ......
俺は......お前を救ってやれなかった。笑顔にしてやれなかった。
美姫、俺は......俺はどうすれば、お前を幸せに出来た?
「…ッグウォーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
地面に血が滲むほど何度も拳を打ち付け、発狂したように叫んだ咆哮は、激しく叩きつける豪雨に飲み込まれた。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
練習なのに、とろけてしまいました
あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。
「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく
※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる