75 / 1,014
大和への想い ー美姫過去編ー
2
しおりを挟む
いつもの学校からの帰り道。
学校の門を出てから駅まで、電車の車内、電車を降りて駅から家までの道程に何度も大和に声を掛けようとして息が詰まり、なかなか言葉に出せずにいた。
そんな私の様子に大和は何も言わず、ただ沈黙だけがふたりを包み込んでいた。
暗い気持ちを象徴するかのように、見上げると暗雲が立ち込め、今にも泣き出しそうな空が迫っていた。
家の門が目の前に迫ってきた。一歩一歩近づくにつれ、胸が苦しくなる。
こうして時間を引き伸ばしたって何も変わらない。ちゃんと、言わなくちゃ……
門の前で立ち止まり、大和に振り向く。夕方とは思えないほど暗い。天気のせいか、周りには誰も歩いている人はいなかった。
「本当に……ごめんなさい。もう、私……大和とは……付き合えない……」
大和への申し訳なさから目を合わすことが出来ず、俯いてしまう。
「……そっか。美姫に俺のこと好きになってもらって、美姫は俺が幸せにしてやりたかったんだけど……
ダメなもんは、仕方ねぇよな……」
我儘で自分勝手な私の言葉に、大和は落ち込みながらもスッキリとした口調で言った。まるで、こうなることを予測していたかのように……
「恋人は解消だけどさ、これからは友達として付き合う前みたいに気軽な関係に戻ろうぜ。な?
だから、もう『ごめん』とか変な罪悪感もたなくていいから」
大和の優しい言葉に目頭が熱くなり、鼻がツンとした。
だ、め……泣いちゃ……私には、そんな資格、ない……
けれど、私の意思に反して涙はポロポロと零れ落ちた。流れ落ちた涙は鼻筋を通ったり、頬を伝ったり、コンクリートに落ちて染み込んでいった。
「み、美姫っ!? な、泣くなっ!!」
大和が慌てたように私の肩に手を置いて抱き寄せようとしかけ、ハッとして手を離した。
「ごめん……ごめんね、大和……」
そんな大和の優しすぎる気遣いに、また涙が溢れ出す。
折しも、ポツン...ポツン...と雨粒が落ちてきた。それは、これから訪れる大雨の予兆だった。
ーー心が悲しみで濡れていく。
好きになれなくて、ごめんね。いつもしてもらうばかりで、何もしてあげられなくて、ごめんね……
たくさんたくさん助けてもらったのに、大和の笑顔に救われたのに、こんな残酷な結果になってしまってごめんなさい……
一粒ずつ聞こえていた雨音はやがて重なり、激しい律動に変わり、二人の髪や制服に急速に染み込んでいく。
「美姫、ほら...風邪ひくから、中入れよ。俺は、大丈夫だから」
大和は雨に濡れて前髪から滴る雫を制服の袖で拭い、安心させるような笑みを見せた。
雨が降っていることも忘れて佇んでいた私は、ハッとした。
「ご、ごめん大和...今、タオルと傘持ってくるから待って...」
「いい。本当に大丈夫だから」
言葉尻を待たず、強い調子で言った大和の言葉にビクッとした。
見上げた大和のダークブラウンの瞳に哀しみの色が見えた。
「っほんとに、だいじょぶ、だから......このまま、帰らせてくれ」
「わ、かった......」
喉から絞り出すような声で言った大和をもう止めることは出来ず、駅へと向かう彼の背中を黙って見送った。
家の中に入り、玄関の扉を閉めると、濡れた髪と躰をそこに押し付けた。通いで来てくれている家政婦の佐和さんはもう帰ってしまったらしく、誰もいなかった。
一人になると、今まで抑えていた嗚咽が込み上げてきた。
「っ...ぐ...うヴっっ......」
躰を支える力をなくし、玄関にへたり込んだ。両手を口で抑え、肩を震わせ、気づけば声を上げて泣いていた。
「うぐっ...うっご、め...ごめ...ッ...っく...なさ......や、ま...ック......」
なんで、大和じゃダメなんだろう……なんで……
秀一さんじゃないと……ダメ、なの……?
大和と別れたからって、何か変わるわけじゃない。
秀一さんと私はずっと叔父と姪として、この気持ちを告げられないままひた隠しにして......いつか秀一さんが結婚して、子供が出来て……それを目の前にしなければならないのに。
分かってる......
それでも……姪として、でもいい。ただ...ただ、秀一さんの傍にいたい。
私の泣き声を掻き消す豪雨が、扉の外からくぐもって聞こえた。
学校の門を出てから駅まで、電車の車内、電車を降りて駅から家までの道程に何度も大和に声を掛けようとして息が詰まり、なかなか言葉に出せずにいた。
そんな私の様子に大和は何も言わず、ただ沈黙だけがふたりを包み込んでいた。
暗い気持ちを象徴するかのように、見上げると暗雲が立ち込め、今にも泣き出しそうな空が迫っていた。
家の門が目の前に迫ってきた。一歩一歩近づくにつれ、胸が苦しくなる。
こうして時間を引き伸ばしたって何も変わらない。ちゃんと、言わなくちゃ……
門の前で立ち止まり、大和に振り向く。夕方とは思えないほど暗い。天気のせいか、周りには誰も歩いている人はいなかった。
「本当に……ごめんなさい。もう、私……大和とは……付き合えない……」
大和への申し訳なさから目を合わすことが出来ず、俯いてしまう。
「……そっか。美姫に俺のこと好きになってもらって、美姫は俺が幸せにしてやりたかったんだけど……
ダメなもんは、仕方ねぇよな……」
我儘で自分勝手な私の言葉に、大和は落ち込みながらもスッキリとした口調で言った。まるで、こうなることを予測していたかのように……
「恋人は解消だけどさ、これからは友達として付き合う前みたいに気軽な関係に戻ろうぜ。な?
だから、もう『ごめん』とか変な罪悪感もたなくていいから」
大和の優しい言葉に目頭が熱くなり、鼻がツンとした。
だ、め……泣いちゃ……私には、そんな資格、ない……
けれど、私の意思に反して涙はポロポロと零れ落ちた。流れ落ちた涙は鼻筋を通ったり、頬を伝ったり、コンクリートに落ちて染み込んでいった。
「み、美姫っ!? な、泣くなっ!!」
大和が慌てたように私の肩に手を置いて抱き寄せようとしかけ、ハッとして手を離した。
「ごめん……ごめんね、大和……」
そんな大和の優しすぎる気遣いに、また涙が溢れ出す。
折しも、ポツン...ポツン...と雨粒が落ちてきた。それは、これから訪れる大雨の予兆だった。
ーー心が悲しみで濡れていく。
好きになれなくて、ごめんね。いつもしてもらうばかりで、何もしてあげられなくて、ごめんね……
たくさんたくさん助けてもらったのに、大和の笑顔に救われたのに、こんな残酷な結果になってしまってごめんなさい……
一粒ずつ聞こえていた雨音はやがて重なり、激しい律動に変わり、二人の髪や制服に急速に染み込んでいく。
「美姫、ほら...風邪ひくから、中入れよ。俺は、大丈夫だから」
大和は雨に濡れて前髪から滴る雫を制服の袖で拭い、安心させるような笑みを見せた。
雨が降っていることも忘れて佇んでいた私は、ハッとした。
「ご、ごめん大和...今、タオルと傘持ってくるから待って...」
「いい。本当に大丈夫だから」
言葉尻を待たず、強い調子で言った大和の言葉にビクッとした。
見上げた大和のダークブラウンの瞳に哀しみの色が見えた。
「っほんとに、だいじょぶ、だから......このまま、帰らせてくれ」
「わ、かった......」
喉から絞り出すような声で言った大和をもう止めることは出来ず、駅へと向かう彼の背中を黙って見送った。
家の中に入り、玄関の扉を閉めると、濡れた髪と躰をそこに押し付けた。通いで来てくれている家政婦の佐和さんはもう帰ってしまったらしく、誰もいなかった。
一人になると、今まで抑えていた嗚咽が込み上げてきた。
「っ...ぐ...うヴっっ......」
躰を支える力をなくし、玄関にへたり込んだ。両手を口で抑え、肩を震わせ、気づけば声を上げて泣いていた。
「うぐっ...うっご、め...ごめ...ッ...っく...なさ......や、ま...ック......」
なんで、大和じゃダメなんだろう……なんで……
秀一さんじゃないと……ダメ、なの……?
大和と別れたからって、何か変わるわけじゃない。
秀一さんと私はずっと叔父と姪として、この気持ちを告げられないままひた隠しにして......いつか秀一さんが結婚して、子供が出来て……それを目の前にしなければならないのに。
分かってる......
それでも……姪として、でもいい。ただ...ただ、秀一さんの傍にいたい。
私の泣き声を掻き消す豪雨が、扉の外からくぐもって聞こえた。
0
お気に入りに追加
343
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる