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罪悪感
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「それにしても、美姫がもう20歳とはな。まだまだ子供だと思っていたのに……」
凛子から燗の紹興酒を猪口に注いでもらいながら、誠一郎は感慨深げに美姫を見つめた。
「ふふっ、お父様は美姫が成長するのが寂しいんですよ」
凛子は少し愉しげに言った。
「いやっ、凛子! 私は、美姫の成長を嬉しく思っているぞっ」
誠一郎の手元の猪口が揺れ、テーブルに零れる。母娘は顔を見合わせて、小さい男の子の可愛い悪戯を見つけたかのように笑った。
「でも、本当に早いわね……あの小さかった美姫が。美姫を授かったことが分かった時、お父様の喜びようは大変だったんですよ」
「り、凛子!」
慌てる誠一郎に、凛子は微笑んだ。
「フフッ、いいじゃないですか」
私の生まれた時……
「えぇ、私も知りたいです。ぜひ聞かせて下さい、お母様」
両親にせがむ美姫に、二人は美姫が産まれた時のことを話してくれた。
そこで初めて美姫は、自分が帝王切開で生まれてきたことや、仕事で多忙だった父が無理を押して付き添ってくれたこと、若かった二人が苦労しながらも愛情いっぱいに美姫を育ててくれたことを知った。
そう、だったんだ……
幼い頃から仕事が忙しく不在がちで、あまり一緒の時間を過ごすことのなかった両親。美姫は二人からの愛情は会う度に感じてはいたものの、両親にとって自分は仕事の次に大事な存在なのだとずっと感じていた。
こんなにも、望まれて……愛されて生まれてきたなんて……知らなかった……
誠一郎が美姫の目を見て、真摯に伝える。
「美姫、離れていても私達は家族だ。なかなか一緒に過ごせなくて寂しい思いをたくさんさせたかもしれないが、美姫のことを忘れたことなんて一日もないんだぞ」
「えぇ、そうですわね……美姫、これを」
「あっ、凛子!それは……」
凛子が渡したのは、誠一郎の仕事用のスケジュール帳だった。美姫はそれを、一口だけ口にした干し鮑のステーキの皿を寄せ、受け取った。促されてページを捲ると、クリアファイルに写真が入れられている。
母の腕に抱かれて眠る赤ちゃんの頃の写真、幼稚舎の門の前で少し緊張気味に両親と並んでいる写真。そこには仕事の都合で来られなかったはずの運動会や学芸会の写真も含まれていた。
美姫が生まれた時から大学の入学式まで、何枚にも渡って写真が入っている。
両親の深い愛情を知れたことは、以前であれば嬉しかったはずなのに、今の美姫の心を占めているのは罪悪感だった。
私が叔父である秀一さんと恋仲だと、二人が知ったら……どのように感じ、思うのだろう。
怒り?悲しみ?憎しみ?やるせなさ?後悔?裏切られた気持ち?……嫌悪感?
叔父と姪である秀一さんと私。私達の関係は……家族という枠をはみ出すことは許されないのだろうか。
例え、どんなに愛し合っていても……
秀一さんに片想いしていた時、苦しい……と思っていたけれど、気持ちが通じ合った今の方がもっと苦しい、だなんて……秀一さんへの恋心だけで突っ走って、その想いだけで生きていけたらどんなにいいだろう……
知らなければ、よかった……両親に深く愛されていることを。気づかないフリが出来れば、いいのに……
そんな冷酷な気持ちすら、美姫の心に湧いてきた。
凛子から燗の紹興酒を猪口に注いでもらいながら、誠一郎は感慨深げに美姫を見つめた。
「ふふっ、お父様は美姫が成長するのが寂しいんですよ」
凛子は少し愉しげに言った。
「いやっ、凛子! 私は、美姫の成長を嬉しく思っているぞっ」
誠一郎の手元の猪口が揺れ、テーブルに零れる。母娘は顔を見合わせて、小さい男の子の可愛い悪戯を見つけたかのように笑った。
「でも、本当に早いわね……あの小さかった美姫が。美姫を授かったことが分かった時、お父様の喜びようは大変だったんですよ」
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そこで初めて美姫は、自分が帝王切開で生まれてきたことや、仕事で多忙だった父が無理を押して付き添ってくれたこと、若かった二人が苦労しながらも愛情いっぱいに美姫を育ててくれたことを知った。
そう、だったんだ……
幼い頃から仕事が忙しく不在がちで、あまり一緒の時間を過ごすことのなかった両親。美姫は二人からの愛情は会う度に感じてはいたものの、両親にとって自分は仕事の次に大事な存在なのだとずっと感じていた。
こんなにも、望まれて……愛されて生まれてきたなんて……知らなかった……
誠一郎が美姫の目を見て、真摯に伝える。
「美姫、離れていても私達は家族だ。なかなか一緒に過ごせなくて寂しい思いをたくさんさせたかもしれないが、美姫のことを忘れたことなんて一日もないんだぞ」
「えぇ、そうですわね……美姫、これを」
「あっ、凛子!それは……」
凛子が渡したのは、誠一郎の仕事用のスケジュール帳だった。美姫はそれを、一口だけ口にした干し鮑のステーキの皿を寄せ、受け取った。促されてページを捲ると、クリアファイルに写真が入れられている。
母の腕に抱かれて眠る赤ちゃんの頃の写真、幼稚舎の門の前で少し緊張気味に両親と並んでいる写真。そこには仕事の都合で来られなかったはずの運動会や学芸会の写真も含まれていた。
美姫が生まれた時から大学の入学式まで、何枚にも渡って写真が入っている。
両親の深い愛情を知れたことは、以前であれば嬉しかったはずなのに、今の美姫の心を占めているのは罪悪感だった。
私が叔父である秀一さんと恋仲だと、二人が知ったら……どのように感じ、思うのだろう。
怒り?悲しみ?憎しみ?やるせなさ?後悔?裏切られた気持ち?……嫌悪感?
叔父と姪である秀一さんと私。私達の関係は……家族という枠をはみ出すことは許されないのだろうか。
例え、どんなに愛し合っていても……
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知らなければ、よかった……両親に深く愛されていることを。気づかないフリが出来れば、いいのに……
そんな冷酷な気持ちすら、美姫の心に湧いてきた。
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