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愛の夢
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秀一の住んでいる部屋の階から10階下がった階にオープンハウスはあった。
黒い重厚な扉を開くと、受付らしき女性が声を掛ける。
「見学の方ですか?」
秀一は、女性ににこやかに笑みを浮かべて答えた。
「えぇ、姪の新居を探していまして」
何処にいても、『叔父と姪』っていう肩書きがついて回るんだ……
仕方ないと分かっていても、美姫は心が痛かった。
「あっ! ピアニストの来栖 秀一さんですよね? 私、ファンなんですぅ!! わあっ、こんなところでお会いできるなんて、嬉しいっ!
……あの、サイン頂いてもいいですか?」
「えぇ、もちろんですよ」
受付の女性はペンを探しに、奥の方へパタパタと走って行ってしまった。
そう、だよね......秀一さんは、ましてや有名人だもの。二人の関係は、誰にも知られてはいけないんだ……
昨日は秀一と想いが通じて舞い上がって幸せな気持ちで満たされていたが、美姫は急に現実を突きつけられた気がした。
受付の女性がペンとともに戻ると、秀一にサインを書いてもらいながら申し訳なさそうに言った。
「見学にいらしたのに、すみません。どうぞ、お入り下さい」
「わぁ、素敵!」
最上階を全て使っているペントハウスに住んでいる秀一の部屋とは比べ物にならない狭さの一人暮らし用のバチュラータイプの部屋だが、それでも美姫には十分だった。
打ちっぱなしのコンクリートのライトグレーの壁に馴染むベージュのフローリング。天井まで続く高くて大きい窓は、光がたくさん差し込んで解放感に満ちていた。窓から外の景色を覗くと、ビルで重なるその奥に美姫の通う大学が見える。
あんなに近いんだ……
ブラックとグレーが絶妙なコントラストで配色されたお洒落なカウチが置かれ、そのすぐ近くにはガラスのローテーブルがあった。寝室のないバチュラータイプの部屋だが、ロフトがあるので、そこにベッドを置けば十分な広さがあった。
キッチンは一人暮らし用にしてはシンクが広く、収納スペースも確保されていて使いやすそうだった。トイレとバスルームは別々になっており、両方とも白を基調とした清潔なデザインだ。
「秀一さんっ!!」
浴槽がジャグジーになっているのを発見して、美姫は思わず秀一を呼び寄せた。
「美姫、どうですか?」
「とっても素敵です!窓も広いし、キッチンも使いやすそうだし。それに浴槽が広くてジャグジーまでついてるなんて、嬉しい......」
「フフッ、気に入ったようですね」
「はい!」
興奮して捲し立てる美姫に、秀一は目を細めた。
「本当はこの部屋よりももっと広い部屋が空いていたのですが、おそらく兄様達はこちらの方を勧めるだろうと思いまして。私としては、美姫に贅沢な暮らしをさせて甘やかしてあげたいんですけどね」
その言葉に、思わず美姫の顔が熱くなった。
これからこんな素敵な部屋に住んで、秀一さんともっと一緒に過ごせるんだ……
目の前に明るい未来への希望の道が真っ直ぐに伸びているような、そんな気持ちになって、美姫は高揚感を覚えた。
美姫がキッチンやバスルームを覗いている間、秀一は先程の受付の女性と話していた。
なに、話してるんだろう。彼女、秀一さんのファンだって言ってたし、なんだか不安......
美姫の元へと歩いてきた秀一に、美姫は小声で尋ねた。
「あの人と、何を喋ってたんですか……?」
美姫の不安な気持ちを見透かしたかのように、秀一が笑みを溢した。
「フフッ、ヤキモチですか?可愛いですね」
「なっ! ち、違いますっ!!」
図星の癖に認めるのが悔しくて、美姫はつい否定してしまった。
「仮予約をお願いしていたのですよ」
「えっ!?」
まだお父様達から承諾を得ていないのに、もう仮予約!?
「ここは立地的にも人気ですから、早く予約を入れておかないとすぐ取られてしまうんですよ」
そ、そうだったんだ……
「す、すみません私......」
秀一さんは私のことを考えて行動してくれていたのに、私はただ、秀一さんと女の人がどんな話をしているのかだけしか考えてなかった。
やっぱり秀一さんは......ずっと、大人だ。
「いいのですよ。さ、では帰りましょうか」
秀一は美姫の腰に手を添えた後、耳元でそっと囁いた。
「ヤキモチを焼く可愛い貴女を見ていたら......今すぐ抱きたくなりました」
「ッッ!」
秀一の色香に当てられ、美姫の耳が真っ赤に染まった。
黒い重厚な扉を開くと、受付らしき女性が声を掛ける。
「見学の方ですか?」
秀一は、女性ににこやかに笑みを浮かべて答えた。
「えぇ、姪の新居を探していまして」
何処にいても、『叔父と姪』っていう肩書きがついて回るんだ……
仕方ないと分かっていても、美姫は心が痛かった。
「あっ! ピアニストの来栖 秀一さんですよね? 私、ファンなんですぅ!! わあっ、こんなところでお会いできるなんて、嬉しいっ!
……あの、サイン頂いてもいいですか?」
「えぇ、もちろんですよ」
受付の女性はペンを探しに、奥の方へパタパタと走って行ってしまった。
そう、だよね......秀一さんは、ましてや有名人だもの。二人の関係は、誰にも知られてはいけないんだ……
昨日は秀一と想いが通じて舞い上がって幸せな気持ちで満たされていたが、美姫は急に現実を突きつけられた気がした。
受付の女性がペンとともに戻ると、秀一にサインを書いてもらいながら申し訳なさそうに言った。
「見学にいらしたのに、すみません。どうぞ、お入り下さい」
「わぁ、素敵!」
最上階を全て使っているペントハウスに住んでいる秀一の部屋とは比べ物にならない狭さの一人暮らし用のバチュラータイプの部屋だが、それでも美姫には十分だった。
打ちっぱなしのコンクリートのライトグレーの壁に馴染むベージュのフローリング。天井まで続く高くて大きい窓は、光がたくさん差し込んで解放感に満ちていた。窓から外の景色を覗くと、ビルで重なるその奥に美姫の通う大学が見える。
あんなに近いんだ……
ブラックとグレーが絶妙なコントラストで配色されたお洒落なカウチが置かれ、そのすぐ近くにはガラスのローテーブルがあった。寝室のないバチュラータイプの部屋だが、ロフトがあるので、そこにベッドを置けば十分な広さがあった。
キッチンは一人暮らし用にしてはシンクが広く、収納スペースも確保されていて使いやすそうだった。トイレとバスルームは別々になっており、両方とも白を基調とした清潔なデザインだ。
「秀一さんっ!!」
浴槽がジャグジーになっているのを発見して、美姫は思わず秀一を呼び寄せた。
「美姫、どうですか?」
「とっても素敵です!窓も広いし、キッチンも使いやすそうだし。それに浴槽が広くてジャグジーまでついてるなんて、嬉しい......」
「フフッ、気に入ったようですね」
「はい!」
興奮して捲し立てる美姫に、秀一は目を細めた。
「本当はこの部屋よりももっと広い部屋が空いていたのですが、おそらく兄様達はこちらの方を勧めるだろうと思いまして。私としては、美姫に贅沢な暮らしをさせて甘やかしてあげたいんですけどね」
その言葉に、思わず美姫の顔が熱くなった。
これからこんな素敵な部屋に住んで、秀一さんともっと一緒に過ごせるんだ……
目の前に明るい未来への希望の道が真っ直ぐに伸びているような、そんな気持ちになって、美姫は高揚感を覚えた。
美姫がキッチンやバスルームを覗いている間、秀一は先程の受付の女性と話していた。
なに、話してるんだろう。彼女、秀一さんのファンだって言ってたし、なんだか不安......
美姫の元へと歩いてきた秀一に、美姫は小声で尋ねた。
「あの人と、何を喋ってたんですか……?」
美姫の不安な気持ちを見透かしたかのように、秀一が笑みを溢した。
「フフッ、ヤキモチですか?可愛いですね」
「なっ! ち、違いますっ!!」
図星の癖に認めるのが悔しくて、美姫はつい否定してしまった。
「仮予約をお願いしていたのですよ」
「えっ!?」
まだお父様達から承諾を得ていないのに、もう仮予約!?
「ここは立地的にも人気ですから、早く予約を入れておかないとすぐ取られてしまうんですよ」
そ、そうだったんだ……
「す、すみません私......」
秀一さんは私のことを考えて行動してくれていたのに、私はただ、秀一さんと女の人がどんな話をしているのかだけしか考えてなかった。
やっぱり秀一さんは......ずっと、大人だ。
「いいのですよ。さ、では帰りましょうか」
秀一は美姫の腰に手を添えた後、耳元でそっと囁いた。
「ヤキモチを焼く可愛い貴女を見ていたら......今すぐ抱きたくなりました」
「ッッ!」
秀一の色香に当てられ、美姫の耳が真っ赤に染まった。
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