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138.もう、離れたくない

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 ステファンが、じっと考え込むサラの肩を抱いた。

「不安、ですか?」

 サラはステファンを見上げ、左手で彼の頬を包み込んだ。

「ステファンがいる場所が、私の居場所です。
 貴方がいるから、私は強くなれます……強く、なりたいんです」

 ステファンの瞳が、愛おしく細められた。

「心強いですね。
 貴女の瞳に迷いが消えたのを見て、私の不安もなくなりました」

 唇が寄せられ、甘い吐息を交わらせた。

 車を降りた先には、小型のジェット機が迫っていた。サラがウィーンに発つステファンを見送った、ガルフストリームG550だ。

 今日はステファンと乗ることが出来るのだと思うと、感慨深い思いに包まれた。

 客室乗務員に挨拶し、ステファンに続いてタラップを上がる。

 入ってすぐに黒大理石のバーカウンターがあるのは一緒だったが、ソファは以前のベージュの革張りのものから黒革のソファベッドに変わっていた。

 離陸に備え、機内席に並んで座る。

「本当に、いいのですね?」

 念を押すステファンに、サラはしっかりと頷いた。

「はい、覚悟は出来ています」

 飛行機が滑走路へ向かい、動き出す。機体が進行方向を変え、滑走路に辿り着くと、加速度を上げていく。

 サラは息を詰めて、窓からの景色を見つめた。

 景色がぐんぐん後ろへと流れていき、ふわっと胃が持ち上げられるような感覚が起きる。滑走路の白いマーキングが見え、周りの景色が広がっていく。空港の飛行機が小さくなっていき、どんどん地上との距離が遠くなる。

 サラは小さく息を吐いた。

 飛行機が雲の上を飛び、地上の景色が見えなくなると、サラは窓から視線を外した。

 少し憂いを帯びたその表情を見つめたステファンは、ベルト着用サインが消えると間の手摺を上げ、サラの手に自らの手を重ねた。

「本当に、ここにサラがいるのですね」

 サラの指の間にステファンの長い指が入り込み、その存在を確認するように握られる。そんな仕草にサラの胸がキュンと締め付けられ、ステファンを見上げた。

「これからは、ずっと傍にいます。
 傍に、いさせて下さい」

 ステファンがカチャッと自らのシートベルトを外し、サラのベルトに指を掛ける。

「ようやく、貴女の肌に触れられる……」

 もう片方の腕が、サラの躰を引き寄せる。サラはステファンの胸元に、躰を預ける形になった。彼の甘くセクシーな匂いに包まれ、サラの全身が熱くなった。

 サラはステファンを見上げ、慌てた。

「ちょちょちょ……ちょっと、待って下さい!
 客室乗務員の方だっているし、まさか……最後までは、しないですよね? ただ、抱き合ったりするだけ、ですよね?」

 ステファンは、サラの背中に指を沿わせた。サラの背中が猫のようにしなる。

「私がそんな戯れだけで、満足するとでも? 乗務員席はカーテンで仕切られていますし、呼び出しと緊急時以外は来ないように伝えてあります。
 Mile High Club(搭乗中のセックス)は、極上の快楽を与えてくれるそうですよ」

 ステファンの唇が、サラの耳元に寄せられた。

「二人で、極上の快楽に溶けていきましょう」
「ンンッァ!」
 
 耳朶に甘く噛みつかれ、サラは切ない声を上げた。

 ステファンは意地悪そうに目を細めた表情から一転、切なさの混じるライトグレーの瞳でサラを見つめた。

「この日を、どれだけ待ち侘び、何度夢見たことか……
 本当に、夢ではないのですね。サラが、私の腕の中にいるんですね……」

 それまでの苦しく辛かったステファンの思いが流れ込み、サラは絞られるような痛みと溢れ出る愛おしさを胸に、ステファンに唇を寄せた。

「私も、夢のようです。ステファンの胸に抱かれているなんて……」



 もう、決して離れたくない……



 そんな思いを胸に、再びサラはステファンに唇を寄せた。
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