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96.崩れゆく世界
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ステファンは可笑しそうに笑った。
「ふふっ。私がそのようなこと出来るはずないと、一番分かっているのはサラ。貴女でしょう?
私は片時も離れることなく、ずっと貴女といたのですよ」
だが、そのステファンの笑みはサラを安堵させるよりも、より一層不安の底へと引き摺り込む。
「えぇ、分かっています。私はずっと、ステファンの傍にいました。
ステファンが手を下したんじゃないってことは、分かって、います」
それを聞いて微笑みかけたステファンの袖を、サラはギュッと掴んだ。今にも泣き出しそうな表情で、彼を見上げる。
「けれど……そう、指示をしたのは……ステファンでは、ありませんか?
お願い、です……本当のことを、教えて下さい」
『本当のことを教えて下さい』と言いながらも、サラは心の中で叫んでいた。
お願いです、ステファン。
カメラマンの自殺とは何も関係ない、あれはただの自殺だと言ってください。お願いです……
ステファンは掴まれたサラの手をそっと撫で、優美に脚を組み替えた。
「私は、自殺に見せかけて殺すようにとは、ひとことも言っていませんよ。
『彼には、それなりの制裁が必要なようです』と、独り言を呟いたまでです」
自殺では、なかった……
ステファンの指示で動いた男たちによって、殺されたのですね。
サラは心臓を一突きされたかのように、ショックで全身の血の気が引いた。
「な、なぜ……どうして、ですか。どう、して……」
わなわなと震える手は次第に大きく痙攣し、唇まで震えて紫に変わっていた。
ステファンはサラの肩を抱き寄せ、震える躰を温めるように包み込んだ。
「サラ。まさか忘れてはいないでしょうね? あの男は、私たちを二度も絶望の淵へと突き落としたのですよ。
最初にあのスクープ記事が出た時に、雑誌社の専属カメラマンを外すという手緩てぬるい処置をした自分の甘さに嫌気がさします。
そして今度は私たちを盗撮し、関係を暴露することであの男は自分の恨みを晴らそうとしたのです。許せるはずなど、ないでしょう」
ステファンのライトグレーの瞳の奥底に殺意に満ちた鈍い光を見たサラは、失望のどん底へと叩き落とされた。顔面蒼白し、ショックを受けるサラに対し、ステファンは穏やかに言い聞かせた。
「貴女だって、私たちをこんな状況に陥れたあの男が憎いでしょう?
これは、カルマですよ」
ステファンは薄い笑みを浮かべた。
サラの全身から、力が抜けた。
そ、んな……確かに、あのカメラマンを恨む気持ちがなかったといえば嘘になりますが、死をもって制裁だなんて間違っています。
私は、ただ……ステファンとふたりだけの世界が欲しかっただけ、なのに。
どうして、こうなってしまったのでしょう。
サラはハラハラと流れ落ちる涙を拭うこともせず、力の抜けた躰をステファンに預けた。
桃源郷だと信じた世界が崩れていく。サラは、もうここが夢見た世界ではないことを知った。
「私と貴女の仲は、誰にも邪魔させません。
誰にも……私たちの世界には、入り込ませない」
ステファンが唇を寄せる。
ステファン。
これは、貴方が本当に望んでいた世界なのですか?
桃源郷というベールが剥がれたその先にある、復讐と狂気と欲望。
わた、しは……私は……
ステファンに愛撫されながら、溢れる涙が止まらない。
ステファンの舌が、サラの涙を掬い取る。
「愛しい私のサラ。貴女は、誰にも渡しません。
永遠に、私だけのもの」
「ウッ……ッグ……ウゥッ……」
サラの脳裏に暗い思いが浮かび上がる。
狂気に染まった愛の行く末は……破滅への道しか残されていない。
それなら、いっそ……ふたりで死ねば、楽になるだろうか。
「ふふっ。私がそのようなこと出来るはずないと、一番分かっているのはサラ。貴女でしょう?
私は片時も離れることなく、ずっと貴女といたのですよ」
だが、そのステファンの笑みはサラを安堵させるよりも、より一層不安の底へと引き摺り込む。
「えぇ、分かっています。私はずっと、ステファンの傍にいました。
ステファンが手を下したんじゃないってことは、分かって、います」
それを聞いて微笑みかけたステファンの袖を、サラはギュッと掴んだ。今にも泣き出しそうな表情で、彼を見上げる。
「けれど……そう、指示をしたのは……ステファンでは、ありませんか?
お願い、です……本当のことを、教えて下さい」
『本当のことを教えて下さい』と言いながらも、サラは心の中で叫んでいた。
お願いです、ステファン。
カメラマンの自殺とは何も関係ない、あれはただの自殺だと言ってください。お願いです……
ステファンは掴まれたサラの手をそっと撫で、優美に脚を組み替えた。
「私は、自殺に見せかけて殺すようにとは、ひとことも言っていませんよ。
『彼には、それなりの制裁が必要なようです』と、独り言を呟いたまでです」
自殺では、なかった……
ステファンの指示で動いた男たちによって、殺されたのですね。
サラは心臓を一突きされたかのように、ショックで全身の血の気が引いた。
「な、なぜ……どうして、ですか。どう、して……」
わなわなと震える手は次第に大きく痙攣し、唇まで震えて紫に変わっていた。
ステファンはサラの肩を抱き寄せ、震える躰を温めるように包み込んだ。
「サラ。まさか忘れてはいないでしょうね? あの男は、私たちを二度も絶望の淵へと突き落としたのですよ。
最初にあのスクープ記事が出た時に、雑誌社の専属カメラマンを外すという手緩てぬるい処置をした自分の甘さに嫌気がさします。
そして今度は私たちを盗撮し、関係を暴露することであの男は自分の恨みを晴らそうとしたのです。許せるはずなど、ないでしょう」
ステファンのライトグレーの瞳の奥底に殺意に満ちた鈍い光を見たサラは、失望のどん底へと叩き落とされた。顔面蒼白し、ショックを受けるサラに対し、ステファンは穏やかに言い聞かせた。
「貴女だって、私たちをこんな状況に陥れたあの男が憎いでしょう?
これは、カルマですよ」
ステファンは薄い笑みを浮かべた。
サラの全身から、力が抜けた。
そ、んな……確かに、あのカメラマンを恨む気持ちがなかったといえば嘘になりますが、死をもって制裁だなんて間違っています。
私は、ただ……ステファンとふたりだけの世界が欲しかっただけ、なのに。
どうして、こうなってしまったのでしょう。
サラはハラハラと流れ落ちる涙を拭うこともせず、力の抜けた躰をステファンに預けた。
桃源郷だと信じた世界が崩れていく。サラは、もうここが夢見た世界ではないことを知った。
「私と貴女の仲は、誰にも邪魔させません。
誰にも……私たちの世界には、入り込ませない」
ステファンが唇を寄せる。
ステファン。
これは、貴方が本当に望んでいた世界なのですか?
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わた、しは……私は……
ステファンに愛撫されながら、溢れる涙が止まらない。
ステファンの舌が、サラの涙を掬い取る。
「愛しい私のサラ。貴女は、誰にも渡しません。
永遠に、私だけのもの」
「ウッ……ッグ……ウゥッ……」
サラの脳裏に暗い思いが浮かび上がる。
狂気に染まった愛の行く末は……破滅への道しか残されていない。
それなら、いっそ……ふたりで死ねば、楽になるだろうか。
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