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26.救出

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 その時、扉の奥で怒声が響いた。

 な、なに!?

 サラだけでなく、ハリーも躰を強張らせた。

 扉が銃で撃ち抜かれる音がし、胸に『POLICE 』とある重装備の機動隊が入ってきた。

「動くな!」

 警察の声にハリーが飛び上がって両手を上げ、大人しく捕まった。サラは助け出され、機動隊員に付き添われて扉の外に出た。

 すると、そこにステファンが立っていた。

「ステファン!?」
「サラ。こちらへ……」

 機動隊員が、あっさりとステファンにサラを預けた。

 他の扉でも同じように機動隊員が突入し、次々にそこにいた者が捕らえられていた。現場が混乱する中、ステファンが素早くサラを連れ出す。

 ステファンは自分が羽織っていたコートをサラの頭から被せて抱き締めるようにして歩き、周りの目に触れないようにして裏口から出た。

 正面入口の方を覗いてみると、機動隊員が突入する前にクラブにいた人々は外に出されたらしく、大勢の人が何があったのかと中を覗き込むようにして騒いでいた。

 人気のない通りまで歩いていき、そこに停めてあったステファンの車にサラは乗せられた。

 助手席の扉を閉めた途端、サラはステファンの腕の中にいた。

「サラ……大丈夫でしたか?」
「は、い……」

 そう答えた途端、サラの瞳から涙が溢れ出す。躰が震えていた。

 もし、あの時……警察が来てくれなかったら、どうなっていたことでしょう。

 英国では、年々ドラッグが深刻な問題になっている。手軽に手に入れたドラッグによって強盗や傷害、殺人事件が多発しており、強姦もそのうちのひとつだった。

 クラブでのドラッグ売買も問題視され、多くのクラブで取り締まりが強化されるようになっていた。

 そういったニュースを聞いていながら、今までサラは遠い世界のように感じ、自分とは無縁だと思っていた。

「怖い思いをしましたね……」
「ッッ……ッグ……ッッ」

 ステファンに抱き締められ、サラは思い切り泣いた。

 気持ちが落ち着いてから、サラはステファンに尋ねた。

「どうして、あの場にステファンがいたのですか?」
「打ち合わせを終えてサラからのメッセージを読んで、嫌な予感がしたので、貴女のいる場所をGPSで追ったのですよ」
「え……」
「念の為に盗聴アプリも入れておいて正解でした。そこから、サラが危険に晒されていることが分かり、すぐにMPS(ロンドン警視庁)の知り合いに連絡して、クラブに突入する手配をしてもらったのですよ。間に合って、何よりです」

 ステファンはこともなげに話しているが、サラは今までGPSと盗聴アプリによって彼の監視下におかれていたことを知り、驚愕した。独占欲が強いことは、付き合っていくにつれて感じていたが、これほどまでとは思わなかった。

 だが、そんなステファンの行動に対して嫌悪感や恐怖を感じることはなかった。生まれた時から絶対的な信頼を寄せ、現在は恋人となったステファンがそれ程までにサラのことを愛し、心配するがゆえにそうしたのだと思うと幸せな気持ちにさえなった。

 それにしても、機動隊を動かせるほどの権力をもったMPSの知り合いがいるとは、ステファンはいったい何者なのだろうかと、サラは考えた。まだステファンには、サラが知らないことが沢山ありそうだ。

 ステファンが抱き締めていた腕を解いて、サラを正面から見つめた。

「本当はこのまま貴女を安全な場所までお連れして、安心できるまで抱き締めていてあげたいのですが、事情聴取がありますので、私と来てくださいますか」
「は、はい……分かりました」

 その後、サラは警視庁に赴き、薬物検査を受けてドラッグを使用していないことを証明してから、何があったのかを話した。その際、ステファンの知り合いが挨拶に来て、彼がMPSの警視総監であることを知り、更に驚愕することとなったのだった。

 新聞やニュースではロンドン市内のクラブに警察の捜査が入り、ドラッグ密売の関係者が捕まったことを伝えていたものの、婦女暴行に関しての報道はされず、サラの名前が紙面に載ることもなかった。

 これはサラの推測ではあるが、もしかしたらステファンがMPSの警視総監に頼んで裏から手を回したのかもしれない。
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