上 下
25 / 156

22.拘束と甘受

しおりを挟む
 皆、争うかのようにビールを開けていき、冷蔵庫いっぱいに入っていた瓶や缶がみるみるうちになくなっていく。ツリーの下に置かれたプレゼントを開けることになると、お互いが選んだプレゼントに歓喜したり、文句を言ったりしながら、更に盛り上がりは加速した。

 冷蔵庫のビールを全て飲み尽くすと、今度はテキーラの瓶をヘルベンが持ってきた。

「ショットしようぜ」
「で、その後はクラブね」

 お金のない大学生たちは、家や寮で思いっきり飲んでから、街に繰り出してクラブで遊ぶのが定番だ。

 ハリーがショットグラスを6つ用意し、そのうちの1つをサラに差し出した。

「はい、これはサラに」
「わ、私は……いいです」
「サラ、なに言ってんの、全員強制参加よ!」

 アイーシャがハリーからショットグラスを奪い、サラに渡す。

「クリスマスパーティーなんだから、いいこちゃん通さずに今日ぐらい付き合えよ、サラ」

 ヘルベンにも押され、サラは頷いた。

 せっかく誘って頂いてるのに、お断りするわけにはいきませんよね……

「5、4、3、2、1、0……Cheers!!」

 皆でカウントダウンして、一気にテキーラのショットを空ける。

 喉が熱く焼けつき、胃がカッカと燃えてくる。サラは強烈な刺激に、頭までフラフラした。そんな様子を見て、ハリーがサラの頬を撫でた。

「サラ、ほっぺまで真っ赤になってる。フフッ、可愛いなぁ」
「ちょ、ちょっと……ハリー、揶揄わないでくださいっ」

 サラは、ハリーの手を押し除けた。

「その反応まで可愛い」
「確かに、アイーシャとは大違いだな」

 ヘルベンの言葉を聞き、アイーシャが立ち上がった。

「ヘルベン、あんたがこれ以上減らず口叩けないようにしてやろうか?」
「うわっ、こわっっ!!」

 その時、サラのスマホに着信が入った。画面を確認すると、ステファンからだ。

「すみません、失礼します」

 騒がしいリビングルームを離れ、キッチンを通り過ぎて廊下に出て、電話をとる。

 それでも、まだ5人の声が煩すぎてステファンの声がまったく聞き取れなかった。

「少しお待ちいただけますか」

 サラは急いで自室へ向かうと、扉を閉めた。まだ皆の声が聞こえるが、先ほどよりは遠くなった。

「申し訳ありません」
『もう寝ているかと心配していましたが……随分と賑やかですね』
「えぇ……今、寮の友人とクリスマスパーティーをしているんです」
『そうですか。あまり飲みすぎないように気をつけて下さいね』

 とてもステファンには、ビールをたくさん飲んだ上にテキーラまでショットで飲んだとは言えなかった。

「は、はい……気をつけます。
 ステファンは、何をしていましたの?」
『私はリサイタルが終わってから、打ち合げを兼ねて休み明けのスケジュールについて打ち合わせをしていたところです。暫く、英国を離れることになりますからね。
 まだ話が終わりそうもないので、隙を見てサラに電話をしたのですよ』
「打ち合わせ中でしたのに、すみません……」

 多忙な中、ステファンに気を遣わせてしまったことに申し訳なさをサラは覚えた。

『多忙だからこそ……サラの声が聞けて嬉しいのですよ。これでまた、仕事に集中することが出来ます』

 ステファンの優しい声音が耳に響き、サラは幸せに胸が震えた。

「ステファン……」

 明後日にはステファンと旅行に行き、会えると分かっていても……ステファンの声を聞いていると、どうしようもなく会いたくなってしまいます。会いたくて、会いたくて、仕方ない……

『サラ……寂しい時は、寂しい、と言っていいのですよ?』
「ステファン……さみ、しい……会いたい、会いたい、です……今すぐ……会い、たいです……」
『ふふっ、よく出来ましたね。
 ところで、クリスマスパーティーは、何時までの予定ですか?』

 部屋の時計を見るともう既に11時近くだったが、あの盛り上がりからいって、すぐに終わりそうには思えなかった。それに、飲んでからはクラブに行こうと盛り上がっていたし、もしかしたら明け方までになるかもしれない。

 先ほどまでは、せっかくのクリスマスパーティーだから皆に付き合ってクラブも行こうかと考えていたサラだったが、もしそうすればステファンを心配させてしまうことを思い、考えを変えた。

「えっと……皆様はこの後、クラブに行くつもりみたいですが、私はそういう場所は行ったことがなくて恐いですし、部屋に戻ろうかと思っているんです」
『そうですか、では部屋に戻ったらWhatsappの方にメッセージを入れておいてください』
「はい」

 離れていてさえもステファンは、サラを甘い縄で拘束し、サラはそれを悦びとして甘受する。

『……サラ?』
「は、はいっ」

 私……何か、ステファンを怒らせてしまったのでしょうか……

 不安な気持ちでいると、ステファンの声が囁かれた。

『愛して、いますよ……』

 ステファンの甘く艶やかな声が、まるで耳元で本当に囁かれたかのように感じて、ゾクリとサラの背中が粟立ち、躰の中心が熱くなる。

「わ、私も……愛しています」
『では、また……』

 余韻を残すようにして、電話が切れた。

 ステファンの息がかかったかのように……まだ耳が、熱い。

 サラは火照りがおさまらないまま、皆のいるリビングルームへと戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

処理中です...