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113.レイチェルからの連絡
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ステファンを空港で見送った翌日、サラはアイザックとの婚約発表をした。
婚約者であるアイザックは、以前父がサラに勧めていたクリステンセン財閥本社の海外事業部統括部長を務め、数々の業績を上げている男だ。婚約後は副社長に昇格し、ジョージの後継者として着々と足固めをしている。
サラが大学卒業後、アイザックと挙式を挙げる予定になっている。
その上で、ステファンとの恋人関係を否定した。
ウィーンで撮られた2枚の写真は自分ではなく別の女性であり、それは一緒に旅行した両親も知っている。ふたりが行方不明になっていた2週間については、ステファンはタブロイド誌が出てからすぐに海外に渡っており、自分はマスコミから逃れる為にひとり別荘に籠っていたと説明した。
当然そんな子供騙しの説明を、マスコミや世間が信じるはずない。マスコミは必死にステファンの行方を追ったが、一向に掴むことが出来ずにいた。その皺寄せが一気にサラに集まり、連日のようにパパラッチに執拗に追い回され、質問攻めにあった。
それに加え、熱狂的なステファンのファンからの悪戯や脅し。手紙や自宅への電話だけでなく、直接家の前に来て抗議する者までいた。
救いは父が退院し、仕事に復帰したことだった。まだ財閥は危機を脱していないが、必死に信頼を取り戻そうと働きかけている。
サラは財閥に自分も貢献したいという思いから経済学部のある他大学へと編入し、会社経営について一から学ぶことにした。一方、学業の傍らナタリーの下につき、秘書としての仕事も学んでいる。今ではドイツ語も日常会話程度には話せるようになり、海外出張に同行し、ナタリーの助けを借りながらも通訳としての役目を果たすまでになっていた。
そんな中、ザルツブルク音楽祭のプログラムが発表され、騒然となった。ステファンがザルツブルク音楽祭の出演者として名前を連ねていたからだ。
サラは、レイチェルにステファン への手紙を託していた。そこには、『必ずザルツブルク音楽祭に参加し、世界に誇るピアニストとしてステファンの魅力を伝えてほしい』と書いていた。
ザルツブルク音楽祭が近づくにつれ、サラはそわそわと落ち着かない気持ちになっていた。
ステファンは、本当にザルツブルク音楽祭に出てくれるのでしょうか……
サラは、気が気でないにも関わらず、ステファンがいつ演奏するのかについては恐くて調べられずにいた。マネージャーであるレイチェルからは、オーストリアに発って以来なんの音沙汰もない。
ステファンのこと、聞きたい。
でも……
サラは、彼女に連絡しようとしては止めることを、繰り返していた。
そんな中、ついにザルツブルク音楽祭が始まった。サラの心は大きく波立っていた。それと同様に、両親も同じく動揺しているのが見て取れた。
お父様やお母様を心配させないためにも、もうステファンのことを考えないようにしなくては。
そう思い、家族や友人の前でいつも通りに振る舞うものの、ひとりになるとどうしてもステファンのことが気になってしまう。
このままでは、何も手につきません。やっぱり、レイチェルに連絡しましょう。
そう考えていた時を同じくして、レイチェルからメールが届いた。
『これが世界に誇るピアニスト、ステファン・クリステンセンです』
たった一言だけ書かれた言葉に、ビデオの画像が添付してあった。それが、文そのものの意味であることを願いつつ、もしかしたら嫌味として書いているのかもしれないという不安も過る。
ステファン……ザルツブルク音楽祭に出たのですよね?
世界に誇るピアニストと言われるくらい、素晴らしい演奏を披露したのですよね……
サラは、添付されている画像ファイルを見つめた。サラの中で、見たい気持ちと見たくない気持ちが胸の中に渦巻く。
恐い……ですが、私にはこれを見届ける義務があるのです。
世界に誇るピアニストとしてザルツブルク音楽祭に出て欲しいと願って、ステファンを送り出したのは私なのですから。
婚約者であるアイザックは、以前父がサラに勧めていたクリステンセン財閥本社の海外事業部統括部長を務め、数々の業績を上げている男だ。婚約後は副社長に昇格し、ジョージの後継者として着々と足固めをしている。
サラが大学卒業後、アイザックと挙式を挙げる予定になっている。
その上で、ステファンとの恋人関係を否定した。
ウィーンで撮られた2枚の写真は自分ではなく別の女性であり、それは一緒に旅行した両親も知っている。ふたりが行方不明になっていた2週間については、ステファンはタブロイド誌が出てからすぐに海外に渡っており、自分はマスコミから逃れる為にひとり別荘に籠っていたと説明した。
当然そんな子供騙しの説明を、マスコミや世間が信じるはずない。マスコミは必死にステファンの行方を追ったが、一向に掴むことが出来ずにいた。その皺寄せが一気にサラに集まり、連日のようにパパラッチに執拗に追い回され、質問攻めにあった。
それに加え、熱狂的なステファンのファンからの悪戯や脅し。手紙や自宅への電話だけでなく、直接家の前に来て抗議する者までいた。
救いは父が退院し、仕事に復帰したことだった。まだ財閥は危機を脱していないが、必死に信頼を取り戻そうと働きかけている。
サラは財閥に自分も貢献したいという思いから経済学部のある他大学へと編入し、会社経営について一から学ぶことにした。一方、学業の傍らナタリーの下につき、秘書としての仕事も学んでいる。今ではドイツ語も日常会話程度には話せるようになり、海外出張に同行し、ナタリーの助けを借りながらも通訳としての役目を果たすまでになっていた。
そんな中、ザルツブルク音楽祭のプログラムが発表され、騒然となった。ステファンがザルツブルク音楽祭の出演者として名前を連ねていたからだ。
サラは、レイチェルにステファン への手紙を託していた。そこには、『必ずザルツブルク音楽祭に参加し、世界に誇るピアニストとしてステファンの魅力を伝えてほしい』と書いていた。
ザルツブルク音楽祭が近づくにつれ、サラはそわそわと落ち着かない気持ちになっていた。
ステファンは、本当にザルツブルク音楽祭に出てくれるのでしょうか……
サラは、気が気でないにも関わらず、ステファンがいつ演奏するのかについては恐くて調べられずにいた。マネージャーであるレイチェルからは、オーストリアに発って以来なんの音沙汰もない。
ステファンのこと、聞きたい。
でも……
サラは、彼女に連絡しようとしては止めることを、繰り返していた。
そんな中、ついにザルツブルク音楽祭が始まった。サラの心は大きく波立っていた。それと同様に、両親も同じく動揺しているのが見て取れた。
お父様やお母様を心配させないためにも、もうステファンのことを考えないようにしなくては。
そう思い、家族や友人の前でいつも通りに振る舞うものの、ひとりになるとどうしてもステファンのことが気になってしまう。
このままでは、何も手につきません。やっぱり、レイチェルに連絡しましょう。
そう考えていた時を同じくして、レイチェルからメールが届いた。
『これが世界に誇るピアニスト、ステファン・クリステンセンです』
たった一言だけ書かれた言葉に、ビデオの画像が添付してあった。それが、文そのものの意味であることを願いつつ、もしかしたら嫌味として書いているのかもしれないという不安も過る。
ステファン……ザルツブルク音楽祭に出たのですよね?
世界に誇るピアニストと言われるくらい、素晴らしい演奏を披露したのですよね……
サラは、添付されている画像ファイルを見つめた。サラの中で、見たい気持ちと見たくない気持ちが胸の中に渦巻く。
恐い……ですが、私にはこれを見届ける義務があるのです。
世界に誇るピアニストとしてザルツブルク音楽祭に出て欲しいと願って、ステファンを送り出したのは私なのですから。
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