上 下
40 / 156

35.初対面

しおりを挟む
 翌日。ホテルにベンジャミンが迎えに来てくれ、ラインハルトの家まで運転してくれることとなった。

 今日はクリスマスパーティーということで、サラは深みのあるワインレッドの少し胸元の開いたカクテルドレスにパールのネックレスを合わせていた。

 ステファンは細身の黒ストライプスーツにベストを合わせ、深いワインレッドに細かい水玉模様の入ったネクタイを締め、後ろにひとつに髪を結い、ウェリントン型のサングラスをかけている。いつもは無地のスーツを着ることの多いステファンだが、遠目には無地のように見えるその柄は彼のエレガントさとシャープさを引き立てていて、よく似合っていた。さり気なくサラのドレスとネクタイの色が同じであることに気がつき、サラはドキドキした。

 シェーンブルン宮殿からそう遠く離れていない路上にて、ベンジャミンの車が停車した。

「はい、着いたよぉ」

 ステファンのエスコートで、サラは車から降りた。

「あの薄いピンクの建物の左隣がラインハルトの自宅になります」

 広大な土地にポツンと佇む門から遠く離れた所に建っているお屋敷を想像していたサラは、それを見て少し驚いた。

 門も無ければ庭もなく、また隣同士の家の隙間もない。ただ、建物は大きく、3階建てで広さもかなりありそうだった。塗装された壁はシェーンブルン宮殿で見たテレジアンイエローを思わせるような濃く気品のある黄色だった。扉は薄いクリームイエローで、扉の幅と同じくらいのクリスマスリースが掛けられている。

 ここが、ステファンが3年間住んでいたラインハルトの自宅、なのですね……

 そう思うと緊張して、サラはゴクリと喉を鳴らした。

 ベンジャミンが鍵穴に挿すより早く、クリスマスリースに飾られた鐘の音と共に内側から扉が開いた。

「ステファン!」

 そう言って、ステファンの胸に飛び込んだ少年。

 プラチナブロンドのサラサラな髪の毛、横顔から覗く血管さえ見えそうな透き通るような白い肌に、ほんのり紅く染まった頬と柔らかく口角の上がった艶やかな唇。
 そして、何より印象的なのは……

 吸い込まれてしまいそう……

 クリスタルブルーのような透明感を持ったアクアマリンの瞳。プラチナブロンドの美しい髪を更に際立たせる胸元までしっかりボタンの留められた黒シャツに同色のベスト、極めて白に近いシャイニーライトグレーの長めのネクタイを締めた彼は、美しい人形が何かの仕掛けで動いているのでは……という気持ちにさえもさせられてしまうぐらい人間離れした顔立ちだった。

『ノア、お久しぶりです』

 ステファンがドイツ語で答えた。

 すると、今度は廊下の奥からドイツ語で何か呼び掛けるような声がしたかと思うと、誰かがこちらに向かって駆けてくる足音が近づいてきた。

「ステファァァァン♪」

 ノアがハグしているのも気にせず、ステファンに上から覆い被さるようにハグをし、チュッ、チュッというリップ音をたてながら両頬を合わせた。

 纏わりつくような強烈な香水の匂いが彼が近付いただけで放たれて、サラは鼻孔をつかれて噎せ返りそうだった。

 ステファンよりも背の高いその男は、肩まであるブルネットのウェーブがかった髪を揺らめかせていた。下がり気味の眉と目尻が、鷲鼻の冷たい印象を抑え、優しさを感じさせる。尖った顎にはオシャレに整えられた顎鬚が生えており、柔らかなオーラを纏っていた。

 深緑に赤やピンクの薔薇が描かれた芸術的な柄のスーツを身に纏い、ボタンは留めらておらず、中の白をベースにしたスーツと同じ薔薇柄のサテンシャツが覗いて見えた。これ程個性的な服装であるにも関わらず、彼の顔立ちと体格にしっくりとはまっていた。

 目の前で交わされる強烈な歓迎の挨拶に、サラの鼓動がバクバクと速まる。

『ラファエル、何してんの!? 僕のステファンに勝手に触れないでよね!』
『いやーん、ノアったら、何怒ってんのよぉ。ただの挨拶でしょぉ? フランスでは、これが普通なのっ。
 まぁ、ステファンには特別な感情が入ってなくもないけど、ね……ウフッ』

 少し籠もった鼻にかかるような、色気を纏った調子でラファエルが微笑んだ。

 ドイツ語なので、何を話しているかは分からないが、ステファンを巡って言い争っていることはサラにも伝わってきた。

 そこへ、ベンジャミンが割り込んだ。

『もう、久しぶりの再会なんだから仲良くしようよ。今日はステファンの姪っ子ちゃんのサラも来てくれてるんだしさ、ねっ』

 途端に、ふたりの視線がサラに集中した。ステファンがノアとラファエルを引き剥がし、英語でサラを紹介する。

「私の姪のサラです。彼女はドイツ語が喋れませんので、英語でお願いします」

 ノアは何も言わず、サラを睨み付けている。

 ラファエルは艶やかな笑みを浮かべた。ステファンは滲み出るような色気だが、ラファエルは躰全体から放たれる強い色気を持っていた。浴びるように纏った香水が更にその効果を高めている。

「初めましてぇ、ラフィーって呼んでね? ステファンの姪っ子ちゃんが、こんなに美しいマドモアゼルだったなんて、知らなかったわ……あたし、綺麗な娘も大好きなのぉ。ふふっ……どうぞよろしく、ね?」
「よ、よろしくお願いします」

 個性的な面々を前に戸惑うサラに、ベンジャミンが極上の笑顔を向けた。

「さぁ、入って!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

Catch hold of your Love

天野斜己
恋愛
入社してからずっと片思いしていた男性(ひと)には、彼にお似合いの婚約者がいらっしゃる。あたしもそろそろ不毛な片思いから卒業して、親戚のオバサマの勧めるお見合いなんぞしてみようかな、うん、そうしよう。 決心して、お見合いに臨もうとしていた矢先。 当の上司から、よりにもよって職場で押し倒された。 なぜだ!? あの美しいオジョーサマは、どーするの!? ※2016年01月08日 完結済。

身分差婚~あなたの妻になれないはずだった~

椿蛍
恋愛
「息子と別れていただけないかしら?」 私を脅して、別れを決断させた彼の両親。 彼は高級住宅地『都久山』で王子様と呼ばれる存在。 私とは住む世界が違った…… 別れを命じられ、私の恋が終わった。 叶わない身分差の恋だったはずが―― ※R-15くらいなので※マークはありません。 ※視点切り替えあり。 ※2日間は1日3回更新、3日目から1日2回更新となります。

処理中です...