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45.出迎え
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サラとステファンは、サラの両親を出迎えるため、再び空港の到着ゲートに立っていた。
家族でクリスマスホリデーを過ごすという目的を隠蓑として、サラとステファンは商用でドイツにいる両親より一足先にウィーンでふたりきりの時間を過ごしていたのだった。
両親が滞在していたドイツの商業都市であるデュッセルドルフを8時50分に発ったルフトハンザの飛行機は、ウィーンに10時10分到着予定となっていた。腕時計を見ると、10時40分を指している。
そろそろ両親がゲートに現れる頃だ。
飛行機の到着時刻を過ぎると、ふたりは自然にスペースを空けて立っていた。それは、『恋人』から『叔父と姪』への関係への切り替えであった。
到着ゲートの自動扉が開く。
ジョージとナタリーが小さめのスーツケースを引いて歩いてくるのが見えた。デュッセルドルフには2週間滞在していたとのことだったが、それにしては荷物が少ないのは、旅慣れている証拠なのだろう。
キョロキョロと落ち着きなく視線を彷徨わせるジョージに、扉を出てすぐにサラとステファンを認めたナタリーが呼び掛ける。その途端、ジョージは満面の笑みを浮かべてこちらに手を振った。
「お父様、お母様、ウィーンへようこそ」
サラは、花が咲いたような笑みを両親に向けた。ふたりは顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。サラにウィーンで会えるなんて、本当に嬉しいわ。
ステファン、お忙しいのにわざわざ迎えに来て下さってありがとうございます」
「いえ、オーストリアの地理に詳しくないサラをひとりで行かせるわけにはいきませんから。この後、私は仕事が入っていますので、ホテルまでお送りすることぐらいしかできませんが」
「いやいや十分だよ。すまんな、ステファン。
サラをここまで連れてきてくれてありがとう」
ジョージもナタリー同様に申し訳なさそうにした後、久々に会う愛娘を慈しむように見つめた。
サラの胸が、針で刺されたようにチクンと痛んだ。
タクシーの車内では、ジョージとナタリーは初めて見るウィーンの景色を見ながらお互いに感想を述べ合ったり、ガイドブックを覗き込んだりしていた。仲の良いふたりを見ていると、サラは幸せな気持ちとともに嫉妬のような気持ちも湧き上がってくる。
夫婦であり、仕事上でもパートナーであるジョージとナタリーはどこへ行くにもいつも一緒だ。幼い頃はそんなふたりが羨ましくもあり、寂しくもあった。
自分はいつも置いてきぼりで、家でふたりの帰りを待つ身。
自分もいつか愛する人と結ばれたら、両親のように公私ともに支え合う夫婦になり、寂しさなど感じることのないようになりたい……そう、願っていた。
そしてその相手は、ステファンであればいい、とも……
だが、叔父であるステファンとは結婚出来ないことを知り、その夢は砕け散った。恋仲になれた今ですら、夫婦どころか恋人であることも打ち明けることが出来ない。
愛するステファンと一緒にいられるなら、結婚なんて出来なくても、子供が出来なくても幸せ。
これで、いいのですわ……
そう思おうとしても、憧れだった結婚への夢、子供を持つことへの憧れを、どこかで捨てきれない自分もいる。
ーーそうして、サラは終わりのない螺旋階段にまた嵌っていくのだった。
どうして、私たちは叔父と姪なの……
どうして結婚してはいけないの? 子供を産んではいけないの?
世間でいう幸せには、なれないんですの……
ジョージとナタリーは同じホテルに滞在する。もちろんふたりにはサラとステファンが別の部屋に滞在していることにし、実際に両親が滞在している間はサラは別に部屋をとってもらっており、荷物もそこに置かれていた。
今日からは、ステファンと別の部屋なのですね……
この3日間朝から晩まで離れずに過ごしていたサラは、寂しさで胸が引き裂かれる思いだった。
チェックインを済ませたステファンがジョージに鍵を渡した。
「ポーターが荷物を部屋に持って行きますが、どうしますか。私はこの後、失礼しますが……」
「宿泊するのがどんな部屋か見てから、すぐに下りて観光しよう。サラも一緒に来るか?」
ジョージに聞かれ、サラは首を振った。
「いえ……私は、ここで待っています」
両親の宿泊する部屋がどんな雰囲気なのか興味はあったが、たとえ僅かでもステファンとふたりきりの時間が欲しかった。
サラは、寄り添って歩くふたりを見送った。
両親が去った後、ステファンは『恋人』のパーソナルスペースへと侵入し、サラの耳元で優しく囁いた。
「今夜……帰って来たら、私の元へ戻って来て下さいね」
「え……」
サラはステファンを見上げた。フレームの奥の瞳は優艶な輝きを放っていた。
「昼間貴女に会えない寂しさを、夜の貴女を独占することで癒して下さいませんか」
その言葉に、サラはカーッと顔を真っ赤に染めた。
「わ、たしも……夜のステファンを……独占、したいです」
緊張して詰まりそうになる言葉を、必死に紡いでステファンに伝える。
「では、その時を楽しみに……行ってきますね」
ステファンはサラの華奢な手を取ると、手の甲に口づけを落とし、さっと身を翻して去って行った。サラの鼓動は、ステファンがエントランスを抜けて視界から消えてもまだ、落ち着くことはなかった。
家族でクリスマスホリデーを過ごすという目的を隠蓑として、サラとステファンは商用でドイツにいる両親より一足先にウィーンでふたりきりの時間を過ごしていたのだった。
両親が滞在していたドイツの商業都市であるデュッセルドルフを8時50分に発ったルフトハンザの飛行機は、ウィーンに10時10分到着予定となっていた。腕時計を見ると、10時40分を指している。
そろそろ両親がゲートに現れる頃だ。
飛行機の到着時刻を過ぎると、ふたりは自然にスペースを空けて立っていた。それは、『恋人』から『叔父と姪』への関係への切り替えであった。
到着ゲートの自動扉が開く。
ジョージとナタリーが小さめのスーツケースを引いて歩いてくるのが見えた。デュッセルドルフには2週間滞在していたとのことだったが、それにしては荷物が少ないのは、旅慣れている証拠なのだろう。
キョロキョロと落ち着きなく視線を彷徨わせるジョージに、扉を出てすぐにサラとステファンを認めたナタリーが呼び掛ける。その途端、ジョージは満面の笑みを浮かべてこちらに手を振った。
「お父様、お母様、ウィーンへようこそ」
サラは、花が咲いたような笑みを両親に向けた。ふたりは顔を見合わせ、嬉しそうに微笑んだ。
「ふふっ。サラにウィーンで会えるなんて、本当に嬉しいわ。
ステファン、お忙しいのにわざわざ迎えに来て下さってありがとうございます」
「いえ、オーストリアの地理に詳しくないサラをひとりで行かせるわけにはいきませんから。この後、私は仕事が入っていますので、ホテルまでお送りすることぐらいしかできませんが」
「いやいや十分だよ。すまんな、ステファン。
サラをここまで連れてきてくれてありがとう」
ジョージもナタリー同様に申し訳なさそうにした後、久々に会う愛娘を慈しむように見つめた。
サラの胸が、針で刺されたようにチクンと痛んだ。
タクシーの車内では、ジョージとナタリーは初めて見るウィーンの景色を見ながらお互いに感想を述べ合ったり、ガイドブックを覗き込んだりしていた。仲の良いふたりを見ていると、サラは幸せな気持ちとともに嫉妬のような気持ちも湧き上がってくる。
夫婦であり、仕事上でもパートナーであるジョージとナタリーはどこへ行くにもいつも一緒だ。幼い頃はそんなふたりが羨ましくもあり、寂しくもあった。
自分はいつも置いてきぼりで、家でふたりの帰りを待つ身。
自分もいつか愛する人と結ばれたら、両親のように公私ともに支え合う夫婦になり、寂しさなど感じることのないようになりたい……そう、願っていた。
そしてその相手は、ステファンであればいい、とも……
だが、叔父であるステファンとは結婚出来ないことを知り、その夢は砕け散った。恋仲になれた今ですら、夫婦どころか恋人であることも打ち明けることが出来ない。
愛するステファンと一緒にいられるなら、結婚なんて出来なくても、子供が出来なくても幸せ。
これで、いいのですわ……
そう思おうとしても、憧れだった結婚への夢、子供を持つことへの憧れを、どこかで捨てきれない自分もいる。
ーーそうして、サラは終わりのない螺旋階段にまた嵌っていくのだった。
どうして、私たちは叔父と姪なの……
どうして結婚してはいけないの? 子供を産んではいけないの?
世間でいう幸せには、なれないんですの……
ジョージとナタリーは同じホテルに滞在する。もちろんふたりにはサラとステファンが別の部屋に滞在していることにし、実際に両親が滞在している間はサラは別に部屋をとってもらっており、荷物もそこに置かれていた。
今日からは、ステファンと別の部屋なのですね……
この3日間朝から晩まで離れずに過ごしていたサラは、寂しさで胸が引き裂かれる思いだった。
チェックインを済ませたステファンがジョージに鍵を渡した。
「ポーターが荷物を部屋に持って行きますが、どうしますか。私はこの後、失礼しますが……」
「宿泊するのがどんな部屋か見てから、すぐに下りて観光しよう。サラも一緒に来るか?」
ジョージに聞かれ、サラは首を振った。
「いえ……私は、ここで待っています」
両親の宿泊する部屋がどんな雰囲気なのか興味はあったが、たとえ僅かでもステファンとふたりきりの時間が欲しかった。
サラは、寄り添って歩くふたりを見送った。
両親が去った後、ステファンは『恋人』のパーソナルスペースへと侵入し、サラの耳元で優しく囁いた。
「今夜……帰って来たら、私の元へ戻って来て下さいね」
「え……」
サラはステファンを見上げた。フレームの奥の瞳は優艶な輝きを放っていた。
「昼間貴女に会えない寂しさを、夜の貴女を独占することで癒して下さいませんか」
その言葉に、サラはカーッと顔を真っ赤に染めた。
「わ、たしも……夜のステファンを……独占、したいです」
緊張して詰まりそうになる言葉を、必死に紡いでステファンに伝える。
「では、その時を楽しみに……行ってきますね」
ステファンはサラの華奢な手を取ると、手の甲に口づけを落とし、さっと身を翻して去って行った。サラの鼓動は、ステファンがエントランスを抜けて視界から消えてもまだ、落ち着くことはなかった。
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