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小作民の娘である私がジェントリの妻になんてなれるわけないと笑われました
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もうこんな貧乏生活、たくさん!
私が小作民の娘だなんて、間違ってるわっっ。
そう憤慨しているのは、10歳の少女、マリエンヌだった。
両親は共にこの村の小作民の子供として生まれて結婚し、自分たちもまた小作民として働いている。このままいけば、マリエンヌも同じ村、あるいは近隣の村の小作民と結婚し、一生うだつのあがらない人生を送ることになるだろう。
私は絶対にそんな人生は嫌!!
この美しい顔を生かして、のしあがってやるんだから。
マリエンヌは生まれた時から整った顔をしており、誰が見ても「こら、別嬪になるぞ」と言われて育った。そんなことから自分が美人であるという自覚があり、幼い頃からそれを生かしてきた。
父に刈り取った麦を運ぶのを手伝わされた時には、わざと大変そうなフリをして大人たちに運んでもらったり、美味しそうなりんごを運んでいる村人に笑顔で声をかけ、りんごを大量にせしめたり……上手に生きぬく糧を学んできた。
「私は、いつか……ジェントリと結婚して、玉の輿にのってみせるわ!!」
力強く拳を突き上げ、マリエンヌは誓った。
そんな娘を見て、両親が笑う。
「おんめぇ、なぁに言ってるだ。そーんな夢みたいなこと言う暇があったら、麦の刈り取りでも手伝ってけろ」
「んだ、んだー」
そこへ怒声と泣き声が響き、会話が中断される。母がハァと疲れたような声をあげた。
「あー、まぁたトムとヤッケが喧嘩しとるで、ベリーが泣き出した。マリエンヌ、見に行っとくれ」
マリエンヌにはふたりの弟である8歳のトムと7歳のヤッケ、3歳の妹のベリーがいる。ちなみに母は5人目を妊娠中だ。
貧乏の子沢山って、まさにうちのことだわ。なんで貧乏のくせして、何も考えずにポンポン子供を産むのよ!
しかもその面倒を上の子供が見るのが当然と思ってるだなんて……いい加減にしてほしいわ。
あーあ、メイドがなんでもやってくれる上流階級の暮らしが羨ましい。
マリエンヌはトムとヤッケを引き剥がし、ベリーを抱き上げてあやしながら、深い溜息をついた。
村には子供が溢れている。小作民たちは働き手が必要なので、たくさん子供を産むことでなんとか自分たちの生活を楽にしようとするのだ。けれど、その分、着るものや食べるものも用意しなければならないので、当然貧乏なままだった。
村人は生活することだけに必死だし、貴重な働き手であるため、子供を学校になど行かせるはずがない。学校はすべて有償のため、教育が受けられるのは上流貴族の人間だけだった。
息子であればパブリックスクールに通わせて立派な騎士や英国貴族となれるような教育を受けさせ、娘であれば屋敷に専門の家庭教師をそれぞれ呼び、レディーとしての教養やマナー、針仕事や刺繍、ピアノ、ダンスといった花嫁修行をさせ、上流貴族の妻や母となるべく教育を受けさせる。
針仕事ならなんとかできるけど、刺繍なんてやったことないわ。市場で見たことあるけど、綺麗だったなぁ……あの糸だけでも、高くてうちには買えないんだろうなぁ。
そんなある日、マリエンヌは育てた農作物を市場に売りに行くようにと、父に言われた。父は1日中畑の世話で忙しく、出産間近な母は身重で市場に行けないため、マリエンヌが行かされることになったのだった。
なんで私がこんな重い荷車を引いて、市場に行かないといけないのよ!
ぶつくさ文句を言ってみても、これを売りにいかなければ明日のパンさえも買えない貧困状態なのだ。マリエンヌに選択肢はなかった。
「あぁ、それからトムとヤッケも連れてってけろ。あいつらがおると、家ん中が荒らされるで」
「えぇっ!!」
トムとヤッケは年が近いせいか、いつも喧嘩をしているため、連れていくとトラブルになることは間違いなかった。
そこで、マリエンヌはそれを逆に利用することにした。
「市場に着くまでに荷車をたくさん押せた方に、きゅうりを1本あげるわ」
もちろんそれは売り物だが、荷車で運ぶ途中で知らない間に落ちたとでも言えばいい。その前に、両親はろくにお金の計算もしないから、気づかないはずだ。
「ぜってぇおらが、きゅうりをもらうだ!」
「おらの方が、力がつぇぇ!!」
争って荷車を引くふたりを見て満足しながら、マリエンヌはその横を歩いた。
きゅうりは2本必要なようね。
そう考えていると、道の向こうから立派な馬車が小さく見えた。こんなところを走る馬車と言えば、1台しかない。この領地一帯を収めているジェントリである、トンプソン家の馬車だ。
4頭立ての馬車が近づき、狭い道を我がもの顔ですれすれに通りすぎる。荷車がバランスを崩して倒れそうになり、マリエンヌは慌てて荷車を支えた。荷車から玉ねぎがコロコロと転がっていき、トムとヤッケが争うように取りに行った。
馬でもあれば、荷車引くのに楽だろうな。
そう考えた後に、更に考える。
荷車なんて引く心配なく、優雅に景色を眺めながら馬車に乗れたら……楽しいだろうな。
「姉ちゃん、玉ねぎとった!」
「俺なんて、5個もとったぞ!」
「あっ、その玉ねぎ、さっき俺がとったやつだ!!」
玉ねぎの取り合いになっている弟たちを無視し、マリエンヌはいつまでも馬車を見送った。
私が小作民の娘だなんて、間違ってるわっっ。
そう憤慨しているのは、10歳の少女、マリエンヌだった。
両親は共にこの村の小作民の子供として生まれて結婚し、自分たちもまた小作民として働いている。このままいけば、マリエンヌも同じ村、あるいは近隣の村の小作民と結婚し、一生うだつのあがらない人生を送ることになるだろう。
私は絶対にそんな人生は嫌!!
この美しい顔を生かして、のしあがってやるんだから。
マリエンヌは生まれた時から整った顔をしており、誰が見ても「こら、別嬪になるぞ」と言われて育った。そんなことから自分が美人であるという自覚があり、幼い頃からそれを生かしてきた。
父に刈り取った麦を運ぶのを手伝わされた時には、わざと大変そうなフリをして大人たちに運んでもらったり、美味しそうなりんごを運んでいる村人に笑顔で声をかけ、りんごを大量にせしめたり……上手に生きぬく糧を学んできた。
「私は、いつか……ジェントリと結婚して、玉の輿にのってみせるわ!!」
力強く拳を突き上げ、マリエンヌは誓った。
そんな娘を見て、両親が笑う。
「おんめぇ、なぁに言ってるだ。そーんな夢みたいなこと言う暇があったら、麦の刈り取りでも手伝ってけろ」
「んだ、んだー」
そこへ怒声と泣き声が響き、会話が中断される。母がハァと疲れたような声をあげた。
「あー、まぁたトムとヤッケが喧嘩しとるで、ベリーが泣き出した。マリエンヌ、見に行っとくれ」
マリエンヌにはふたりの弟である8歳のトムと7歳のヤッケ、3歳の妹のベリーがいる。ちなみに母は5人目を妊娠中だ。
貧乏の子沢山って、まさにうちのことだわ。なんで貧乏のくせして、何も考えずにポンポン子供を産むのよ!
しかもその面倒を上の子供が見るのが当然と思ってるだなんて……いい加減にしてほしいわ。
あーあ、メイドがなんでもやってくれる上流階級の暮らしが羨ましい。
マリエンヌはトムとヤッケを引き剥がし、ベリーを抱き上げてあやしながら、深い溜息をついた。
村には子供が溢れている。小作民たちは働き手が必要なので、たくさん子供を産むことでなんとか自分たちの生活を楽にしようとするのだ。けれど、その分、着るものや食べるものも用意しなければならないので、当然貧乏なままだった。
村人は生活することだけに必死だし、貴重な働き手であるため、子供を学校になど行かせるはずがない。学校はすべて有償のため、教育が受けられるのは上流貴族の人間だけだった。
息子であればパブリックスクールに通わせて立派な騎士や英国貴族となれるような教育を受けさせ、娘であれば屋敷に専門の家庭教師をそれぞれ呼び、レディーとしての教養やマナー、針仕事や刺繍、ピアノ、ダンスといった花嫁修行をさせ、上流貴族の妻や母となるべく教育を受けさせる。
針仕事ならなんとかできるけど、刺繍なんてやったことないわ。市場で見たことあるけど、綺麗だったなぁ……あの糸だけでも、高くてうちには買えないんだろうなぁ。
そんなある日、マリエンヌは育てた農作物を市場に売りに行くようにと、父に言われた。父は1日中畑の世話で忙しく、出産間近な母は身重で市場に行けないため、マリエンヌが行かされることになったのだった。
なんで私がこんな重い荷車を引いて、市場に行かないといけないのよ!
ぶつくさ文句を言ってみても、これを売りにいかなければ明日のパンさえも買えない貧困状態なのだ。マリエンヌに選択肢はなかった。
「あぁ、それからトムとヤッケも連れてってけろ。あいつらがおると、家ん中が荒らされるで」
「えぇっ!!」
トムとヤッケは年が近いせいか、いつも喧嘩をしているため、連れていくとトラブルになることは間違いなかった。
そこで、マリエンヌはそれを逆に利用することにした。
「市場に着くまでに荷車をたくさん押せた方に、きゅうりを1本あげるわ」
もちろんそれは売り物だが、荷車で運ぶ途中で知らない間に落ちたとでも言えばいい。その前に、両親はろくにお金の計算もしないから、気づかないはずだ。
「ぜってぇおらが、きゅうりをもらうだ!」
「おらの方が、力がつぇぇ!!」
争って荷車を引くふたりを見て満足しながら、マリエンヌはその横を歩いた。
きゅうりは2本必要なようね。
そう考えていると、道の向こうから立派な馬車が小さく見えた。こんなところを走る馬車と言えば、1台しかない。この領地一帯を収めているジェントリである、トンプソン家の馬車だ。
4頭立ての馬車が近づき、狭い道を我がもの顔ですれすれに通りすぎる。荷車がバランスを崩して倒れそうになり、マリエンヌは慌てて荷車を支えた。荷車から玉ねぎがコロコロと転がっていき、トムとヤッケが争うように取りに行った。
馬でもあれば、荷車引くのに楽だろうな。
そう考えた後に、更に考える。
荷車なんて引く心配なく、優雅に景色を眺めながら馬車に乗れたら……楽しいだろうな。
「姉ちゃん、玉ねぎとった!」
「俺なんて、5個もとったぞ!」
「あっ、その玉ねぎ、さっき俺がとったやつだ!!」
玉ねぎの取り合いになっている弟たちを無視し、マリエンヌはいつまでも馬車を見送った。
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