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482.誘い
しおりを挟むアイス、ビューティー……
容姿端麗な華やかな取り巻きたちに囲まれた中心にいるその人は、何も興味を示さない、何も心を映さないような冷たい瞳を宿していた。
あの瞳で見つめられたらと思うと、義昭の胸がゾクゾクと震えた。
「綺麗な、女の人だな……」
見惚れながら義昭が呟くと、智之がプッと吹いた。
「女だと思うよな、あれだけ綺麗なの、女でもいねぇもん。あいつ、男だよ。ルイっていうんだ」
「ルイ……」
男、なのか。
確かに、髪の長い男性がいると義昭だって知っている。けれど、見たこともないほど艶のある濡羽色の髪を腰まで伸ばし、華奢な躰のライン、小さな顔、透き通るほどに白く、陶器のように滑らかそうな肌、瞬きの度に音がしそうなほど濃く長い睫毛、くっきりと線の入った零れそうな大きな猫目の瞳、濡れたようなぷっくりとした赤い唇は、どう見ても女性としか思えなかった。
この世に、こんな美しい人が存在するのか……
義昭が初めて現実の人間に心動かされた瞬間だった。
今までどんなに美人だと、可愛いと言われているアイドルや女優にも、イケメン、逞しいと言われている男性歌手や俳優にもこんな気持ちを抱いたことはない。
僕みたいな底辺な人間が触れられるようなレベルの人じゃない。せめて……遠くからでも、彼を眺めていたい。
それから、義昭は日本人交流会に積極的に参加することになった。
義昭の留学期間は33日間。交流会は最初の歓迎会以降は週に1回で既に終わり、後は短期留学生のための打ち上げパーテイーを残すのみとなっていた。
これで、ルイを見られる機会はもうないのか……
義昭は、日本に帰国すればもう類を拝める機会はないと思い、類を見かけるたびに遠くからこっそり撮影していた。帰国したらその写真を眺め、彼との僅かな思い出に耽溺するつもりだった。
だが、今日はそんな類を遠くから眺め、写真を撮ることも出来ない。
寂しく思いながらひとり、義昭はジュースを飲んでいた。いつもからんでくる智之はレンタカーを借りてアメリカ横断旅行の真っ最中なのでいない。
智之は旅行が主な目的なのではと思うほど、しょっちゅう南米やカリブ等を旅行して回っていた。この短期留学が初めての海外というだけでなく、初めての旅行になる義昭にとって、智之がなぜそこまで旅行に心酔するのか理解できなかった。
義昭の大学から参加した他の短期留学生たちは同じ大学の留学生とだけでなく、他大学の留学生や現地に滞在している日本人たち、中には現地のアメリカ人の大学生とも仲良くなっているのに対し、義昭がこの留学中、言葉を交わしたのは智之だけだった。同じ授業をとっていても、こうして交流会に参加していても、誰にも話しかけないし、誰からも話しかけられなかった。
だが、そんなこと義昭は気にも留めていなかった。
今日は、ルイは現れるのかな……
義昭の関心事は、類を遠くから眺められるかどうか、だけだったからだ。
だが、打ち上げパーティーに類が現れる事はなく、義昭はがっくりと肩を落とした。
その時、ひとりの男から声を掛けられた。
「なぁ、今夜……秘密の集まりがあるんだが、参加しないか?」
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