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478.冷えていく気持ち

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 すると、琴子が泣き出した。

「ごめっっ……ごめ、ね……よし、くん!! ウゥッッ」
「か、母さん!?」

 義昭は狼狽し、激しく肩を震わせながら泣いている琴子を見つめた。

「お母さん、が……まともに、産んであげられなかったから……お母さん、の……育て方が、悪かったから……ヒグッ義、くんは……こ、んな……
 お母さんが、悪い……ウッ、ウッ……おか、さんが……ウゥッ、全部、悪いの……ッグ……」



 なん、で……



 義昭は絶句した。

 罵倒されるより、拒絶されるよりも、辛かった。

 自分は、生まれた時からまともではなかったのか。母の育て方が悪かったせいでこんな風になった自分とは、なんなのだ。自分は、不完全な、まともではない人間だということなのか。

 ゲイであることは、同性を好きになることは、いけないことなのだろうか。性的魅力を感じることは、罪なのだろうか。人として間違っているのか、狂っているのか……

「ごめっ……ごめ、なさ……っっウゥッ……義くん、ごめっっ……ウゥッ」

 泣き続ける母を前に、義昭は愕然とした。

 母さんを、大切な母さんを悲しませてしまった。幻滅させてしまった。
 僕が、僕が……、ばかりに。

 母さんにだけは、全て受け入れてもらえていると思ってたのに。

「か、母さんの……せいじゃ、ないよ」

 義昭は自分に残っている精一杯の優しさを掻き集め、そう答えた。

 母に悪気がないことは分かっている。自分を愛してくれていることも。だから、義昭を責めることなく、自分を責めたのだ。

 そう自分で自分に納得させようとしても、気持ちが収まらない。今まで感じたことのない訳の分からない、名前のつけようのない感情がモヤモヤと湧き出て、自分の心を支配していく。

 琴子が涙を浮かべたまま、義昭を見つめた。少し躊躇してから、両手で義昭を抱き締める。

「お父さん、には……ッッ……絶対に、言わないから。隠して、おくから、ねッグ」
「う、ん……」

 まるで、安いドラマのようだと感じた。

 今まで自分を心から愛し、慈しんで育ててくれたと思っていた母が、偽りの愛情で自分を包んでくれている。ゲイである息子を心の中で拒絶しているのに、それを必死で見せないようにし、理解ある母親を演じている。

 父にゲイであることを知られたら、義昭は即座にこの家を追い出されるだろう。大学進学どころか高校さえ中退となり、働き、自分で生活していかなくてはならなくなる。

 そんなことを心配して、母は自分を安心させようとして、そう言ってくれているのだ。

 頭では分かっていても、今まで全てを受け入れてくれていた母に自分の存在を否定された気がして、義昭の心がスッと冷めていくのを感じた。
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