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477.母からの問いかけ

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 翌日、学校から帰ってきた義昭は母に呼ばれた。

「義くん……聞きたいことがあるの」
「なに、母さん?」

 琴子は躊躇いながら、居間にあった箪笥の引き出しから何かを取り出して、ちゃぶ台の上に載せた。

「ぁ……」

 それは、義昭が買ったゲイ雑誌だった。

「これ……今日、義くんの部屋を掃除してた時に出てきたの」

 琴子は偶然見つけた風を装って話しているが、明らかに嘘だった。

 義昭は雑誌を母に見つからないよう、慎重に扱っていた。今朝部屋を出る前にも、雑誌が引き出しの中にあるのを確認し、鍵をしっかりと掛けておいたのを覚えている。普通に掃除するぐらいでは、絶対にこの雑誌を見つけることはできないはずだ。

 ほんの一瞬、母に対して怒りの気持ちが湧き上がるものの、それほどまでに心配をかけていたのだと思うと、義昭は琴子を責める気持ちにはなれなかった。

 それよりも、自分の性癖を知られてしまったことに愕然とする。

 母さんには。母さんだけには、知られたくなかった……こんな、気持ち悪い自分を。
 僕を受け入れてくれるただひとりの人間である母さんに拒絶されたら、僕はこの先、生きていけない。

「ぁ、の……これ、は……」

 どう言い訳しようか一生懸命頭を回転させようとしても、うまく回らない。パニックで混乱し、何も口から言葉が出てこない。

 琴子は正座したまま、コクリと喉を鳴らした。



「義、くん……男の人が、好き……なの?」



 義昭もまた、ゴクリと唾を飲み込んだ。

 男の、人……

 ここにあるのは、ゲイ雑誌ばかりだ。自分は、男が好きということなのだろうか?

 言われてみれば、自分が買うのは男性が載っている雑誌ばかりだ。性的欲求がそそられない写真もあるが、明らかに女性よりも男性に興奮を覚える。

 まだ、義昭は自分のセクシュアリティに対して確信を持てなかったが、母に男が好きと言われれば、そんな気がしてきた。それに、縛られている、甚ぶられている姿を見て興奮すると打ち明けることは、ゲイであると告白するよりも恥ずかしく惨めな気がした。

 義昭は、母親をそっと見上げた。

 琴子は、微かに震えていた。瞳が潤んでいる。息子が同性が好きだという時事実に、酷くショックを受け、打ち拉がれているのが窺えた。

 母親を傷つけたくないという思いが、義昭の胸に湧き上がる。

『これは、無理やり友達に押しつけられたもので、僕の趣味じゃないから』

 そう言おう。そして、これからはもっと気をつけよう。絶対に母さんに見つからない場所に雑誌を隠して、自慰も減らして、成績を落とさないようにして。

 母さんには、母さんにだけは……見捨てられたくない。

 琴子が再度、震える声で尋ねてきた。

「男の人が……好きなの、ね?」

 疑問形であっても、今度は確信に近い疑問。

 義昭は、否定することができなかった。

「ぁあ……」



 もう、終わりだ。
 僕はこれから、孤独に生きていかなくちゃいけないんだ……



 絶望で、目の前が真っ暗になった。
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