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475.義昭の本質
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チョコレートケーキを食べている途中の最高のタイミングで、車が駐車場に入ってくる音が聞こえてきた。
義昭の胸が、最高潮に高鳴る。心臓がキューーッときつく締め付けられ、痛くて……快感に震える。
車のエンジン音がやみ、しばらくして玄関の鍵が開けられる音がした。
もうすぐ、もうすぐだ……
義昭は、口の端にわざとチョコクリームをつけた。
リビングの扉が開けられる。
「おかえり」
とびきりの笑顔で迎えた。
ダイニングテーブルに座り、チョコケーキに食らいつく義昭を見て、美羽は予想通りの反応を見せた。背後にいた類が、短く呻き声を漏らす。
「よ……義昭、さんっ……そ、それっっ」
用意していた答えを、口にした。
「これ、美羽が作ってくれたんだな。ありがとう」
ニヘラと笑うと、美羽はゾクリと躰を震わせた。
このチョコレートケーキ、せっかくルイのために作って渡そうと用意してたのに、な。
僕が、憎いだろう? あぁ、感じるよ……君の憤りを。憎しみを。怒りを。悲しみを……
「今までバレンタインなんて何もなかったのに、こんなことしてくれるなんて……嬉しいよ」
だってこれは、僕のためのものじゃない。ルイにあげたかったんだもんな?
美羽の顔がますます青褪めた。
「そ、う……よかっ、た。わた、し……シャワー、浴びてくる」
リビングを飛び出す美羽に、類が「ミュー!!」と必死に呼びかけた。類の切ない声に、義昭の胸がギュッときつく絞られる。
あぁっっ、僕はなんてことをしてしまったんだ! ふたりは今夜、ようやく長年の想いを遂げられるかもしれなかったのに。僕は、ふたりの艶かしい場面を、見られるかも、聞けるかもしれなかったのに!!
「っざけんな……」
押し殺した怒りの呟きが類の口から小さく漏れ、義昭の全身に稲妻に打たれたような戦慄が走る。
あハァ……これ、だ。ハァッ、ハァッ……堪らない!! そうだ、僕が求めてるのはこれだ。ルイが、ルイが僕を、こんな僕のことを、強く感じている。強い憎しみをぶつけてくれている!
さぁ、ハァッ早く……早く、お仕置きしてくれ。イケナイ僕を、君を貶めてしまった僕を、痛めつけてくれっっ!!
次の瞬間、類は義昭に貼り付けたような笑みを見せた。
「ヨシ、チョコケーキ食べてたら喉乾かない?
お茶でも入れようか?」
義昭は、喉仏を大きく上下させた。
「あ、ぁあ……いいな」
ハァッ……ルイ、待っていたよ。さぁ、どんなご褒美を、僕にくれるんだ?
キッチンでお茶の準備をする類を横目にし、恐ろしくて堪らないのに、同時に目がクラクラするほどの興奮に包まれる。
類の態度を見て、義昭は確信した。
類は美羽がバレンタインのためにチョコレートケーキを用意していたことを知っていた。そして、期待していたのだ。
義昭が邪魔したことで、美羽と類が結ばれる道が遠ざかってしまったかもしれない。美羽の類に告白する覚悟を、大きく挫いてしまったかもしれない。
先ほどの、ショックを受けた美羽の顔が義昭の脳裏に蘇る。
こんなことをしていたら、いつか僕は美羽に離婚され、捨てられてしまうんんじゃないか。ルイとふたり、手を取り合い、どこか遠くへ行ってしまうんじゃないだろうか……
そう思うと、怖くて仕方ないのに……嫌われる言動をして自分を甚振ることに、堪らなく快感を覚えてしまう。自分でも厄介だと分かっているのに、止められない……
美羽が世間体のために、僕との離婚に踏み切れないことは分かってる。だが、そのハードルを超えてしまったら……僕は、どうなるんだろう。
義昭はブルッと身を震わせた。
母さんに、思われてしまうのだろうか。
僕はやっぱり……ゲイだったのだと。不完全な、人間だったのだと。
母さんは、何も僕を分かっていない。僕の本質を、理解してなどいないのに。
義昭の胸が、最高潮に高鳴る。心臓がキューーッときつく締め付けられ、痛くて……快感に震える。
車のエンジン音がやみ、しばらくして玄関の鍵が開けられる音がした。
もうすぐ、もうすぐだ……
義昭は、口の端にわざとチョコクリームをつけた。
リビングの扉が開けられる。
「おかえり」
とびきりの笑顔で迎えた。
ダイニングテーブルに座り、チョコケーキに食らいつく義昭を見て、美羽は予想通りの反応を見せた。背後にいた類が、短く呻き声を漏らす。
「よ……義昭、さんっ……そ、それっっ」
用意していた答えを、口にした。
「これ、美羽が作ってくれたんだな。ありがとう」
ニヘラと笑うと、美羽はゾクリと躰を震わせた。
このチョコレートケーキ、せっかくルイのために作って渡そうと用意してたのに、な。
僕が、憎いだろう? あぁ、感じるよ……君の憤りを。憎しみを。怒りを。悲しみを……
「今までバレンタインなんて何もなかったのに、こんなことしてくれるなんて……嬉しいよ」
だってこれは、僕のためのものじゃない。ルイにあげたかったんだもんな?
美羽の顔がますます青褪めた。
「そ、う……よかっ、た。わた、し……シャワー、浴びてくる」
リビングを飛び出す美羽に、類が「ミュー!!」と必死に呼びかけた。類の切ない声に、義昭の胸がギュッときつく絞られる。
あぁっっ、僕はなんてことをしてしまったんだ! ふたりは今夜、ようやく長年の想いを遂げられるかもしれなかったのに。僕は、ふたりの艶かしい場面を、見られるかも、聞けるかもしれなかったのに!!
「っざけんな……」
押し殺した怒りの呟きが類の口から小さく漏れ、義昭の全身に稲妻に打たれたような戦慄が走る。
あハァ……これ、だ。ハァッ、ハァッ……堪らない!! そうだ、僕が求めてるのはこれだ。ルイが、ルイが僕を、こんな僕のことを、強く感じている。強い憎しみをぶつけてくれている!
さぁ、ハァッ早く……早く、お仕置きしてくれ。イケナイ僕を、君を貶めてしまった僕を、痛めつけてくれっっ!!
次の瞬間、類は義昭に貼り付けたような笑みを見せた。
「ヨシ、チョコケーキ食べてたら喉乾かない?
お茶でも入れようか?」
義昭は、喉仏を大きく上下させた。
「あ、ぁあ……いいな」
ハァッ……ルイ、待っていたよ。さぁ、どんなご褒美を、僕にくれるんだ?
キッチンでお茶の準備をする類を横目にし、恐ろしくて堪らないのに、同時に目がクラクラするほどの興奮に包まれる。
類の態度を見て、義昭は確信した。
類は美羽がバレンタインのためにチョコレートケーキを用意していたことを知っていた。そして、期待していたのだ。
義昭が邪魔したことで、美羽と類が結ばれる道が遠ざかってしまったかもしれない。美羽の類に告白する覚悟を、大きく挫いてしまったかもしれない。
先ほどの、ショックを受けた美羽の顔が義昭の脳裏に蘇る。
こんなことをしていたら、いつか僕は美羽に離婚され、捨てられてしまうんんじゃないか。ルイとふたり、手を取り合い、どこか遠くへ行ってしまうんじゃないだろうか……
そう思うと、怖くて仕方ないのに……嫌われる言動をして自分を甚振ることに、堪らなく快感を覚えてしまう。自分でも厄介だと分かっているのに、止められない……
美羽が世間体のために、僕との離婚に踏み切れないことは分かってる。だが、そのハードルを超えてしまったら……僕は、どうなるんだろう。
義昭はブルッと身を震わせた。
母さんに、思われてしまうのだろうか。
僕はやっぱり……ゲイだったのだと。不完全な、人間だったのだと。
母さんは、何も僕を分かっていない。僕の本質を、理解してなどいないのに。
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