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462.あんなことがなければ……
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目黒川を背にし、美羽と隼斗は西郷山公園へと向けて歩いていた。
「美羽、もう気分は大丈夫か?」
「うん、ありがとう……隼斗、兄さん」
隼斗の気遣いを感じ、美羽の気持ちが沈んでいく。
「あ、の……」
「ん、なんだ?」
隼斗の声音には、美羽に対する嫌悪は微塵も感じない。それに安堵しつつも、申し訳ない気持ちにもなる。
「いつから、私たちの会話……聞いてたの?」
「龍也が美羽に、『結婚の挨拶よりも大事なことだったのか』って言ってて、それでピンときた」
「そ、う」
それほど、隼斗兄さんにとって特別な1日だったのに、私は……
美羽は深く項垂れた。
「ごめん、なさいッッ。隼斗兄さん、私……ッッ」
「美羽が謝ることじゃない。きっと俺たちは……あのことがなくても、別れてた」
美羽を傷つけないようにと心配りをする優しすぎる隼斗の言葉は、逆に美羽に更なる罪悪感を植え付け、苦しませた。
「そんなこと絶対にない!! 隼斗兄さんと絵麻さんはお互いに愛し合ってて……あんなことがなかったら、あの日私が余計なことさえしなければ、関係が壊れることは絶対になかった!!
ッグ……取り返しがつかないことを、しちゃった……」
隼斗が美羽の頭を軽くポンと撫でる。
「俺のことは、気にするな。美羽が幸せでいてくれればいい」
そう言って美羽の前を歩く隼斗の姿が、どんどん滲んで形が朧げになっていく。
私が義昭さんと結婚して幸せに暮らしていると信じて疑わない、隼斗兄さん。
隼斗兄さんを不幸にしてまで手に入れたものは、いったいなんだったの……
そして今、私は更なる罪を重ね、弟である類と不義を交わし、隼斗兄さんを裏切ってる。
どうしたって、罪を濯ぐことなんてもう、出来ない……
公園へ戻ると、浩平の姿を遠目に確認できた。夢中でお弁当を食べている姿に、なんだかホッとする。
こちらに向けられている視線に香織が気づき、手を振ってきた。美羽も軽く手を振ると、香織が靴を履いて駆け出してくる。
美羽のところまで来た香織が、息を切らしながら美羽の両肩をギュッと握り、心配そうに顔を覗き込んできた。
「美羽、気分悪くなったの!? 大丈夫!?
隼斗さんを送り出したと思ったら、今度は類くんが血相変えて飛び出してくんだもん、ビックリしたよー」
先ほどまで類と抱き合っていたことを思い出し、美羽は後ろめたい気持ちになった。香織は、突然自分を置き去りにして姉を追いかけて行った恋人のことをどう思ったのだろう。
かおりんは、純粋に私のことを心配してくれてるのに、私は……かおりんを裏切ってばかりだ。
香織から目を逸らしたい気持ちをおさえ、微笑んだ。
「心配かけて、ごめんね……」
今だって、こうして……何食わぬ顔して、かおりんに笑顔を向けている。最低、最低だ……私。
類はかおりんと恋人になることが、私たちの関係を誰にも疑われないためには一番の方法だと言われて理解はしたけど……だからといって、気持ちを切り替えることなんてできない。どうしても、罪の意識を覚えずにはいられない。
香織は、美羽と隼斗の背後を覗き込むような仕草を見せた。
「あれっ、龍也さんと類くんは?」
龍也がデタントに入った頃は「河中さん」と呼んでいた香織だったが、すぐにか「龍也さん」と呼ぶようになっていた。
「今、酒を買いに行ってる」
隼斗が答えた。
「そっか。まだお酒、買ってなかったんだね」
「美羽、もう気分は大丈夫か?」
「うん、ありがとう……隼斗、兄さん」
隼斗の気遣いを感じ、美羽の気持ちが沈んでいく。
「あ、の……」
「ん、なんだ?」
隼斗の声音には、美羽に対する嫌悪は微塵も感じない。それに安堵しつつも、申し訳ない気持ちにもなる。
「いつから、私たちの会話……聞いてたの?」
「龍也が美羽に、『結婚の挨拶よりも大事なことだったのか』って言ってて、それでピンときた」
「そ、う」
それほど、隼斗兄さんにとって特別な1日だったのに、私は……
美羽は深く項垂れた。
「ごめん、なさいッッ。隼斗兄さん、私……ッッ」
「美羽が謝ることじゃない。きっと俺たちは……あのことがなくても、別れてた」
美羽を傷つけないようにと心配りをする優しすぎる隼斗の言葉は、逆に美羽に更なる罪悪感を植え付け、苦しませた。
「そんなこと絶対にない!! 隼斗兄さんと絵麻さんはお互いに愛し合ってて……あんなことがなかったら、あの日私が余計なことさえしなければ、関係が壊れることは絶対になかった!!
ッグ……取り返しがつかないことを、しちゃった……」
隼斗が美羽の頭を軽くポンと撫でる。
「俺のことは、気にするな。美羽が幸せでいてくれればいい」
そう言って美羽の前を歩く隼斗の姿が、どんどん滲んで形が朧げになっていく。
私が義昭さんと結婚して幸せに暮らしていると信じて疑わない、隼斗兄さん。
隼斗兄さんを不幸にしてまで手に入れたものは、いったいなんだったの……
そして今、私は更なる罪を重ね、弟である類と不義を交わし、隼斗兄さんを裏切ってる。
どうしたって、罪を濯ぐことなんてもう、出来ない……
公園へ戻ると、浩平の姿を遠目に確認できた。夢中でお弁当を食べている姿に、なんだかホッとする。
こちらに向けられている視線に香織が気づき、手を振ってきた。美羽も軽く手を振ると、香織が靴を履いて駆け出してくる。
美羽のところまで来た香織が、息を切らしながら美羽の両肩をギュッと握り、心配そうに顔を覗き込んできた。
「美羽、気分悪くなったの!? 大丈夫!?
隼斗さんを送り出したと思ったら、今度は類くんが血相変えて飛び出してくんだもん、ビックリしたよー」
先ほどまで類と抱き合っていたことを思い出し、美羽は後ろめたい気持ちになった。香織は、突然自分を置き去りにして姉を追いかけて行った恋人のことをどう思ったのだろう。
かおりんは、純粋に私のことを心配してくれてるのに、私は……かおりんを裏切ってばかりだ。
香織から目を逸らしたい気持ちをおさえ、微笑んだ。
「心配かけて、ごめんね……」
今だって、こうして……何食わぬ顔して、かおりんに笑顔を向けている。最低、最低だ……私。
類はかおりんと恋人になることが、私たちの関係を誰にも疑われないためには一番の方法だと言われて理解はしたけど……だからといって、気持ちを切り替えることなんてできない。どうしても、罪の意識を覚えずにはいられない。
香織は、美羽と隼斗の背後を覗き込むような仕草を見せた。
「あれっ、龍也さんと類くんは?」
龍也がデタントに入った頃は「河中さん」と呼んでいた香織だったが、すぐにか「龍也さん」と呼ぶようになっていた。
「今、酒を買いに行ってる」
隼斗が答えた。
「そっか。まだお酒、買ってなかったんだね」
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