465 / 498
459.弟の愛
しおりを挟む
「わた、し……お母さんから、暴力……受け、てて……」
「美羽、話さなくていい」
隼斗が制するように強く言ったが、美羽は顔を上げて弱々しく微笑んだ。
私に出来ることは、これぐらいしかないから。
どうか、龍也さんの誤解を解かせてほしい。隼斗兄さんは、何も悪くないのだから。
「あの、日……私、大学の卒業式で……式が終わって家で塞ぎ込んでたら、お母さんが帰ってきて……ハァッ」
あの日の記憶が、ギラギラと照りつける真夏の残照のように、景色も、色も、音も、匂いも、痛みも……何もかもが鮮やかに脳裏に蘇える。
階段を下り、玄関へと向かった美羽に掛けられた鋭い母の声。
『美羽っ! どこへ行くのっっ!!』
髪の毛を強く引っ張られ、思い切り振り回され、チェストに強く打ち付けられた。
『行かせないっ! 行かせないわよっ! あんな悪魔のとこになんか、絶対に行かせるもんですかっっ!!』
怒号が響き、ハイヒールで蹴り付けられ、背中に細いヒールが突き刺さった。
まるで今起こっているかのように、骨にまで沁みるほどジンジンとした痛みを腕に、メリメリと突き刺さる痛みを背骨に感じる。
痛い、痛い、痛い……くる、しぃ。
ごめん、ごめんなさ……ッッ……お母、さん。
美羽の全身が震え、冷や汗が出てくる。
「美羽、やめろ」
隼斗の声が聞こえないほど、耳鳴りが鳴っている。頭が割れるように痛い。
それでも、説明しなきゃ。隼斗兄さんの、誤解を解かないと……
「ハァッ、ハァッ、そ、こにっっ……ハッ、ハッ、隼、斗……ッッ兄、さんが……ハッ、ハッ、ハッ来、て……」
「美羽、もういい! やめるんだ!!」
隼斗が美羽の肩を抱き抱えようとした時、
「ミューっっ!!」
類が、息を切らしながら走ってきた。
「ハッハッハッハッ……る、ぃ……ハァッ」
類の顔を認めた途端、美羽の全身から力が抜け、安堵が広がっていく。
「ッッ類……ハァッ、ハァッ」
良か……た……類、来てくれた……
手を伸ばすと、類もまた手を伸ばす。美羽の手を掴むとグッと美羽を引き寄せ、類が背中に手を回し、抱き締めた。
「ハァッ、ハァッミュ、ミュー……大丈夫、だから。ハァッ……ゆっく、り……息、して」
「る、ぃっ、類、類ぃぃ……ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「いるよ、ここにいる……ッッごめっ、ミュー。
やっぱり、僕が行けばよかった……」
類は躰を震わせ、美羽を抱く腕に力を込めた。
そんなふたりを見て呆然としている龍也に、類が顔を向けた。
「僕は、ミューが怪我したり、ショックを受けたりすると、それが分かるんだ。だから……駆けつけた」
「えぇっ、ほんまに双子ってそないなことあるん!? おもろいなぁ」
類を纏うオーラが、途端に禍々しく変化した。近づいただけで電流が走りそうなほどの、殺気を放っている。
「ねぇ……ミューに何したの?
ミューを傷つけるのは、僕が絶対に許さないから」
「美羽、話さなくていい」
隼斗が制するように強く言ったが、美羽は顔を上げて弱々しく微笑んだ。
私に出来ることは、これぐらいしかないから。
どうか、龍也さんの誤解を解かせてほしい。隼斗兄さんは、何も悪くないのだから。
「あの、日……私、大学の卒業式で……式が終わって家で塞ぎ込んでたら、お母さんが帰ってきて……ハァッ」
あの日の記憶が、ギラギラと照りつける真夏の残照のように、景色も、色も、音も、匂いも、痛みも……何もかもが鮮やかに脳裏に蘇える。
階段を下り、玄関へと向かった美羽に掛けられた鋭い母の声。
『美羽っ! どこへ行くのっっ!!』
髪の毛を強く引っ張られ、思い切り振り回され、チェストに強く打ち付けられた。
『行かせないっ! 行かせないわよっ! あんな悪魔のとこになんか、絶対に行かせるもんですかっっ!!』
怒号が響き、ハイヒールで蹴り付けられ、背中に細いヒールが突き刺さった。
まるで今起こっているかのように、骨にまで沁みるほどジンジンとした痛みを腕に、メリメリと突き刺さる痛みを背骨に感じる。
痛い、痛い、痛い……くる、しぃ。
ごめん、ごめんなさ……ッッ……お母、さん。
美羽の全身が震え、冷や汗が出てくる。
「美羽、やめろ」
隼斗の声が聞こえないほど、耳鳴りが鳴っている。頭が割れるように痛い。
それでも、説明しなきゃ。隼斗兄さんの、誤解を解かないと……
「ハァッ、ハァッ、そ、こにっっ……ハッ、ハッ、隼、斗……ッッ兄、さんが……ハッ、ハッ、ハッ来、て……」
「美羽、もういい! やめるんだ!!」
隼斗が美羽の肩を抱き抱えようとした時、
「ミューっっ!!」
類が、息を切らしながら走ってきた。
「ハッハッハッハッ……る、ぃ……ハァッ」
類の顔を認めた途端、美羽の全身から力が抜け、安堵が広がっていく。
「ッッ類……ハァッ、ハァッ」
良か……た……類、来てくれた……
手を伸ばすと、類もまた手を伸ばす。美羽の手を掴むとグッと美羽を引き寄せ、類が背中に手を回し、抱き締めた。
「ハァッ、ハァッミュ、ミュー……大丈夫、だから。ハァッ……ゆっく、り……息、して」
「る、ぃっ、類、類ぃぃ……ハァッ、ハァッ、ハァッ」
「いるよ、ここにいる……ッッごめっ、ミュー。
やっぱり、僕が行けばよかった……」
類は躰を震わせ、美羽を抱く腕に力を込めた。
そんなふたりを見て呆然としている龍也に、類が顔を向けた。
「僕は、ミューが怪我したり、ショックを受けたりすると、それが分かるんだ。だから……駆けつけた」
「えぇっ、ほんまに双子ってそないなことあるん!? おもろいなぁ」
類を纏うオーラが、途端に禍々しく変化した。近づいただけで電流が走りそうなほどの、殺気を放っている。
「ねぇ……ミューに何したの?
ミューを傷つけるのは、僕が絶対に許さないから」
0
お気に入りに追加
235
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪
奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」
「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」
AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。
そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。
でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ!
全員美味しくいただいちゃいまーす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる